第46話-2 孤島の学園②
この会場にいる暗殺の天使は6人で全員が魔法に頼らない何かしらの武装をしている。
しかし、襲撃に来た暗殺の天使が彼らだけとは考えにくい。最低でも実行委員会や教師陣を抑える役割を担う部隊、そしてこの結界術を実行、守護する者達も存在するはずだ。
そして、彼らの目的は明確。
「マリアンヌ王女。貴女には私達と一緒に来てもろう」
狙いはもちろんマリアンヌ。何処かへ連れて行こうとしているあたり目的は暗殺ではない。
どうやら彼らはフィリップの暗殺を狙う派閥らしい。
しかし、連れて行くとしてもどこに連れて行くのだろうか?
今、学園は外部からの侵入、内部からの脱出が不可能な孤島と化している。
この結界術を構築した暗殺の天使達自身なら解除も可能だろうが外にはセタンタ達革命軍が待ち構えている。
脱出は不可能に思えるが連中も馬鹿ではあるまい。何かしらの脱出する手立てを持っているということだろう。
しかし、その方法にまったく見当が付かない。ここは探りを入れる必要がありそうだ。
「そこをどけ。でなければ殺すぞ」
マリアンヌを連れて行こうとした剣の刺客の前にディオンが守るようにして立ち塞がる。
「貴様如きに殺される私ではない!マリアンヌ様を連れて行かれてたまるものか!」
ディオンは隠し持っていたレイピアを眼前の刺客に突き付ける。
舞踏会ということでほとんどの者は武器など携帯していなかったがやはり王女の護衛たる以上ディオンは別のようだ。
「勘違いするな。殺すのはお前ではない。他の奴らだ」
剣の刺客が目配せすると他の刺客が参加者に向かって武器を突きつける。
邪魔をするなら人質を殺すという分かりやすい脅しだ。
その発言にディオンは尻込みする。ディオンにとっての最優先はマリアンヌであるが一般人を見殺しにすることは騎士として許されない。
ディオンの心は忠誠と騎士道の狭間で葛藤していた。
「果たしてそれが出来るのか?」
ディオンへの脅しに対してグレイシアが挑発的な言葉を投げかける。
「何がだ?」
剣の刺客が眉をひそめた。
「貴様だけでここから王女を連れて逃げ出すことが出来るのかと訊いているのだ」
無論、これはただの挑発ではない。相手の情報を吐かせるための誘導だ。
それに対し剣の刺客は口を噤んだが、男子生徒を撃った銃の刺客が無知な人質を馬鹿にするように嘲笑うと口を開いた。
「残念だがここ以外にもオレ達の仲間は大勢いる!それに脱出する方法もちゃんとあるんだよ」
勝ち誇ったように言う銃の刺客をグレイシアは敢えて馬鹿にするように嗤った。
「酷く具体性に欠ける発言だな。見栄を張るならもう少し賢い返答を心掛けたらどうだ?」
自分の発言を嘘と断じられた挙句、コケにされた銃の刺客は顔を憤怒の色に染めるとグレイシアに怒鳴り散らす。
「なめてんじゃねえぞ!仲間は50人はいる上にマルセルさんの結界術を使えばこんなとこからの脱出どうとでもなるんだよ!」
銃の刺客は挑発に乗り、面白いくらいに知りたかったか情報を喋った。
それに対し、剣の刺客は顔を向け、激昂する。
「何を挑発に乗っている!敵に不用意に情報を……」
その隙にグレイシアは獄門から雪月花を取り出すと剣の刺客との距離を瞬く間に詰め、深々と心臓を突き刺した。
「がっ……」
「!?テメッ……」
銃の刺客が咄嗟に発砲するがグレイシアはたった今殺した剣の刺客を盾にし、弾丸を受け止めた。
「グレン、ジョナサン!」
グレイシアが銃の刺客に斬りかかりつつ2人に指示を出す。
ジョナサンは異能力異空間から籠手を取り出し、グレンに渡しつつ亜空裂断を飛ばし、刺客3人を両断した。
グレンは背を向けて逃げようとする最後の刺客へ装着した籠手の手の部分をワイヤーで飛ばし、捕らえる。
「よくやったな」
銃の刺客を倒し終えたグレイシアが誰一人犠牲者を出すことなく制圧を終えた2人を褒めた。
………………………………………
