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第43話-1 裏歌劇①

 話を終えたグレイシアとディオンが部屋に戻るとそこにはオペラグラス片手にバルコニーに身を乗り出している一同がいた。


 「帰ったぞ」


 グレイシアは後ろから呼びかけるとエデの横に座った。


 「あ……」


 エデがグレイシアに気付き、赤面する。


 グレイシアにされた先の出来事を思い起こしたのだ。


 その様子に気付くとグレイシアは意地の悪い笑みを浮かべ顔を近づけた。


 「どうした赤面して?普段は俺にあんなにも積極的にアプローチを仕掛けてくるというのに……それとも……まだ物足りないのか?」


 「あわわ……」


 普段のおしゃまな態度はどこへやら。エデは赤い顔から蒸気出し、目をグルグルと回し、今にも気を失いそうな状態だ。


 「あの!グレイシアさんっ!」


 引き止めるような声に反応し、グレイシアが振り返るとそこにはエデと同じく赤い顔でこちらを見つめるアリスがいた。


 「そろそろ……舞台が……」


 本当はそういうことが言いたいわけではなかったのだが、動揺からそう口走ってしまうとグレイシアは「ああ」と納得したように声を出した。


 「うるさかったな。悪かった」


 「そういうことでは……いえ、何でもありません」


 他に言いたかったことがあったのだが、リサは首を横に振ると口腔の奥に押し込めた。


 「そうか?ならいいが」


 グレイシアは怪訝に思ったもののもう舞台が始まるので気にしないようにするとステージの方へ体を向き直らせた。


 「ピコー……お前な」


 「何だ?」


 「……いや、なんでもない」


 ディオンは咎めるような、呆れたような目を向けてきたがグレイシアが「何だ?」と言った直後に開演の始まりを告げるブザーが鳴ると諦めたように溜息をついた。


 暗かった会場にステージのみが明るく照らされる。


 そして、その中央には肩にかかる程度の黒髪を持ち、体の凹凸がはっきりとした華やかさがありながらも物憂げな顔立ちの美少女が座り込んでいた。


 「憎い!私はあの男が憎い!」


 美女が怨嗟を孕ませた声で叫んだ。


 彼女こそが今回の主演女優ジュリエット・ダルモン。


 ジュリエットは最初の台詞で一気に観客を引き込んだ。


 「私から……いえ!あらゆる人々から全てを奪ったあの男を……私は殺してやる……!」


 その迫真の演技に会場にいた全ての人間がジュリエットの釘付けだった。


 舞台の美女は文字だけの世界から飛び出してきた住人と誰もが無意識に錯覚していた。


 舞台は進んでゆき、他の登場人物も現れるが観客のほとんどがジュリエットのみ目で追っていた。


 グレイシアもその1人だったが、他の観客とは違う所に目を向けていた。


 否、眼を向けていたというのは比喩でグレイシアは心の目を彼女の中に向けていた。


 ――やはり、彼女の演技には影がある。


 グレイシアはそれを確信した。


 しかし、それがなんなのかは分からない。


 影が演技という光に塗り潰されているのだ。


 そこへ扉が開けられる音とともに何者かが静かに入ってくる。


 グレイシアとディオンが振り返るとそれは盆の上に飲み物の入ったグラスを持ったウェイターだった。


 「こちら、サービスでございます」


 そう言うとウェイターは一同のそばにグラスを置いていった。


 グレイシアが会釈するとウェイターも頭を下げ、静かに退出した。


 しばらくの間、グレイシアはウェイターが出て行った扉を見続けていたがマリアンヌのそばに置かれたグラスを手に取ると笑みを浮かべ、ディオンに声をかける。


 「そろそろ動くぞ」


 「ああ。あの作戦で行くんだな?」


 「無論だ。変更はない」


 グレイシアはそう言うとディオンと共に気配を消し、部屋を後にした。


 ………………………………………


 通路に隠れる刺客は苛立っていた。


 待つのは仕方がないとは限度がある。


 それはどこまでも出口がない暗闇の中を歩き続けるのと同義だ。


 だが、王女が姿を現すのはもうすぐだろう。


 その理由は今頃ウェイターに扮した仲間が運んだであろうドリンクにある。


 その内、1つには下剤が入っており、それを王女に飲ませ、化粧室に向かうところを殺すという算段だ。


 そんな周りくどいことをせずに毒を仕込めばいいと思うかもしれないが毒殺は暗殺の天使では禁じられているため出来ない。


 故にこうして待つしかないのだ。


 その時、標的である王女が早歩きで姿を現した。


 顔色と腹部をさすっているあたり仲間は上手くやってくれたようだ。


 刺客はほくそ笑むと物陰から王女の目の前に姿を現し、驚く暇も与えずに短剣で襲いかかる。


 しかし次の瞬間、突如王女の体表がまるで氷のような色に変わった。


 ――嵌められた!?


 気づいた時にはもう遅い。


 氷の王女は体を氷柱のように尖らせるとその先端で刺客を串刺しにした。


 悲鳴を上げるも皆が舞台に夢中で気付かない。


 急所は外れているが動けない。


 苦悶に喘ぐ刺客の前に2人の人影が現れた。


 「上手く餌にひかかったな」


 「お前の魔術はあんな真似も出来たとはな。あらかじめ伝えられてはいたが驚きだ」


 現れたのはグレイシアとディオン。


 2人は串刺しにされて身動きの取れない刺客の前に立つと言った。


 「第四階位魔法氷結系魔術氷創アイス・クリエーションでマリアンヌ王女を作らせてもらった」


 「ウェイターに扮したお前の仲間は既に捕らえている。共に話を聞こうか」


 絶望に染まった刺客の顔にグレイシアの手が伸ばされる。


 すると刺客の意識は深い闇の中に落ちた。

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