第45話-3 学園舞踏会③
当日、白を基調とした衣装に身を包んだグレイシアはエデ、アリス、グレン、ジョナサン、トーリ神父を引き連れ学園へ向かっていた。
この3日で山積みだった問題は全て解決し、無事舞踏会開催に漕ぎつくことが出来た。その幾つかにグレイシアも力を貸したのは内緒である。
学園内には既にウェイターとしてシド、ライオネル、アーロン、シルヴァーナが忍び込んでおり、不審者が隠れていないか確認してもらっている。
「……やはり私が行くのは場違いではないのかね?」
珍しく神父服以外の衣装を着たトーリ神父が肩身が狭そうに洩らす。
この話を持ちかけた時からトーリ神父はかなり消極的でグレイシアは説得するのにかなり時間がかかった。
しかし、マリアンヌの身のためということで何回も頼み込み根負けさせて連れてきたという経緯もあり、トーリ神父はずっとこの調子である。
「今更らしくない弱音を洩らさないで自信をお持ちください。今の貴方舞踏会に出ても恥ずかしくない立派な老紳士なのですから」
「そうですわよお爺様。凄く格好良いですわ」
「まるで親に宥められる駄々をこねる子どものように扱われている気がするが……まあ、ここまで来たのだ。今更帰るのもみっともない。仕事を果たす気でいこう」
グレイシアとエデの説得に引っかかりを覚えたトーリ神父だったが気にしても無駄だと悟り大人しく着いていくことにした。
そうこうしている内に学園に到着し、門を潜ろうとすると警備員の1人がゆっくりと近づいてくる。
いつもと違い地味な制服姿であるもののそれがセタンタだということはすぐに気が付いた。
そして、すれ違う時にさりげなく紙を受け取り広げる。
「周辺には特に不審な者はいない……か」
紙に書かれた内容を読み終えるとポケットに無造作に詰め込む。
「あいつのことだ。手抜かりはないのだろうが……」
セタンタの腕に今更不安はない。
しかし、何一つ不安要素が出てこないというのはかえって不気味だ。
後手に回るのは不本意だが仕方あるまい。いるかも分からない刺客が尻尾を出すのを待つしかないのだ。
そんな考えを巡らせながら会場の扉を開けると視線が一気に自分に向けられるのを感じた。
「来たぞ……」
「婚約者のエデ嬢もいるじゃないか。お美しい……」
「おい……ピコー家の賢者トーリ神父までいるじゃないか!」
グレイシア一行の登場で場は一気に騒がしくなるが当の本人達は気にも留めてない様子で(グレンやジョナサンも慣れた)ウェイターの元へ飲み物を取りに向かう。
ウェイターはこちらに気付くと盆に乗ったグラスをこちらに差し出してくる。
「……学園内を粗方調べましたが刺客らしき者は見つかりませんでした」
「ありがとう」
グレイシアはウェイター――シドに他人に聞かれてもおかしくない文言で礼を言うと離れていった。
「中にも敵はいないか」
だが、油断は出来ない。マリアンヌはまだ来ていないようなのでグレイシア達はしばらくの間、他の参加者と会話に興じていた。
グレイシアの会話相手は生徒よりも繋がりを持ちたいその保護者が多く、娘のいる者は婚約させようとしてくる者もいたがエデの鉄壁のガードに防がれその目論見は外れることになった。
その際、アリスは不満そうに頬を膨らませていた。
グレイシアが上辺だけの中身のない会話に飽き飽きしてきた時だった。
扉が開かれ白百合の姫君が現れた。
花の形を模したフリルがあしらわれた自慢の豊かな曲線を強調した美しいドレス姿の王女にその場にいた全員が目を奪われる。
その色香に引き寄せられように主に男達がマリアンヌに近づいていくが主を守るように前へ出た儀礼服姿の騎士――ディオンが睨みをきかせるとすごすごと下がっていった。
しかし、ただ1人だけ――グレイシアがそれを恐れずにマリアンヌの前に出ると自分の胸に手を置き、淡く微笑んだ。
その笑みに淑女の心は一瞬で奪われる。
「ご機嫌ようマリアンヌ王女殿下。本日のお姿大変美しゅうございます」
「ご機嫌ようエドモン・ド・ピコー伯爵。そのお言葉大変光栄ですわ」
マリアンヌは礼の言葉とともに顔を綻ばると紳士の心を射すくめた。
「皆様、ようこそお越し下さいました。フランソワ王国第一王女マリアンヌ・ジョゼフ・ジャネット・ド・フランソワでございます」
その名乗りに一同が万雷の拍手を鳴らす。
「本日は素敵な来客様もお呼びしているのでどうぞ心ゆくまでお楽しみ下さい。それではどうぞ」
すると再び扉が開かれ、様々な楽器を携えた楽師団が入場してくる。
しかし、皆が目を奪われたのはまったく別ものであった。
「おい……あれ!」
「間違いない!ジュリエット・ダルモンだ!」
楽師団を率いて登場したのは薔薇のような黒赤色のドレスで着飾ったジュリエット・ダルモン。
人気女優の突然の登場に会場は一気に色めき立つ。
そして、その美しい歌声とともに楽器の音色が奏でられるとそこはダンスフロワに変わり、パートナーの手を取り合うと自然と踊り始めたのだった。




