第7話:昇天するほどの快感
俺は「ぬぎっ」と叫んだ。
すると巨大な怨霊はガタガタと身震いを始め、体を覆っていた大量の遺骨がバラバラと地面に落ちていく。
その量はかなりのもので、怨霊の真下に遺骨の小さな山ができた。
その光景に思わず「掃除が大変そうだな」とつぶやいてしまう。
露わになった怨霊の体表は、まるで黒い雲のようだ。
「これで終わり?」
レミさんが俺に質問してくるが、俺にもわからない。
女性から怨霊を脱がすシーンを描いたコマではないのに、無理矢理に拡大解釈して使ったのだ。
結果としてこれで終わっても、文句を言わないでほしい。
「あれを見てください。怨霊が変な動きをしてますよ」
ソラちゃんの指摘した通り、怨霊の異変はまだ続いていた。
怨霊は自身のウエスト辺りを両腕を交差して掴むと、引っ張り上げるように自分の体を上へと動かしていく。
その一連の動きは、まるで濡れたタンクトップを脱ぐような動作だった。
両腕を上げ切ると、なぜか依代を残したまま、怨霊の塊と女性の衣服が浮いていた。
怨霊を脱がすだけのはずが、衣服まで脱げ化ているとは。
拡大解釈率が大きすぎたのだろうか。
「やった! 上手くいき……」
俺が言い終わる前に、依代の女性が落下を始めた。
それはそうだ。今まで怨霊に覆われていたからあの高さにいたのだ。
支えがなくなれば、落ちるのが当たり前。
「ああ、落ちる!」
「慌てるな、ポチ君。もう対処したよ」
ふり返ると、レミさんがソラちゃんの頭に手を乗せ、もう片方の手を依代の女性に向けていた。
「浮遊落下する魔術を使ったから、ゆっくり落ちてくるはずだよ。でも、下は骨の山だからね。ポチ君、早く受け止めに行って」
俺は急ぎ足で骨の山を登り、空を見上げる。
ちょうど3階くらいの高さにいる女性がゆっくりと降りてきている。
体勢は四肢をだらりとさせて、ややうつ伏せ気味。
つまり、俺の視点からは全裸の女性の前面が見えている。
高度がまだあるので、細部はよくわからないが。
このまま待っていれば、胸やそれ以外もしっかりと確認できる。
この異世界に来て、初めて良かったと思える瞬間まであと少し!
俺は両手を天にかざして彼女を受け入れる体勢をとる。
普通ならセクハラになるかもしれないが、この状況は緊急事態だからしょうがない。
胸の感触などを味わってしまうかもしれない。
でも、人命救助だから。破廉恥な行為じゃないから。
「やっぱり、私が受けとめる!」
ずんずんと骨の山を登ってきたレミさんが、勢いよく俺にタックルしてきた。
俺は軽くふっ飛ばされて骨の山を転がり落ちる。
「いてて……急に何するんですか?」
「よくよく考えたら、あの子全裸だった。そんな子をポチ君に触らせるのは倫理上良くないと思い直して」
「むぬぬぬぬ……」
いつもは行き当たりばったりの短慮のくせに、なんで今日に限って配慮できるんだ!
ただ、今回の判断は彼女が100%正しいので、何も言い返せなかった。
くやしいけど。
「ポチ君は、彼女の吹っ飛んだ衣類を探してきて。その辺に落ちてるはずだよ」
「……わかりました」
そうだった。初めから全裸だったわけじゃなくて、俺の魔術で脱がしてしまったんだ。
……今の言い方だと誤解を生みそうだ。
どこかに衣類が落ちてないかと、俺は骨の山を見上げた。
そこで、俺は違うものに目を奪われた。
「レミさん! 脱がせた怨霊が!」
レミさんの遥か上空にいた怨霊の塊が、彼女をめがけて降りてきていた。
レミさんは全裸の女性を抱き留めたところで、怨霊から逃げることは不可能に近い。
「ポチさん! なにか怨霊を浄化する魔術を!」
ソラちゃんが叫んでいる。
浄化の魔術なんてJUピー!には載っていない。
それに近いものはなにかないか?
……浄化…天に召される……昇天……!
それだ!
「開帳、67ページ。拡大解釈率、最大!」
びくびくびくん!
これも『炊き立ての流儀』の擬音だ。
主人公・釜田飯子の出来立ておこわを食べた女性が美味しさのあまり、感じまくって昇天してしまうシーン。
料理を食べて昇天する感覚は俺にはよくわからないが、このコマには天からの光と天使も描かれているので、かなりすごい感覚なのだろう。
これも「ばぃん」と一緒に暗記した擬音。
女性の敵が現れたら使いたいと密かに覚えたもので、ソラちゃんとの練習では使っていない。
擬音を発した直後、怨霊がもぞもぞと身もだえし始めた。
そして、黒かった体が薄いピンク色に変わっていく。
怨霊のエクスタシー。
見ていて全く興奮しないなぁ。
「あああああああああああああああん!」
怨霊のしゃがれた絶叫が草原に響く。
天から伸びた一条の光が怨霊に当たると、煙草の煙が大気に霧散するように、その姿を消していった。
「よくやった、ポチ君」
「浄化というか、昇天というか」
「どっちでもいいよ。怨霊退治は成功したからね」
「それより、その人は大丈夫ですか?」
「そうだった。あまり状態はよくないみたいだ。詳しく診てみるから、ポチ君は衣服の捜索。ソラはリュックから毛布を持ってきて」
俺は山の麓に散らばっていた衣服を拾い集めた。
それは黒のワンピースと黒の下着、黒のブーツと全部黒い。
この女性は何者なのだろうか?




