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第46話-1 孤島の学園①

 「えっ?えっ?」


 いきなり踊り始めた周囲にアリス、グレン、ジョナサンは戸惑った様子を見せる。


 「グレン、ジョナサンは下がっていてくれ。見本を見せてやる。アリス」


 グレイシアはアリスの手を摂るとそのままダンスフロワに誘導した。


 「えっ!?私踊りなんて出来ませんよ……?」


 「俺に合わせてくれればいい」


 そう言うとグレイシアはアリスにあわせたゆっくりとしたテンポで輪舞(ワルツ)を踊り始める。


 「そこで右足を出して」


 「はい……こうですか?」


 「そう。上手だ」


 「……はい!」


 褒められ、頰を緩ませたアリスは短時間で腕を上げていき、すぐにグレイシアと息の合ったダンスが披露出来るようになった。


 「…………」


 そんな2人の様子をディオンはどこか羨望のような視線を向けていた。


 「どうしたの?ディオン」


 「いえ!何も……」


 「そう?なら、私達も踊りましょうか。エスコートお願い出来る?」


 「無論です」


 ディオンは返事とともに雑念を拭い捨てるとマリアンヌの手を摂った。


 「こんな感じだ。分かったか?」


 マリアンヌ、ディオンとすれ違いで帰ってきたグレイシアが尋ねるも2人は浮かない表情で首を傾げた。


 「まあ、見ただけでは何とも言えんか。アリス、ジョナサンに教えてあげなさい」


 「はい、分かりました」


 こういうダンスパーティーは代わる代わるパートナーを代えて続けていくものだが、そこには女性を1人にしてはならないという意図があり、今この会場には女性よりも男性の方が多いため少しくらいルールを無視しても問題はないだろう。


