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第39話 試験勉強

 翌朝、グレイシアはグレン、ジョナサンを引き連れ学校に向かった。


 もうすっかり見慣れてしまった通学路を鼻歌混じりに歩いているとグレンとジョナサンが怪訝そうに目を向けてきた。


 「……何だその目は?」


 「いや、何か機嫌いいな〜……って」


 「そうか?ジョナサン、お前はどう思う?」


 「はい、僕もそう思います……」


 グレンの気のせいではないようだ。


 どうやら自分は機嫌がいいらしいということをグレイシアはようやく自覚した。


 言われてみれば学校に行くのが随分と懐かしく感じる。


 これは楽しみにしているということなのだろうか?


 「ピコー様ーー!」


 そこへ背後からマリアンヌが歩いてくる。当然、ディオンも一緒だ。


 「おはようございますマリアンヌ様、そしてディオン」


 「ああ、おはよう」


 ディオンも挨拶を返してくる。


 「おはようございますピコー様、グレン様、ジョナサン様。休日はどのように過ごされましたか?」


 「ほとんど仕事漬けでしたね。それと昨夜は前国王殿下と会食を」


 「そうだったのですね!では、試験勉強もされていないのですか?」


 「試験?」


 グレンが眉をひそめた。


 「ええ、来週から試験が始まりますの。だから皆様、居残り講習を受けないために勉強し始めているのですよ」


 「え……そんなの知らねえんだけど……」


 「そうなのか?編入したばかりで仕方ないかもしれないが……まあ、今日教師から連絡があるだろうし、まだ1週間はある。……頑張れ」


 「何で目を逸らすんですかディオンさん?」


 まるで飼い主に捨てられて犬のような絶望に満ちた目をディオンに向けるグレンの肩をグレイシアががしりと掴む。


 グレンがゆっくりと振り向くと何故か満面の笑みを浮かべたグレイシアがいた。


 「そうと分かれば。今日から早速勉強始めるぞ。まず手始めに放課後は図書館で自習会だ」


 「面倒臭っ……」


 「何か言ったか?」


 「何もありません……」


 グレンはグレイシアの無言の圧に屈した。


 「では、その勉強会私達も参加して宜しいでしょうか?」


 そこへマリアンヌが手を挙げて尋ねてきた。


 「構いませんよ」


 こうして放課後、5人での勉強会が開かれることが決定した。


 ………………………………………


 放課後、5人は図書館に集まり勉強会を始めた。


 学校の図書館は広く、質の良い書物が数多く揃えられているため、ここで勉学に励む者は多い。


 そのため、最後の授業が終わると思うすぐに図書館へ向かい、席を確保する必要があった。


 机の上に大量の参考書が積まれおり、5人がそれを一心不乱に解いている。


 勉強中にグレイシアはマリアンヌ話しかけてこようとする者もちらほらいたが、すべてディオンが追い返した。


 「ああ〜……疲れた……」


 机の上でグレンが倒れ伏した。


 「グレンくん……マリアンヌ様の前で迷惑だよ……」


 「そうだぞ。まだ法律の勉強をしていない」


 「もうやめて……」


 グレイシアは完全にジョナサン、グレンの教師役になっていた。


 まずジョナサンは奴隷として働かされていた期間が長かったため、勉強というものをあまりしたことがない。


 読み書きは出来るが知識についてはからっきしだ。

 

 しかし、集中力は凄まじく地頭も良いのか教えたことはすぐ覚えていった。


 問題はグレンだった。


 魔術を教えていた時から分かっていたがグレンはかなりの勉強嫌いで中々試験内容を覚えようとしない。


 そう言えば授業中もボーッとしている様子が見受けられていた。


 だから定期的に「居残りになったら……」という文言の脅し文句を言っている始末だ。


 「ピコー様は勉強されなくて宜しいのですか?先ほどからお二方に教えてばかりで……」


 「それなら心配は要りません。私は一度見たものはすぐ覚えられるタチなので」


 普通なら感じの悪い印象を受ける科白だろうが何故かグレイシアが言うと嫌味に感じず、むしろ相手を感嘆させる魔力のようなものを感じさせた。


 「それなら、ピコー。ここを教えてくれないか?」


 ディオンが試してやるとばかりに尋ねてきた。


 こんな形ではあるものの恐らく前までのディオンならばあり得なかっただろうなと思いながらグレイシアは足を運んだ。


 「どこだ?」


 「数学のこの式についてだが……」


 「ここなら……」


 グレイシアが前に屈んで参考書に目をやるとまるでディオンに覆いかぶさるような状態になり、顔が近くなる。


 グレイシアは気にする素振りも見せないがディオンは解説に集中しようとしながらも胸が波打つのを自覚した。


 そして、思わずグレイシアの方に顔を向けてしまう。


 改めて本当に綺麗な顔をしていると思う。


 長いまつ毛に色素の薄い大きな瞳、そして手入れの行き届いた肌とサラサラの髪。それだけを聞けばまるで少女のような印象を受けるが女々しさは感じられなかった。


 「――い。おい、どうしたんだ?」


 ディオンの意識が戻るとそこにはこちらを不可思議な面持ちで見つめるグレイシアの顔があり、見つめ合っている状態になっていた。


 そのことに気付くとディオンは赤面すると顔を背ける。


 「どうしたんだ?どこか具合でも悪いのか?」


 「いや……何でもない……続けてくれ……」


 「?……ならいいが」


 ディオンの要望に応え、グレイシアは解説を再開する。


 その様子にジョナサンは顔を赤くし、グレンは生温かい目線を向け、マリアンヌは微笑ましげに頷いくなど三者三様の反応を見せた。


 ………………………………………


 「はあ〜……疲れた……」


 グレンが相変わらずの溜息を吐く。


 図書館が閉館時間になったため、5人は帰路に就いていた。


 「こんなもんでへばってもらっては困るぞ?これがあと6日続くんだ。遅れを取り戻さないとな」


 「勘弁して下さい……」


 グレンが口から溜息の代わりに魂が出そうなほどの生気のないテンションで呻いた。


 「ヴァルハラ式トレーニングに比べたらマシだろ?」


 「比較対象が極端に過ぎですよ……」


 「ヴァルハラ式トレーニング?何だそれは?」


 ディオンが興味深げに尋ねてくる。


 「短期間で瞬く間に効果が出る驚きの訓練方法だ」


 「何!?それは興味深いな……どんな内容だ?」


 「訊かない方がいいです……」


 あの訓練を脳裏に思い浮かべたジョナサンが苦い顔で忠告するとディオンが引き気味に「そうか……」と身を引いた。


 「なら、皆様。試験が終わって講習を受ける必要がなければ休日に遊びに行きませんか?」


 「それいいっすね」


 マリアンヌの提案にグレンが親指をパチンと鳴らした。


 「マリアンヌ様が仰るならば……ただしお忍びでですよ……」


 ディオンもそれに同意しながらも耳打ちをした。


 「ピコー様は如何されますか?」


 「ええ、行きましょう。スケジュールを空けておきます」


 そう言うとグレイシアはマリアンヌに微笑んだ。


 こうして目標が出来た5人は試験までの1週間を乗り切り無事試験を終えたのだった。

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