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四話・謎の人物

六月四日。午前十時。


有明は捜査本部にいた。一件目の被害者と二件目の被害者に接点がないか過去の資料などを調べていた。

そんな有明の元に三橋と里見が駆け寄ってきた。


「有明さん!盗難の件、調べがつきました」


「どうだった?」


「ここ一週間で埼玉県内で発生している車の盗難は駐車場、住宅等の盗難が殆どですが、四件ほどそれ以外の場所から盗まれていました」


「どこだ?」


「車のディーラーです。上尾市内のディーラーに集中しています」


報告を聞いて有明は考えが当たったことを知る。二件目の殺人に使われた黒のワゴンを見て、人が使っているのを盗んだにしてはあまりにも綺麗すぎと感じていた。そこで人から盗んだのでは無いのなら、新品の車を扱う所から盗んだと考えるのが妥当だ。なので盗難被害の中からディーラー等の被害がないかを調べてもらっていた。


「しかしさすが有明警部補ですね。車内の様子から車の盗難の場所を当てるとは」


「ちなみに盗難車の車種も黒のセダン、黒のワゴンと今までの殺人と共通しています」


「あと二件の盗難の車は?」


盗難されたのがディーラーからだとわかって喜んでいる暇はない。何故なら、盗難の被害は四件。そして殺人に使われたのは二台。つまりあと二台の車で、最低二回の殺人が繰り返される事になる。


「白のSUVと紫のワゴン車です」


「よし、すぐに盗難車のナンバーを調べて足取りを追うぞ!」


有明は資料を閉じて盗難被害に遭ったディーラーに向かう。


━━━━━━━━━━━━━━━


有明達は盗難被害に遭ったディーラー二つのうちの一つに来ていた。


「すみません、埼玉県警の有明と申します」


「あぁ、警察の方ですか!ほんとにもう参りましたよ・・・まさかうちの店から盗まれるなんて・・・」


中年の店長らしき男性が汗を拭きながら言う。きっと上から車を盗まれたことで色々言われたのだろう。お気の毒に、と思う。


「防犯カメラの映像を見せて頂けますか?」


「えぇ、こちらです」


里見の催促に店長は事務室に入る。

奥に入った所に数台のモニターと店内の様子が映されていた。


「ちょっと待っててくださいね・・・」


店長が機械を操作する。モニターの画面が録画画面に変わり、早送りで巻き戻しされる。

ここだ!と店長が叫んで一時停止する。時刻は午後十二時。


「再生してもらえますか」


再生ボタンを押すと暗い店内が映し出される。奥から明るいライトの光が揺れるのが見える。そして裏の方に回ると鍵が開けられる音がする。そして店内に入るのを見て一時停止する。


「暗くてよく分かりませんね・・・」


「フードでも被ってるんでしょうか?」


顔が確認できないことを知って再生する。すると画面の人物はカメラに気づくと、懐からもう一つライトを取り出し、カメラに当てる。


「なるほど、光を当てて見えないようにしたか」


そしてしばらくすると犯人の姿は無く、奥の方、外で車が盗まれていくのが映っていた。


「やられましたよ・・・・・・」


「店長、犯人は身近にいると思いますよ」


「え?」


店長はキョトンとした顔をする。


「部外者なら鍵なんて持ってないし、入ってくるならどこか壊してくるはず。でもこの映像と店内を見る限りピッキングの様子はありませんでしたし、ドアが壊された様子もありません。それに犯人は防犯カメラの位置も知っているようでした」


「まさか・・・このディーラーに犯人がいるとでも?」


「さぁ・・・盗難被害に遭ったディーラーは他にもありますからね。そこの人かもしれない。しかしひとつ言えることは、ディーラーの仕事に携わっていないとできない犯行ということです」


有明の話を聞いて店長は頭を抱える。もし自分の所に犯人がいたらきっと責任は店長がとることになるのだろう。


有明は三橋と里見に他の店員にアリバイがあるかを聞いてくるように指示する。


「有明さん・・・やっぱり犯人はその盗んだ車で殺人を・・・」


「可能性だ。可能性を上げて確実なものにするには証拠が必要だよ」


二人に耳打ちして行かせる。


「刑事さん・・・車は戻ってきますよね?」


不安そうに聞いてくる店長に向かって無慈悲にも言う。


「さぁ、どうでしょう。それは・・・犯人次第です」



ディーラーを後にして本部に戻る有明達は車の中で情報共有をしていた。


「どうだった?」


「私の方は皆アリバイはありました。というか時間が時間なので皆さん寝てたとしか言いようがないですね」


「まぁそうなるかぁ・・・三橋の方は?」


「こっちも同じような感じです。受付の人だけはその日は別の人がやってたらしく、まだアリバイは無いです」


「じゃああのディーラーでアリバイがないのはその受付の人だけか・・・」


有明が低く唸ると三橋は違います、というように手を振って言う。


「いや、どっちにしろその人にも無理なようです。当日受付の仕事についてた人はアルバイトの女子大生で、鍵を盗んだりそういう事ができることはないそうです」


「え、ディーラーの受付ってアルバイトでもできるのか?」


有明は今は色々なアルバイトがあるのか、と時代を感じながら考える。ならあのディーラーには犯人はいない。ただの被害者と言うことになる。


「有明さん、そういえばさっき本部で何か調べてましたよね?何か気になることでも?」


「ん?あぁ、被害者に他にも接点はないかと思ってな。過去を調べてたんだが・・・ちっともないな・・・」


「そうですか・・・まぁあおり運転の接点って言っても、改正前なんかはあおり運転なんてあっても中々浮き彫りにはなってませんでしたからね。改正前のあおり運転だったら意外と記録には残ってないのかも・・・」