その後、グレイシアは生け捕りにした銃の刺客ともう1人を連れて別の部屋に行ってしまった。
残されたグレン、ジョナサン、ディオン、マリアンヌらは銃の刺客の攻撃を受けた重傷の青年の手当てにあたっていた。
魔法が使えず治癒系魔術での治癒も不可のため止血するくらいしか出来ることはないがやらないよりはマシだ。
しかし、弾丸は身体を蝕んでいく。死ぬのは時間の問題だった。
「終わったぞ」
そこへグレイシアが1人で帰ってきた。
「お前上着はどうしたんだ?」
「ああ……汚れたから脱いできたよ」
その言葉の意味をディオンはすんなりと理解した。そして、連れ去られた刺客2人がもう死んでるあろうことも。
「色々と分かったことがあるぞ。やはり奴らはこの学校に二種類の結界を張っているらしい。一つは監獄結界。二つめは御伽噺崩し」
監獄結界。結界術に分類され、対象を巨大な魔素の障壁に中に閉じ込める第四階位魔法。
御伽噺崩し。一定の範囲で体内の霊素の活動を停止される結界術でこちらも第四階位魔法である。
「この2つの結界術により、俺達は外に出ることは出来ず魔法も使えないというわけだ。ちなみにこの2つの結界術を構築したのはマルセル・デュラスという男らしい」
「止める方法はあるのか?」
ディオンの尋ねにグレイシアは「ある」と答えた。
「結界術は術者を殺しても止まることはない。だから、この術式が展開されている場に行き、術式を壊せばいい」
「なら……」
「だが、それが何処にあるのか分からん」
根本的な問題にお手上げとばかりに手を挙げるグレイシアにディオンは間の抜けた顔を見せた。
「奴らには結界術の居場所について話すと即死する呪術が付呪されていてな。どんな拷問をしても話してはくれなかった」
その科白にディオン、マリアンヌ、グレン、ジョバンニにウェイターに扮する遊撃部隊5人は顔を顰めた。
それと自然に「拷問をした」と言ったもののアドレナリンが出て興奮しているからかグレイシアの素性を知らない他の者達は気付かなかった。
「じゃあ、どうするんすか?」
「虱潰しにやっていくしかないと言いたいところだが、時間をかけていれば確実にそいつは死ぬだろうな」
グレイシアは仰向けに倒れた男子生徒に目を向けて言った。
「なら……手分けして捜索すれば……」
「奴が言ってただろう?他にも刺客はいる。そこらをうろうろしているらしい。大人数での捜索は禁物だ」
そこへ通信魔具の着信音が会場に鳴り響いた。
皆が誰のだと首を回す中、グレイシアが懐から取り出すと耳に当て普段と違う声で話し始めた。
「こちらポール・ドヌーヴ。……ああ、少し手間取ったが大丈夫だ。……分かった。すぐ急ぐよ」
グレイシアは通話を切ると通信魔具を仕舞い込んだ。
「……今のは?」
「奴らの仲間からだ。念のため持っていた通信魔具を頂戴しておいたんだが、早くマリアンヌを連れて来いと言われたよ。何とか声帯模写で誤魔化したが、バレるのは時間の問題だ」
その発言に一同は慌てふためく。
敵がいつまでも目的であるマリアンヌが来ないのに不審感を抱いているのは明白だ。
このまま何の対策も打たなければ敵は仲間を送り込んでくるだろう。
そうなれば戦いは必須。多くの死傷者が出るだろう。
「かと言って奴らがたむろしているだろう結界を張っている場所を奴らから聞き出すわけにもいかん。どうするか……」
「あの……」
今までずっと黙っていたジュリエットが恐る恐る手を挙げた。
「私もしかしたら結界の場所知っているかもしれないです」
「何?本当ですか!?」
ジュリエットにディオンが詰め寄る。
「はい。ここに来る前、会場とは逆方向に何人か人が向かうのを見まして……その時は関係者の方々かと思っていたのですが……」
「それで詳しい場所は?」
「えっと……すいません。私この学校の構図詳しくなくて……」
それもそうか。今日来たばかりの学校の地理など知っている訳がない。
どうするべきかとディオンは頭を抱えそうになるがグレイシアが言った。
