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第43話-2 裏歌劇②

 「さて、情報も聞き出したし行くぞ」


 捕まえた刺客2人の尋問及び拷問を完了したグレイシアはディオンを引き連れ、残りの刺客が潜む場所へ向かい出した。


 ちなみに2人の刺客はそのまま放置せずに獄門(リンボ・ゲート)に幽閉しておいた。


 「随分と手慣れていたようだが……」


 グレイシアの尋問は巧みで刺客達は話すまいとしながらもその話術の前に自覚することなく、情報を吐かされていた。


 また、話さない場合であっても豊富な経験から由来する苛酷な拷問の前に屈した。


 「慣れたくて慣れたんじゃないさ。むしろこんなこと慣れない方がいい」


 グレイシアの顔には自己嫌悪の色が浮かんでおり、言外にこのことについて詮索しないで欲しいと言っているようにも思えた。


 それを察したディオンは何も言おうとはしなかった。


 情報から得た残りの敵は3人。それぞれの位置情報や能力も把握出来た。


 これは大きなアドバンテージになる。


 グレイシアはどこからともなく己の得物である刀、雪月花を取り出した。


 「お前は右側の通路にいる敵をやってくれ。俺は左側の通路の敵を一掃する。あと、敵は可能なら生きて捕らえろ」


 「おい、右側というと敵は1人しかいないのではなかったのか?」


 「そうだが?」


 グレイシアは当たり前だろうとでも言いたげに首を傾げた。


 「何故、私の方が相手をする敵が少ないのだ!」


 「俺の方がお前よりも強いからだ」


 グレイシアの率直な物言いにディオンは不満げに頰を膨らませながらも何も言い返せなかった。


 「そんな可愛い反応しても無駄だぞ」


 「なっ……可愛いと言うな!」


 グレイシアの言葉にディオンは照れながら反論するも目線を外した一瞬の間にその姿は消えていた。


 「くっ……足の速い奴だ……」


 ディオンは少し悔しげに言い残すと自身の敵の元へ向かっていった。


 ………………………………………


 グレイシアはさっさと敵を捕まえ、舞台の続きを観たいという気持ちを抑えつつ(自分ではそう思っている)早歩きで敵のいる場所へ向かっていた。


 歩いてしばらくすると敵の気配を感じたが、わざわざ引っ張り出すのも面倒なので気づかないフリをして出てきてもらうことにした。


 するとそれにまんまと引っかかった1人が隠れ場所から飛び出し、背後からグレイシアに襲いかかる。


 グレイシアは振り向くと同時に雪月花の一閃で刺客を両断した。


 下半身と永遠の別れを遂げた上半身だが、その顔が不敵に笑うと両断された体の断面から血が吹き出し、グレイシアの目を潰す。


 これは偶然などではなく錬金術で自分の血液を操ったのだ。


 死にゆく前の最後の悪あがき。


 すかさず隠れていた刺客が矢を放つが、目の見えないグレイシアはそれを腕で急所を庇った。


 その様子を見た矢の刺客は下卑た笑みを浮かべる。


 「その矢には麻痺毒が塗ってある!安心しろ。痺れで痛みは麻痺して苦しまずすぐに死ねる」


 刺客は勝ち誇ったように言うと高らかに笑った。


 敵が何も出来ないまま絶望に満ちた表情で死んでゆく姿をもうすぐ見れるのが楽しみで堪らないのだ。


 その刹那、腹部に衝撃を感じる。


 「はえ?」


 刺客が表情を固まらせ、目線を下げるとそこには刀を深々と差し込んだグレイシアがいた。


 「が……はっ……」


 そして、勢いよく刀が引き抜かれ床に倒れ伏す。


 致命傷だった。傷口からは血が溢れて止まらない。


 「なん……で……」


 刺客は血を拭き取った刀を鞘に収めるグレイシアに手を伸ばして呻く。


 毒矢は腕に刺さったはず。


 刺客は絶望に歪めた表情で訴えかけるとグレイシアは無関心な目で見下すと口を開いた。


 「この程度の毒耐性くらいあるわ。あまりなめてもらっては困る」


 そう言い捨てるとグレイシアは刺客に背を向け、その場を去っていく。


 「待……て……」


 刺客は救いを求めて手を伸ばすもそばにいるのは真っ二つにされた同僚のみ。まだ生きているが自分同様すぐに死んでしまうだろう。


 「助けてくれ……助けてくれ……」


 彼に救いの手を差し伸べる者は誰もいなく、絶望の中で力尽きた。


 ………………………………………


 慎重さの欠片もなく進んでいたグレイシアと違い、ディオンはレイピアを構え、周囲を警戒しながら進んでいた。