三橋のネガティブ思考を聞いて里見と有明もつられてネガティブ思考になりかける。


「改正前か・・・」


「実際はもっとあおり運転による事故とかはあったって話ですよね。法を改正しないと浮き彫りにならない現代ってどうなんでしょう?」


里見は顔に憤りを顕にしながら言う。確かに日本は色々と対応が遅い時がある。もっと早く変えていれば助けられたかもしれない。そんな経験は有明は沢山してきた。あおり運転ももっと早く改正されていれば助けられた命があるかもしれない。

何か引っかかる様な感覚に襲われてるが、三橋の携帯の着信音でかき消される。


「はい三橋です。はい・・・・・・え?!」


三橋が飛び上がる。


「どうした?」


「有明さん!盗難された車の一台が今、見つかったそうです!しかも、現在走行中!」


「!」


三橋の言葉に車内に一気に緊張感が走る。すると車内の無線から本部からの連絡が入る。


『全捜査員に告ぐ。現在、車両を使って殺人を繰り返している容疑者が乗っていると思われる車両を発見。ディーラーから盗まれた車両とも一致する。全捜査員は送信されるデータを元に車両と容疑者を確保しろ!』


その無線が終わると同時にスマホにデータが送られてくる。黄色のSUV、ナンバーは上尾200・う221。

捜査本部がある警察署が見えた。


「ここからは別行動だ!三橋と里見で犯人を追え!俺も検問を敷くことを進言してから別車両で犯人を追う!」


「「了解!」」


二人は威勢よく返事をすると警察署で有明を下ろし、すぐに車を発進させる。


「待ってろよ・・・絶対に捕まえてやる・・・」


━━━━━━━━━━━━━━━

六月四日。午前八時。


渚坂と結島は、不安な朝を迎えていた。

昨日、謎の人物が渚坂達をずっと見ていたことを知った渚坂達はすぐに警察署に盗聴器を持って向かった。

しかし、警察署の対応はあまりにも素っ気ないものだった。

盗聴されていた、後ろからずっと追跡されていたことを伝えるが、刑事は「とりあえず様子を見ましょう。勘違いかもしれませんし」とやる気のなさそうな回答をしてきた。そんなわけないだろ、と詰め寄ったが他にも色々と抱えているから、とあしらわれてしまった。

結局、昨日は食欲が出ず、家に帰るなりそのまま寝てしまった。


「茜?大丈夫か?」


「うん、大丈夫・・・それより悠くんも大丈夫?今日仕事だけど・・・」


心配そうに言う結島を見て軽く抱きしめる。


「大丈夫だよ・・・とは言い難いからな。とりあえず今日は電車で通勤するよ。茜もとにかく通勤と帰りには気をつけろよ?何かあったらすぐに連絡しろよ?」


盛大に心配していると結島がクスッと笑ってくる。


「そんなに心配してくれるんだ」


「当たり前だろ・・・」


少し心が和んだ所でふと玄関にある茶封筒を見つける。一昨日から開けるのを忘れていたが、こうなるともはや昨日の犯人からとしか思えない。


「見てみる?」


「・・・うん」


茶封筒を開ける。中にはまた一台のスマホが入っていた。電源を入れ、アプリ画面を開く。昨日と同様写真のアプリしかなく、中身も一つのビデオしか無かった。

そのビデオにはバスの車内が映し出され、誰かの後ろ姿を映していた。


「これ・・・・・・一昨日の通勤中の私だ・・・」


「後ろに誰かいた?」


「えっと・・・」


思い出す。確かにビデオの録画開始音がしたような気がした。振り向いた時にはいなかったが、その時、黒のフードを被った人物が降りていくのを見ていた。


「・・・・・・とにかく今日はなるべく一人にはならないように・・・」


「わかった・・・じゃあ待ち合わせしよう。悠くんの仕事が終わったら一緒に帰ろう?」


「わかった。じゃあ夜七時に浦和駅で」


そう言って渚坂はスーツを着て外に出る。駐車場に目をやる。青の軽自動車の隣には車はなかった。しかし、そのすぐ前を黄色のSUVが通り越すのを見る。

昨日見た車とは違うが無意識にカメラで写真を撮っていた。


「・・・茜、行こう」


「うん」


手を繋いで玄関を出る。歩きながら結島は不謹慎ながらもこんな風に手を繋ぐのは久しぶりだな、と嬉しく思いながら外を歩いていた。


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