「ならジュリエット様にそちらへ案内して貰えばいいだろう?」
グレイシアの言うことは尤もだった。口で説明出来ないなら直接案内させればいい。
それが一番の解決法である。
しかし……
「駄目だ!それは危険すぎる!」
ディオンはその意見に反対した。
戦闘手段を持たないジュリエットを暗殺者が闊歩する場へ送り出すのは危険極まりない。
それが一般の意見である。
「それについては案がある」
グレイシアはそう言うとどこからか暗殺の天使のトレードマークである白いローブを取り出した。
「これで連中に扮して行けば何も不審がられることはないだろう?仮にバレたとしても俺とお前がいれば大丈夫だ」
グレイシアは自信に満ちた笑みでディオンに向けた。
ディオンは普通に自分が頭数に入れられていることに眉をひそめたもののそれが同時に嬉しくもあり、気が付くと頷いていた。
「ローブは全部で6つある。俺、ディオン、ジュリエットは当然として残りはそこのウェイター3人にしよう」
グレイシアが指名した3人のウェイターはシド、ライオネル、アーロンであり、顔見知りであるディオン、マリアンヌは何も疑問に思わなかったがそれを知らない面々は「何故彼らが選ばれたのだろう?」と首を傾げた。
ちなみにグレイシアの従者であると知られているグレン、ジョナサンを置いていくのはここに残る人々に安心感を持たせるという意図があった。
そして、グレイシアは獄門から取り出した魔道具で血で汚れていたり、破けていたりしたローブを修復するとそれを羽織った。
「では、行くぞ」
6人が出発しようとしたその時……
「待ってください!」
マリアンヌが後ろから6人を引き止める声を上げると驚きの一言を口にした。
「私も連れて行って下さい」
その科白にはグレイシアを含む全員が度肝を抜かれた。
「何を仰いますか!そんな事、護衛として認めめるわけにはいきませぬ!」
ディオンがいの一番に反対するがマリアンヌは首を振った。
「貴方がた6人だけでは目的である私がいないことに不審感抱かれる可能性があります。それなら、私を連れて行った方が確実ではありませんか?」
その指摘にディオンが押し黙る。
彼女の言う通り、グレイシア達がマリアンヌを連れて行かなければ正体が看破されてしまうかもしれない。
それにグレンやジョナサン達の元へその事を怪しんだ暗殺の天使から刺客が送られる可能性も否定出来ない。
つまり作戦の成功を確実にするにはマリアンヌを連れて行くことが必須なのだ。
しかし、ディオンは首を縦に振れない。
仮にマリアンヌに何かあればそれは国家の一大事。ディオンはおろかボーモン家全員の首が飛ぶ。
それ以前にディオンは頭では必要と理解していても自らの主君を死地へと送ることを酷く躊躇していた。
グレイシアもこれには渋面を作っており素直に連れて行こうとはなれなかった。
そんな苦悩するディオンは見たマリアンヌはその手を優しく包むと言った。
「ディオン。王族とは国を治める者である以上、自国の民を守り抜かなければなりません。どうか、私にその責務を果たさせて下さい」
マリアンヌの懇願するような声にディオンは臓腑を抉られるような葛藤に苛まれる。
マリアンヌの在り方はとても尊く、尊重されるべきだ。
しかし、それでもマリアンヌが危険に陥る可能性がある以上、無理をさせるわけにはいかなかった。
そこへマリアンヌは再び優しい声色で投げかけた。
「それに貴女は必ず私を守り抜いてくれる。そうでしょう?」
その科白にディオンはハッとしたように顔を上げるとそこにはマリアンヌの慈悲に満ちた笑みが浮かんでいた。
「ええ、こいつなら大丈夫です。そうだろう?ディオン」
グレイシアが後押しするようにディオンの肩を優しく叩いた。
主人の微笑みの肩に置かれた手に勇気を貰えた気がしたディオンは硬い決心の下、力強く頷いた。
その顔見たマリアンヌは作戦の成功を確信した。




