第41話-1 休日①
グレイシア、遊撃部隊の7人、エデ、マリアンヌ、ディオンの11人は道を塞がないように二列になって歩いていた。
前列に左からディオン、マリアンヌ、エデ、グレイシア、アリス。後列にシド、アーロン、ライオネル、シルヴァーナ、グレン、ジョナサンという順である。
スケジュールとしては買い物→食事→公園→歌劇といった感じである。
なので最初は買い物に向かうがここで既にテンションに差が発生していた。
「お買い物楽しみですわね。アリス様?」
「はい!買い物なんて本当に久しぶりです!」
「だよね〜」
「フフフ……皆様、落ち着いて。慌てずともすぐにお店は見えてきますよ」
こうして女子勢が浮き足立っている一方……
「腹減った」
「ライオネル早くない?」
「暇なだけだろ」
「まあ、確かに俺らにとっては買い物なんて暇以外の何者でもないしな」
「それは流石に言い過ぎな気が……」
男子勢のテンションは妙に低い。
それもそのはず。買い物と言っても見に行くのがほとんどは服やアクセサリー等で関心は主に女性に偏る。
男でもおしゃれに関心のある者はいるだろうが革命軍の戦闘員である彼らにそれを求めるのは酷だろう。
「お前たち、出発して早々そういうこと言うの止めろー」
グレイシアが男達に注意を呼びかける。
実はグレイシアもおしゃれに対する意識は低く、着ている服は大体エデが選んだ物だ。
しかし、このエリュシオン通りに店は多い。
服屋以外にも彼らの興味を惹きつける店はごまんとあるだろう。
そうこうしている内に目的の店に到着。
到着している店はパリシイ市民なら知らぬ者のいない大人気ブティックである。
店に入るなり女子勢は服を探し、男子勢は全員とは言わないまでもほとんどが休憩のための椅子を探し始めた。
ちなみにグレイシアは女子勢に引っ張られ、コーデを吟味する手伝いをすることになった。
「ねえねえアリス、こんなのはどう?」
シルヴァーナがアリスに薦めてきたのは肩部分が出た赤色のロングドレスだった。
「ええっ!少し……大胆すぎない?」
「そうかな?アンさんとかに比べたら全然だと思うよ?」
――あそこと比べるのか
グレイシアは極端な例に苦笑いした。
だが、比較対象をアンとしてもシルヴァーナが薦めてきた服装は特段露出が多いというわけでもなくアリスに似合うのではと思われた。
「なら、こんなのは如何でしょう?」
そこへエデがアリスに茶色のワンピースを持ってくる。
「あ!それもいい!」
真っ先に反応したのはアリスではなくシルヴァーナだった。
その反応にエデは親指を突き立てる。
「グレ……ピコー様はどう思う?」
シルヴァーナがグレイシアに話を振ってくる。
「俺はどちらも似合ってると思うが不安なら試着してみたらどうだ?」
「畏まりました」
「はーい」
こうして2人は着せ替え人形と大量の服を持つと試着室へ向かった。
「皆様賑やかで宜しいですね」
「すいません。お騒がせしてしまって
微笑むマリアンヌにグレイシアが頭を下げる。
「いいのですよ。お出かけは大勢の方が楽しいですもの。ね、ディオン?」
「そうでございますね」
ディオンが澄ました顔で答える。顔の赤みは引いており、「本当に暑かっただけか」とグレイシアは納得した。
そして、マリアンヌはドレスを一つ一つ吟味していたがやがて気に入った物が見つかったようでアクセサリーと一緒に手に取ると試着室へ向かおうとする。
「マリアンヌ様、私もご一緒しましょう」
「ディオンはここで待ってて。貴女は一応男の子ということなのですから淑女の試着室へ行くというのはよろしいことではないわ」
「そうでございますね。申し訳ございませんでした」
「いいのよ。それでは」
マリアンヌはグレイシアとディオンに手を振ると試着室へ向かっていった。
「…………」
「…………」
2人の間に沈黙が続く。
何も話題がないというわけではないのだが、何故かディオンがグレイシアから距離を取っているため話しかけづらかった。
やがて手持ち無沙汰になったグレイシアは相変わらず服を見ようとせず椅子に座ってボーッとしている男5人に目がいった。
かなり暇そうである。
それを見かねたグレイシアが動き出す。
「ディオン」
