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プロローグ

話の流れは変えずに、描写などを改稿しました。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 俺の名前は保地健一。

 今はとある事情で「ポチ」と呼ばれている。


 関東在住のサラリーマン。36歳。妻子なし。貯金なし。特技なし。

 今はとある事情で異世界に召喚され、魔術師をしている。

 しかも、体は18歳になって。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 この「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ」は地鳴りではなく、俺が唱え続けている呪文だ。

 呪文とは思えないフレーズだけど、俺の呪文なのだ。

 俺だって「大気にそよぐ数多な精霊たちよ……」ってお洒落ポエムみたいなやつが良かった。

 普段なら恥ずかしくて言えないお洒落ワードを思いっきり声に出して言ってみたかった。


「ポチ君! 威嚇はその辺にしてトドメをさせ!」


 俺に催促しているのは、俺を召喚した魔術師のレミさん。

 メガネ美人だが、適当で大雑把な性格。

 一応、俺の雇い主的な存在だ。


「……初実戦がコレですか?」


 俺は今、レミさんたちと魔術の訓練でとある森にいる。

 そして、凶暴そうな熊と対峙している。

 熊との距離は2車線道路の反対側の歩道くらいだろうか。

 しかも、ただの熊ではない。

 体毛が真っ赤で頭部には角。口元ではボッ、ボッと炎が爆ぜている。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 俺の『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ』の効果で、対峙している熊は警戒して動かない。

 こちらを睨み付け、威嚇するように「グルルル」と喉を鳴らすだけだ。


「そいつは火熊っていう、この森ではちょっと強いモンスターだよ。ポチ君の魔術を試すにはちょうどいいかと思ったんだけど? もっと強い方が良かった?」

「逆です! もっと人畜無害そうな外見の雑魚にするべきでしょ!」

「つまんないこと言うなあ、ポチ君は。やるならドーンと派手にいこうよ」


 「コンビニにお菓子買いに行こうよ」くらいの軽い口調でレミさんが言う。

 この人に緊張感はないのだろうか?


「ポチさーん。失敗しても私とお姉ちゃんでサポートしますからー。とりあえず、トドメの魔術を使ってみましょうよー」


 レミさんの隣りで一生懸命叫んでいるのは、彼女の妹・ソラちゃん。

 見た目は小学生くらいだろうか。

 姉と違って、しっかり者で常識人だ。


 ソラちゃんが俺に魔術を使えと呼びかけるということは、実戦中止は物理的に不可能ということか。

 膠着状態が解かれた瞬間、俺はこの火熊に殺されるのだろう。

 ここはとりあえず試してみて、ダメだったら後ろのふたりにどうにかしてもらおう。


 俺は意を決すると、すーっと息を吸った。

 自分の左前方でふよふよと滞空している魔術書を視界の隅に捉え、一気に魔術発動の準備を進める。


「開帳、227ページ!」


 俺の声に反応するように、魔術書は自動的にページをめくって指定したページを開く。 

 本当に正しいページが開いているのか確認したいけど、火熊から目をそらす気にはなれない。

 だから、このまま続ける。


「拡大解釈率、最大!」


 術式の威力も指定できた。あとは再現させるだけだ。

 俺は右手の拳を握りしめると後ろに引き、勢いよく火熊に向けて突き出す。

 呪文とともに!


ズドン!


 目の前にいた火熊のメタボ気味な腹が大きく凹む。

 そして、次の瞬間にはその体が跡形なく消え去ってしまった。


「やった! うまくいきましたよ!」


 後ろを振り返るとレミさんとソラちゃんがこちらに駆け出していた。

 初実戦を成功させた俺に称賛の抱擁でもしてくれるのだろうか。

 それはそれで初実戦なので心の準備ができていない。


「なんで最大にしたのさ! しっちゃかめっちゃかになってるじゃん」


 レミさんが俺の頭を勢いよく叩く。

 「スパーン」という乾いた音が森に響いた。


「何するんですか? 痛い……いや、音はすごかったけどあまり痛くないかも」

「的確なツッコミだよ! あんな出力で発動するなんてどういうつもりだい?」

「だって、仕留められなかったら俺が死んじゃいますよ」

「だってじゃない。火熊の方を見てごらんよ」


 彼女が指さした先を見る。

 火熊がいた場所の後方にあった木々が、数十メートルほどなぎ倒されている。

 森の中にちょっとした街道ができたようだ。


「あの、ポチさん。確か227ページの魔術は拡大解釈率を変えなくても致命傷になる内容だったと思いますよ?」


 レミさんを追いかけてきたソラちゃんがそう俺に指摘する。


「そうそう。ポチ君の魔術書は特別なんだからさ。もっと慎重に使わないと周りの人に被害が出ちゃうよ」


 レミさんが俺の傍らに浮く魔術書を指さしている。

 俺はそれを手に取り、表紙に目を向ける。


 そこには元気いっぱいの少年が拳を繰り出している姿とともに、何十年も変わらないタイトルロゴが書かれていた。


 『週刊少年JUピー!』


 そう、俺の魔術書は漫画雑誌だった。

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