第5話:縄文土器とピラミッド
「そろそろ供養塔に着きますよ」
昨日と同じく俺の先を歩くソラちゃんが振り返った。
彼女の背後、進行方向がなんとなく明るい。日の光だろうか。
俺は更に歩みを進めてソラちゃんに追いつく。
前方に目を凝らすと、数十メートル先で森が途切れているように見える。
「あぁーもうふたりとも速いよ」
ぜえぜえと息を乱したレミさんが遅れて到着する。
「ん? なに、ポチ君?」
「別に何でもないですけど」
「今朝から私を見る顔が変だよ?」
「そうですか?」
昨夜、ソラちゃんの話を聞いたせいか、レミさんのことを意識してしまっている。
別に好意というわけではない。
俺よりも実年齢の若い彼女がこれまでしてきた苦労を思うと、何か力になってあげたいという感情が芽生えてくるのだ。
「……なんか、村の世話好きおばあちゃんの表情に似ているんだよね」
「おばあちゃんって……」
おばあちゃんっていうのはちょっと納得できない。
今まではここで落胆するところだが、このやり取りもそこまで悪くないと思えるようになった。
ここからは何が出るかわからないので、3人で足取りを合わせて進んでいく。
先ほど見えた森の途切れた場所を超えると、そこはロロリア村の広場くらいの草原のような場所だった。
草原の外周は全てが森。つまり北の森の中にぽっかりと空いた場所ということ。
太陽はまだ頂点に到達していない。朝から歩いて半日とかからずに到着できたようだ。
「ほら、あそこに見えるのが供養塔だよ!」
レミさんが指さした方を見ると、そこには俺の想像とは全く違う建造物があった。
簡単に言うと、パッと見はピラミッドだ。
細部を観察すると、ピラミッドを構成するものは石ではなく器。まるで背の低い円柱の縄文土器だった。器だとわかると、ピラミッドというよりもシャンパンタワーに近い印象だ。
「供養塔を調べてみようか」
レミさんを追って俺とソラちゃんも供養塔に近づいていく。
近くで見ると大量の器には少量の骨が入っていた。
どうやらこれがモンスターの遺骨なのだろう。
「供養塔って言ってたから、もっと塔らしいものをイメージしてたんですけど」
「君の次元とは風習や文化が違うからね。こっちの次元では一般的な形だよ」
ここまでイメージと違うと、この状態が異常なのかどうか俺にはわからない。
判定は彼女たちに任せるとして、俺は念のためにJUピー!を腰紐から外して手に取った。
「外見は特に異常はないみたいだね」
「お姉ちゃん! 器に遺骨がほとんど入ってないよ!」
「あ、それは俺も思ってました」
「もうポチ君! いつもと違うところに気が付いたのなら、ちゃん言ってよー」
「ええー。俺、『いつも』がわかんないんですけど」
俺たちは登らずに目視できる器の中をひとつひとつ確認していく。
そのほとんどが底に少量の骨があるだけだった。
レミさんが言うには下層の器から遺骨を入れていくので、本来は遺骨で一杯らしい。
「遺骨が盗まれたから、モンスターの霊が怒ったということですかね?」
「もーポチ君ってば、妄想家だねー。ただの骨だよ。そんなことあるわけないじゃん。遺骨の供養なんて、人間が安心したいからしてるだけのことだよ」
身も蓋もないことをしれっと言うなあ……。
「では、骨はどこにいったんですか?」
「……それはこれから考える」
真相はわからずじまいか。
「ポチ君、ちょっと登って上の方の器も確認してきてよ」
「えー」
「契約違反になるよ」
「うぅ、わかりましたよ。……これ登ってもバチは当たらないですよね?」
「もし呪われても、私が魔術でどうにかしてあげるから」
「やっぱり霊とかいるんじゃないですか!」
「いるよ。今さら何言ってんのさ。私たちの相手は悪霊でしょ」
「あ、そうでした」
俺はリュックとJUピー!をソラちゃんに預けると、最下層の器に右足を乗せる。
体重で割れてしまうかもしれないので、ゆっくりと重心をかけていくが器はびくともしなかった。土器っぽい見た目だが、かなり硬いようだ。
壊れないとわかったので、上の器に手をかけてどんどん登っていく。
頂上に着いて見下ろすと、高さは建物の2階分くらい。
見下ろしても怖いという高さではなかった。
上層の器を見てみると、こちらも遺骨がなくなっている。
「レミさん! 上の方も器は空になってます。遺骨はどこにもないです」
俺は彼女たちを見下ろして言った。
「ポチ君! 遺骨がどこにあるのかわかった!」
「え、どこですか?」
「君の後ろだ!!」
レミさんの返事が聞こえたとき、急に頭上が暗くなった。
今まで晴天だったのに、太陽が雲に隠れてしまったように。
俺はゆっくりと背後を振り返る。
そこには供養塔より大きな物体がいた。
多種多様な骨が集まり、人型を成した物体。
骨と骨の隙間には黒と紫を雑に混ぜたような色の靄が見える。
「こんな大きなもの。今までどこにいたんですか?」
「近くの森に隠れていたみたいだ! 目撃談にあった奴だと思う!」
「そんなことより、ポチさん早く逃げてください!」
俺はなかば転がるように供養塔を下った。
ピラミッド型で本当に良かった。
これが円柱系のタワー型だったら垂直に落ちていただろう。
どさっと情けない体勢でレミさんの近くにへたり込む。
「ポチ君! いつでも魔術が使えるように準備して! ソラは私の後ろで魔力譲渡の準備!」
「わかりました」
「はい、お姉ちゃん!」
俺はソラちゃんからJUピー!を受け取ると、俺の近くに滞空させる。
こんな大きな奴を相手にするには、どんな擬音を使えばいいのだろか?