 グレイシアはグレンに輪舞(ワルツ)を教えつつ刺客について話した。


 「お前から見て怪しい奴はいるか?」


 「俺なんかにゃ分かりませんが()()()()()にはいないと思いますよ」


 「そうか。ならばどうする?」


 グレンを試すようにグレイシアは問いかけた。


 「……今の時点でこっちから動くことは出来ません。警戒するしか手はありません」


 「そうだ。くれぐれもマリアンヌ様から目を離すなよ?」


 「はい」


 グレンに一通り輪舞(ワルツ)を叩き込むとグレイシアはこの学校生活の間で顔見知りとなった女子生徒達と踊りながらマリアンヌの監視を行った。


 そして一通りの踊りを終え、一息吐こうとしたのだが、マリアンヌが歩み寄り、手を差し出してくる。


 「一曲宜しいですか?」


 「ええ、勿論」


 グレイシアは笑みを浮かべ了承するとマリアンヌと踊り始める。


 やはり王女である以上幼少期からレッスンを受けていたのだろう。ダンスの腕は高くグレイシアも気兼ねなくステップを踏むことが出来た。


 その様子を周囲の者達は嫉視していた。


 王族と踊ることは名誉なことであり、それが絶世の美女とあらば踊りたくない男はいないだろう。


 しかし、生半可な身分では近づくことすら出来ない上に相応の身分を持ってきたとしてもディオンによる鉄壁のガードに阻まれ、(物理的に)近づくことも出来ない。


 そのため、マリアンヌがディオン以外の誰かと踊るところを初めて見たという者も少なくない。


 だが、2人の踊りはとても美しかった。


 洗練された無駄のない動きとステップはまるで舞台の一幕のように華麗でそこにいた者全員を釘付けにした。


 「綺麗……」 


 アリスは思わず感嘆の声を洩らしてしまうと同時に劣等感にも似た感情を抱いた。


 マリアンヌとの輪舞(ワルツ)の方が自分とグレイシアのものよりも美しいと思ったからだ。


 マリアンヌとのダンス経験の差を考えれば当然の結果なのだが、アリスはそれでも悔しかった。


 グレイシアが自分以外の誰かと完璧な輪舞(ワルツ)を踊っていることが。


 そして、アリスと似た感情を抱き、2人を見ている者がもう1人いた。


 ディオンである。


 ディオンはグレイシアと踊るジュリエットに対して嫉妬にも似た気持ち抱いていた。


 ――本来なら私もこの場でグレイシアと踊れたはずなのに。


 初めて自分が男と偽っていることが煩わしく感じた瞬間だった。


 そして、楽師団(オーケストラ)とジュリエットの歌が終わると同時に2人の輪舞(ワルツ)も終わり、周囲から万雷の喝采が沸いた。


 「少々目立ってしまったようですね」


 グレイシアが肩を竦めるとマリアンヌは淡く微笑み、皆の方へ向いた。


 「本日は聖十字楽師団とジュリエット・ダルモン様の演奏でお届けしました。彼らに大きな拍手を」


 マリアンヌの言葉に再び大きな拍手が鳴り響く。


 「ダンスの時間は終わりましたが、舞踏会はまだ終わりません。皆様方引き続きお楽しみください」


 マリアンヌは頭を下げると楽師団(オーケストラ)の面々に労いの言葉をかけた。


 マリアンヌを無防備な状態にさせるわけにはいかないのでディオンの代わりに側に立った。


 楽師団(オーケストラ)への挨拶を終えるとマリアンヌはジュリエットに声をかけた。


 「本日は素晴らしい歌声を届けてくださりありがとうございました」


 「いえいえ王女様のお呼びとあらば当然です」


 ジュリエットは人の良い笑みを浮かべた。並の男ならこれだけで色々な期待を抱いてしまうだろう。


 「先日の歌劇(オペラ)も観に行かせて頂きました。素晴らしい演技でした!」


 「まあ!本当ですか!?私演技中も客席もしっかり見ているのですがまったく気付きませんでした」


 あれだけの演技をしながら客席にも目を向けているとは驚くべき視野である。


 以前にも思ったことだが、ジュリエットはつくづく暗殺者向きだと思う。

 

 「お忍びで行きましたから。気付かないのも当然ですわ」


 「お一人ででしょうか?」


 「いえ、他にも学友を連れて行きました。横に控えているこの方はその1人です」


 グレイシアはマリアンヌの紹介に預かると丁重に頭を下げた。


 「こんにちは。私、エドモン・ド・ピコーと申します」


 「初めまして。ジュリエット・ダルモンです」


 ジュリエットも頭を下げ、2人は握手を交わした。


 「まさか舞台でお目にかかった人気女優である貴女とこうして言葉を交わせることの出来る機会が来るとは思ってもいませんでした」


 「私も噂に名高いピコー伯爵に会えて光栄でございます」


 「おや?私のことをご存知でしたか」


 「はい。私、慈善活動を行なっているのですがその時によく名前をお聞きします。貴族でありながら恵まれぬ人々のために尽力していると」


 思わぬところに接点があったものだ。


 それなら貴族社会とかけ離れた身分であるジュリエットがグレイシアを知っているということも合点がいく。


 「持たざる者へ施しを与えるのは貴族として当然の行いです」


 「いえ、それをしようとする方は少ないものです。貴方はとても立派だと思います」


 ジュリエットは尊敬の眼差しをグレイシアに向けてきた。


 これは世辞ではなく、彼女の本心のようだ。


 そこで思い出したグレイシアはジュリエットに尋ねてみることにした。


 「私、実は貴女の演技に関して興味ある点が……」


 その時、会場の扉が乱暴に開かれ、憔悴した表情の男が駆け込んできた。


 「大変だ!外に結界が張られて外に出られない!」


 男の言葉に会場に動揺が波及する。


 「ピコー!」


 そこへ空気を読んで距離を取っていたディオン、アリス、グレン、ジョナサンが駆け寄ってくる。


 「まさか刺客か?」


 「可能性はあるな。お前達はマリアンヌ様の護衛を。俺は結界の詳細について……」


 「その心配はない」


 声とともに白のローブを纏った者達がどこからともなく現れた。


 唯一の侵入経路である入り口から入ってこなかったのを見ると元々この部屋に潜んでいたようだ。


 ――しかしどこから?


 「全員静かに大人しくしろ。でなければ殺す」


 そう言った1人が銃を天井に発砲し、威嚇した。


 「何を……」


 その脅し文句に反感を抱いた男子生徒の1人が魔術を発動させるべく詠唱するが何故か術式が構築されなかった。


 「え?」


 次の瞬間、男子生徒は胴体を撃たれて倒れた。


 血を流し、呻く男子生徒を見て会場がパニックとなる。


 「静かにしろと言ったはずだ!」


 「どういうことだ?」


 魔術が発動されなかったことを不審に思ったグレイシアは無詠唱での術式構築を試みるも霊素(オド)のコントロールが上手くいかず霧散する。


 ――どうやら何か仕込んだらしいな。


 グレイシアは敵が何かしらの細工をしたのだということにすぐに気付いた。


 つまり魔法は封じられたということだ。


 そうなってくると逃げるのが得策であるが外は結界で覆われているという。仮に結界が学園の敷地より内側に張られているのだとすれば逃げれない上、セタンタ達の増援も期待出来ない。


 つまりこの学園は助けの及ばない孤島と化したわけだ。


 騒然とする会場でグレイシアは1人解決策を模索し始めた。

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