第41話-4 休日④
「セリャッ!」
トスと同時にグレイシアとライオネルが跳び上がる。
ジャンプボールは当然ながら身長が高い方が早く最高到達点に達することが出来るため、有利だ。
故に主導権を握るのはシドチームだと誰もが思った。
しかし、予想に反して先にボールへ届いたのはグレイシアだった。
「なっ!?」
目を見開く一同を余所にグレイシアはグレンにボールを弾いた。
ボールを受け取ったグレンは速攻でシド陣営に攻める。
その前へシドが躍り出るがグレンは無理に抜こうとはせずジョナサンにパスを出すとカットインする。
ジョナサンはグレンがシドを抜いたこと確認するとパスを返した。
グレンはパスを貰うとレーンアップでシュートを決めた。
「よし!」
次はシド達の攻める番だ。
シドは一気に攻め込むとフェードアウェイでシュートを撃ち込もうとするが、グレイシアがブロックに跳ぶ。
このシュートが弾かれると分かったシドは咄嗟にゴール下のライオネルにパスを出す。
パスを両手で受け取ったライオネルはそのままダンクシュートを決める。
「グレン、ジョナサンすぐ上がれ」
ゴール下でボールを拾ったグレイシアが指示を出すと2人は敵陣営に走ってゆく。
それに合わせてシド、ライオネル、アーロンが守りに戻るがグレイシアはその瞬間、ボールをゴール下から中盤まで勢いよく放った。
「何!?」
そして、ボールをキャッチしたグレンが速攻で決めた。
そこからは点の取り合いが続いた。
両チームがハイペースでコート中を駆け回り、シュートを決めてゆく。
お互いに守りに決め手がないため、点差が広がらない。
5人の練度は意外にも高く、経験者であることが窺え、久しぶりのプレーに心から楽しんでいるようだった。
そんな5人とは対照的にグレイシアはパス回しと堅実なプレーをみせている。
そして、20対20の試合時間が残り3分に差し掛かる頃には5人はクタクタだった。
「お前らはしゃすぎだ」
グレイシアはドリブルをつきながら呆れたように言った。
「はぁ……はぁ……そういうグレイシアさんはパスばっかりで全然攻めないじゃないですか……」
グレンが不満げに指差して言うとジョナサンもそうだとばかりに首を縦に振った。
「失敬な。お前達に華を持たせようとしてやったんだ。だが……」
グレイシアは辺りを見回すと不敵に微笑んだ。
「お前達がそう言うとなら本気を出してやろう」
そう言った刹那、グレイシアは目の前のシドをドライブで躱した。
「なっ!」
そして、続け様にターンでアーロンを躱すとダンクシュートを決めるべく跳躍する。
「させるかっ!」
それを防ごうとライオネルがブロックに跳ぶ。
しかし、グレイシアはライオネルの怪力を物ともせず、上からシュートを押し込んだ。
「うわっ!」
勢いに押され、ライオネルが転倒する。
「嘘だろ……俺と同じくらいの身長でダンク決めやがった……!」
一同が驚く中、グレイシアは1人自陣営へ守りのため戻っていく。
「伯爵様ーー!」
そして、黄色い歓声を上げるエデに向かって手を振るという余裕っぷりだ。
そこからはグレイシアの独壇場だった。
1人でスティール、ディフェンス、アタックを全て熟し、インサイドからもアウトサイドからもシュートを決めていく。
残り5秒。最後に一矢報いようとするシドだったが、そのボールさえグレイシアにスティールされると止めの3Pシュートを決めたことで10分間の試合は終了した。
「クッソ〜!」
ライオネルが悔しげな目でグレイシアを睨む。
試合結果は40対20のダブルスコアでレイ達は勝利だった。
「バスケットボールは紳士の嗜みだ。お前たち程度が俺に勝とうとはおこがましいわ」
「そんな嗜み聞いたことないぞ……」
グレイシアの科白にディオンが冷静な突っ込みを入れた。
「クソッ!チーム変えてもう一回だ!」
ライオネルが勝負に負けて拗ねる子どものようなテンションでグレイシアに指を差して叫んだ。
「まだ時間はあるが……構いませんかマリアンヌ様?」
女性陣を置いて男性陣だけが楽しむわけにはいかない。
グレイシアの発言はそれを慮ってのものだった。
「いいですわよ。私はもう一度皆様の勇姿を拝ませて頂きます」
マリアンヌの言葉に残りの3人も頷いた。
「よっしゃ!ならやろうぜ!」
そして、再度3人ずつ2チームに分かれると試合が始まった。
先程まで疲れていた様子だったのに少し休んで遊び出す一同はまるで……
「何だか……子供みたいだな」
ディオンはボール1つを求め、駆け回る男子の姿に肩を竦めた。
「良いではありませんかディオン。たまにでも子どもに戻るというのも悪くないことかもしれませんよ」
その様子をディオンは楽しげに眺めながら言った。
「そうですわねマリアンヌ様。それに……皆様楽しそうです」
エデの言う通り競技に励むその姿はとても楽しげで普段は見せることのない無邪気さが垣間見えたような気がした。
「グレイシアさん……」
アリスはずっとグレイシアだけを見ていた。
その顔は笑っていた。
グレイシアの笑顔を見るのは初めてではなかったが、今している顔はいつもの大人びた笑みと違ったものだった。
――そんな顔も出来るんだ。
それがアリスの抱いた率直な感想だった。
そして、その顔が嫌いではなかった。
普段見れないその表情を目に焼き付けようとアリスはグレイシアをずっと見ていた。




