第35話 あの日の真相
「貴方達革命軍に通告します。私は青薔薇の騎士団騎士長第五席ケイ・ペンドラゴン。大人しく降伏しなさい」
そう名乗った黒髪の少女にシドは驚いた様子を見せる。
「ケイ・ペンドラゴン!?あのアレクサンダー・ペンドラゴンの姉か!」
ケイ・ペンドラゴン。青薔薇の騎士団初代団長アレクサンダー・ペンドラゴンの姉である。元は日ノ皇国の武家に生まれた姫君であったが、父であるエクターと共にシオン王国に移住してきたという経歴をもつ卓越した呪術師でもある。
しかし、グレイシアはそのビッグネームに物怖じすることなく、仮面の下で嗤った。
「ペンドラゴン中佐には申し訳ないが、何故勝算のある戦いに降伏しなければならないのだ?」
グレイシアが挑発するように言うとパロミデスがまんまとそれに引っかかった。
「何だとテメエ!舐めてやがんのか!」
パロミデスは飛びかかろうとするがそれをトリスタンがそれを止めた。
「パロミデス。そんなカッカしない」
「ああ……悪いな」
トリスタンが宥めるとパロミデスはあっさりと引き下がった。
その様子をグレイシアは黙って見守っていた。
「それでは貴方がたは戦うということですね?」
「無論だ」
グレイシアの言葉にセタンタは頷くが正直言って遊撃部隊7人は逃げ出したかった。
「その前に一つ宜しいですか?」
そう言ったのは他の騎士達同様、鎧とマントを纏った獣人の青年だった。
「何だヘファイスティオン大尉」
ベディヴィア・ヘファイスティオン。それが彼の名前だった。
「貴方が我が主人アレクサンダーを殺したのか?」
その問いに周囲に重い沈黙が木霊した。
彼岸の死神の青薔薇の騎士団初代団長アレクサンダー・ペンドラゴン暗殺の嫌疑。
それはシオン王国国民なら誰もが気になる話題である。
そして、ベディヴィアはアレクサンダーの執事を務めていた男。そんな人物であればこの件について訊かずにはいられないというものだろう。
それは姉であるケイをはじめとした他の団員も同様で部外者であるメーヴとヴァルキュリー騎士団に革命軍の面々も黙っている。
はぐらかすことも出来るが動揺を誘うにはちょうど良いとグレイシアは口を開いた。
「その問いに一言で答えるとすれば半分正解……と言ったところだな」
その返答に一同は怪訝な表情を浮かべた。
「まあ、当然の反応だな。お前達が聞きたいのなら、続きを話しても良いが?」
それを聞くとベディヴィアはトリスタンに目を向けた。
恐らくこの中で一番席次が上のトリスタンの指示を仰いだのだろう。
それに対し、トリスタンは首を縦に振った。
何せトリスタンはアレクサンダーの幼馴染み。気になるのは当然だ。それも任務を後回しにしてしまうほど。
「その日は俺の初めての依頼だった。依頼の内容は国を乱すアレクサンダー・ペンドラゴンを殺せというものだった」
「アレクサンダー様がそんなわけはない!」
グレイシアの言葉にベディヴィアが激昂した。
「まあ、待て。話はまだまだ続きがある。だが、俺はこの依頼内容を当然疑った。アレクサンダー・ペンドラゴンと言えば国の英雄。そんな者が国を乱すなどとは考えられない。だから、俺は依頼主に直接会わせろと要求した。信用出来るに値するか測るためにな」
どうやらグレイシアは最初アレクサンダー暗殺に懐疑的だったらしい。
しかし、何故それにも関わらず暗殺に踏み切ったのだろうか。
その疑問が全員の頭に浮かんだ。
「依頼主はそれに応えた。場所はシオン王国にあるペンドラゴン邸前。日付は1599年の12月25日。時間はきっかり0時だ」
その日付に一同は目を見開いた。
忘れもしないその日はアレクサンダー・ペンドラゴンの命日―つまりは暗殺された日だ。
「何故、標的の家の前かは訝しんだが、現地調査と言われては断れまい。そしてその日、念のために少々早い時間にペンドラゴン邸に向かうとそこからは火の手が上がっていた」
―どういうことだ!?