「おわっ!?……何だ?」
「少しあいつらの所へ行ってくる」
「そ、そうか……行ってこい。私はここで待ってるぞ」
グレイシアはディオンの辿々しい様子を怪訝に思いながらも5人の元へ歩いていった。
「お前たち少しは服を見たらどうだ?」
「最初はそうしようとしたぜ?でも、いつ着るんだって考えると急に見る気なくした」
ライオネルの言い分にグレイシアは肩を竦めた。
確かにライオネルは……というより革命軍は皆、多忙で私服より仕事着でいる時間の方が圧倒的に長い。
そう考えると最悪私服なんて要らないのかもしれないが女性はお洒落はしたいものだ。
しかし、男は違う。
そう言えばグレイシアはこの5人の私服姿を見たことないことに気付くと同時に自身も私服を着る機会がかなり少なくなっていたということも自覚した。
仕方ないとグレイシアは納得すると懐から札束を取り出すとライオネルに投げつけた。
「おわっ!……ってなんじゃこりゃ!?」
突然、手渡された札束にライオネルは驚いた様子を見せる。
「それやるから適当に買い物してこい。服屋以外もあるだろうからな」
そう言ってやると5人は「やったーー!」と喜び始める。
「ただし、この後食事も行くから買い食いとかはほどほどにな」
グレイシアに勧告に5人は返事をすると意気揚々と店を出ていった。その姿はまるでお小遣いを与えられて喜んでいる子どものようだ。
グレイシアは5人の後ろ姿を見送るとディオンが待っている場所へ戻る。
するとそこには並べられているドレスを見つめるディオンがいた。
最初はマリアンヌに似合う物を探しているのかと思ったが、グレイシアはドレスを見る視線に羨望のような感情が宿っていることに気付いた。
「気になるのか?」
グレイシアが声を掛けるとディオンは間の抜けた声を上げて振り返った。
「……いたのなら声をかけてくれ」
「いや、すまない。驚かす気はなかったんだが」
非難めいた目を向けてくるディオンに手を軽く手を挙げるとその横に歩み寄った。
「気になるのか?」
グレイシアが平坦な口調で尋ねるとディオンは恥ずかしげに目を伏せて頷いた。
「……悪いか?」
「まったく。お前が女性として生きることへの未練を持っていたとしてもそれは何もおかしいことじゃない」
グレイシアが即答するとディオンは自嘲したような笑みを浮かべた。
「お前ならそう言ってくれると思っていたよ。だけどこんな感情は持っていても仕方のないものだ。私が女性として生きることは許されない。今後もこれを着ることなどないというのに」
ディオンはそう悲しげに呟くと俯いた。
それを聞いたグレイシアはしばらくの間黙り込んでいたがおもむろに前へ出るとディオンが見ていたドレスを手に取り始めた。
「お前何をして……?」
そして、グレイシアはディオンの取ると引っ張っていく。
「今日、この瞬間くらいはこれを着てもいいんじゃないか?」
その言葉にディオンは戸惑うと同時に慌てた表情を浮かべた。
「えっ!えっ!いやいや何を言っている!そもそもどこで着替え……」
グレイシアはディオンを黙殺すると店の壁に手を当てた。
するとグレイシアが触った部分が窪むと何の変哲もなかった壁が扉のように開いた。
「ここは……」
「常連専用の試着室だ。ここでかなり金を落としているからな(主にエデで)」
そう言うとグレイシアはディオンを半強引に引っ張ると扉を閉じた。
「ちゃんと後ろ見ててやるから着ろ。これを逃すともう本当に着る機会なんかないかもしれないぞ」
グレイシアが持ってきたドレスを突き付けて言うとディオンは何か言い返そうとしたが、結局言い返せず黙り込んでしまう。
「安心しろ。見ているのは俺だけだ笑う奴なんて1人もいない」
グレイシアが真っ直ぐ真剣な顔をするとディオンは肩を震わせた。
それが笑っているということにはすぐに気が付いた。
「何故笑う?」
「いや、どうせならマリアンヌ様に見て欲しかったと思ってな。だが……まあいい……」
そう言うとディオンはグレイシアに突きつけられたドレスを取ると笑って言った。
「私のドレス姿に惚れるなよ?あと、着替えている時に振り向いたら殺す」
挑発的な言葉とは裏腹にディオンの顔はとても嬉しげだった。




