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"しあわせ”をください  作者: ゆう
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ひとりめ

優愛が当たり前にこなしていることは本当は当たり前にできることなんかじゃない。私は下の二人を見ることしかできないのも憎い。

気づけば四人で逃げてから一週間が経っていた。ここまで長く逃げられているのは奇跡に近いと思う。でも、たった一つだけ問題があった。最近波留の様子がおかしい。歩くのもおぼつかなくなっている。確かに出会ったころから驚くほど細かったけど毎日水を飲んだりご飯も少しだけど食べてる。なのに、なんでもう駄目になってしまうの?

「波留、聞こえる?これ、何本に見える?」優愛はどこからそんな知識を持ってきたのか波留に指を二本にして見せた。

「4ほん、」波留がそう答えた。異常があるのは間違いない、なのになにもしてやれない。

「ねえ、波留。お姉ちゃん達だけだとお金ももう少ない。それに病院にも連れていけない。お薬も買えない。ごめん。もう少しだけ待って。できる?」お金なら私が持ってる。

「優愛。お金、栄養補給食買えるぐらいのお金なら私が持ってる。今まで一度も私に出させなかったじゃん?だから私に出させてくれない?」元々行くつもりだった。優愛に波留のそばにいてあげてと伝えて近くのドラッグストアに駆け込んだ。


どうしよう。奏が走って行ってしまった。奏がお金を持っているのは知ってる。初めて会った時二千円も渡してきたから。それでも私は奏に何があっても財布を開かせなかった。年上が出すものだと思っていたから。それでも奏は自分の意志で買いに行くと言ってくれた。少しだけ甘えてしまったのかもしれない。今思えば一人で抱えこみすぎだったかもね。

「優愛、これでいいかな。」相当急いでくれたのかな、息が切れて、汗もびっしょりかいて、髪の毛も乱れて、長距離走でもしてきたのかなぐらいの勢いで奏は帰ってきてくれた。

「ありがとう。うん、大丈夫。」急いで封を開いて波留の口に当てる。なのに波留は反応してくれない、どうしよう、私の責任だと頭が回らなくなってくる。救急車を呼ぶのが早いのはわかっているけど呼べば私たち四人とも地獄行き。元の環境に戻されるに違いない。私がみんなを誘わなければよかったのかもしれない。でも誘わなければ少なくとも波留は死んでいたと思う。三人ともどこかほっとけなくて、気づいたら消えて行ってしまいそうで、そんなところが私を呼び寄せたのかな、三人とも全く違う性格なのにどこか似てるんだ。ずっと昔どこかで出会った気がするのに、思い出せない。なんて言っている場合じゃない。今は波留を助けないと。

「お姉ちゃん、もう波留生きたくない、疲れた。」そんな言葉を言ったと思えば波留は目を閉じた。小学三年生に生きたくないなんて思わせてごめんね、家出がこんな真夏の日でごめん。肩で息をしていた波留。しんどかったよね。ごめん、小さな体に負担をかけさせ過ぎたのかもしれない。私たちが50メートルを一緒に走っても波留には100メートルのように感じてしまうのかもしれない。もっと労わってあげればよかった、もっと食べさせてあげればよかった。そんなことを思っている間に波留の胸は動かなくなった。胸に耳を当てると心音はもう聞こえなかった。

終わってしまった。直感でそう思った。8月21日初めての離脱者を出してしまった。一番小さい小学三年生の波留だった。

奏は膝をついて涙を流しながら來を抱きしめ來は目の前で失ってしまった命を見て唖然としている。たくさんの波留との思い出が蘇ってきた、怖くて眠れない夜に子守唄を歌ったこともあった。一緒に河原でお散歩もしたね。たった1週間だったのに今まで過ごしたどんな時間よりも長く感じた。波留を抱きしめて泣いた。それでも波留はうんともすんとも言わなかった。もう本当に終わってしまった。

「優愛姉、波留どうするの?」そうだ、波留をどうすればいいんだろう、放置しておけば法に触れたはず、なによりも私が放置していきたくない。

「わからない、どうするのがせいかいなのかな、」真っ白な頭では考えられなかった。波留がもういないという事実すら受け止められなかったというのにそれ以上のことなんて考えられなかった。

「優愛、海に流すしかないと思う。ここは浜辺だし、誰も来ないよ。きっと。早いうちに流しちゃおうよ。」もうけじめをつけないといけないんだね。波留。

「わかった。すぐ戻ってくる。」私は人気の少ないところで波留を海に流した。

「ありがとう、波留。本当の妹みたいでかわいかったよ。大好き。向こうでも幸せに。」最後に波留の額にキスして。あらぬ誤解を生みそうだけど海外のお母さんたちが赤ちゃんが愛おしくてキスするのと一緒だよ。

2021年8月21日

ハルが帰らぬ人になってしまった。私の責任だ、次はだれが消えてしまうんだろう、考えてはいけないのに、そんな場面があった以上考えずにはいられない。次は私か、カナデか、ライか。それとも私が家を借りれる年(あと半年ぐらい)みんなで生きられるかな、というか生きないと。ハルの分まで。


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