 遅い進みではあるが慎重に越したことはない。


 通路はそれほど広くないために常に竜巻を起こし周囲を傷付ける風体結界(トルネード・アーマー)は発動していない。


 「――串刺せ」


 その時、5本の剣が襲いかかってきた。


 と言っても5人の敵が剣を持って襲ってきたのではなく、一人でに浮いた5本の剣がディオンに切っ先を向けて飛んで来たのだ。


 「――斬り裂け―― 疾風刃(ゲイル・スラッシュ)!」


 ディオンはそれらを風の刃で叩き落とした。


 「あれを全て弾くとは。さすがは王女の護衛だ」


 「何処にいる?姿を見せろ」


 ディオンがレイピアを構えて言うとバスターブレードを携えた1人の刺客が現れた。


 「お前が刺客だな?我が王女を殺そうとした罪、その命で償ってもらおう」


 ディオンがレイピアを突きつけると刺客は「ククク」と笑った。


 「何がおかしい?」


 「いや、何やら勘違いをしているようだったからな。言っておくが我々に王女を殺すつもりはない」


 「何?」


 刺客の言葉にディオンは眉をひそめた。


 「ハッタリだな。では何故我が王女を付け狙う?」


 「何も付け狙う理由が暗殺だけとは限らないだろう?我々は我々悲願のためにマリアンヌ王女を連れ去る必要があるのだ」


 その言葉をディオンは嘘とは感じなかった。


 しかし、それでもマリアンヌに危害を加えようとしていることは変わらない。ディオンはレイピアを握り直した。


 その反応を見た刺客も黙ってバスターブレードを構える。


 双方の間に沈黙と殺気が流れる。


 そして、瞬刻の後にディオンと刺客は剣を交じらわせていた。


 「――放て」


 刺客の詠唱とともに弾かれた剣が浮き上がると再びディオンに襲いかかる。


 「――小竜巻(スモール・トルネード)!」


 ディオンはそれを無詠唱で発動した第二階位魔法嵐風魔術小竜巻(スモール・トルネード)で蹴散らすと突きを繰り出す。


 刺客はそれを躱し、再び剣を浮遊させるとディオンへ襲いかかった。


 ディオンはそれらを振り返る勢いを利用し、剣を弾き落とす。


 刺客はその隙を突き、丸腰の背中に剣を振り下ろした。


 しかし、ディオンはまるで背中に目が付いているようにその一撃を防いだ。


 「何!?」


 驚く刺客にディオンは連続の突きを繰り出すとそれは肩を掠めた。


 動転した刺客は浮遊させた剣での攻撃を加えるもディオンはそれら全ていなしながら刺突を繰り返した。


 「何だこの剣技は!?太刀筋が読めない!」


 「当たり前だ!これは私だけの剣技なのだからな!」


 ディオンはグレイシアとの訓練を繰り返す内にボーマン家由来の剣技を下地とし、自分だけの剣技を作り上げた。


 流麗さと力強さを兼ね備えながらも相手に太刀筋を読ませない応用の高さはグレイシアの剣に似ていた。


 「止めだ!花麗刺突リー・ブラン・ド・サン!」


 ディオンは必殺の刺突を刃に風を纏わせて放った。


 その刺突はまるで竜巻のように渦を巻いた旋風となり、直撃した刺客は壁に勢いよく叩きつけられると動かなくなった。


 「終わったか」


 後ろから声が聞こえ、振り返るとそこにはグレイシアが腕を組み佇んでいた。


 「お前……いつの間にそこにいた?」


 グレイシアがここにいるということはもう2人の敵を倒したということだ。


 そのことに驚きながらディオンは尋ねる。


 「今来たばかりだ」


 それでも早過ぎる。


 ディオンはグレイシアの手際の良さに感嘆した。


 「俺の言った通り殺さずに倒せたか。よくやったな。俺は2人とも殺してしまったからな」


 「何故上から目線なんだ。そして、言い出しっぺのお前が何故捕らえられていない?」


 「少し苛々していたからな。まあ、これで3人捕らえられたのだから十分だ」


 そう言うとグレイシアはディオンが倒した刺客の首根っこを掴み、獄門(リンボ・ゲート)の穴へと放り込んだ。


 「先程から思っていたが何なのだその穴は?」


 「秘密だ」


 グレイシアは片目を閉じると自分の口元に人差し指を当てた。


 「さて、早く部屋に戻ろう。歌劇(オペラ)が終わってしまう」


 そう言うとグレイシアは機嫌の良い足取りで皆の待つ席部屋に向かった。

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