全員が面食らった表情を見せた。
確かにあの日、ペンドラゴン邸は燃やされた。しかし、それは襲撃者つまりはグレイシアがしたもののはず。
なのに何故グレイシアが着いた時点で火の手が上がっていたのか?
「俺は依頼主に嵌められたと思った。俺を真犯人に仕立て上げるためのな。だが、まだアレクサンダー・ペンドラゴンは生きているかもしれない。俺は一縷の希望を持って燃え上がる館の中に入っていった」
ますます話が分からなくなってきた。
―つまり彼岸の死神は下手人に仕立て上げられたということなのか?
そう推測するのが関の山だった。
「俺は火の粉舞い散る中で探した。そして、壁に凭れかかるアレクサンダーを見つけた。彼は腹部から血を流しており、致命傷は明らかだった。俺は彼に駆け寄り、介抱しようとした。するとだ、彼は驚きの一言を口にした」
『やあ、待っていたよ』
「ーーと」
………………………………………
『……どういうことだ?』
『実は……俺が依頼主はなんです』
『なっ…………!』
『依頼内容は覚えていますよね?さあ、殺して下さい』
『待て!訳が分からん!何故お前を……天剣の英雄を殺さなくてはならない!」
『……王国中枢には俺をよく思わない人がたくさんいてね。その人達が俺を殺すように刺客を送り込んできたんだ。刺客は全員追い返したけど俺は致命傷。父さんも巻き込まれて殺されてしまった』
『…………』
『俺が生きてはいては皆が危ない……だから俺は消える』
『しかし、それでもいつかはその毒牙は仲間を襲う!それでは根本的解決にはならない!』
『ああ……だから俺から頼みがある……この国を滅ぼしてくれ……』
『一体何を……』
『この国を……あの頃に戻すんだ……そうすれば皆も……』
『この国に革命をもらたすということか!?無理に決まっている!シオン王国は強い!それに俺のような小物に……』
『頼む……君しか頼れる人はいないんだ。俺はもう死ぬ。だから……皆を……守ってくれ……』
『!………………分かった……やってみよう』
『……ありがとう』
『必ずやこの国を滅ぼし、君の仲間を守ってみせる!』
『本当に……ありがとう……じゃあ、最後に仕事を果たしてくれないか?』
『……ああ』
………………………………………
その場にいた全員が絶句した。
噂としては囁かれていたがまさか本当にシオン王国上層部がアレクサンダーを殺したこと。
そして、アレクサンダーがグレイシアにそのようなことを託していたということに。
「故に……俺はアレクサンダーとの約束を果たさねばならない!それが俺に託されたあいつの願いだ!!」
グレイシアは強い決意の籠もった声で叫んだ。
その覇気に一同は気圧されてしまう。
「……だから俺はそのためには手段を選ばない」
その瞬間だった。
魔薬を積んだ船が爆発した。
―しまった!
メーヴは歯を食いしばるとグレイシアを睨み付ける。
―まさか話をしている隙に仲間を船に向かわせたの!?
そう思うも話の最中、怪しい動きをする者は誰もいなかった。
―なら、どうやって?
「ヒャッハー!」
そこへ爆発に紛れ、船より12人の影が飛び出てきた。
「グレイシア。命令通り船の爆破と魔薬を回収した」
その正体は地獄の第八階層の12人の悪魔悪の爪であった。
グレイシアは話の最中に離れた所に前以って作戦の内容を伝えていた悪の爪を召喚。
そして、グレイシア達の状況を見て事態を悟ったマラコーダの指示で任務を遂行したというわけだ。
「ほらよ、件の魔薬だ」
マラコーダはグレイシアに魔薬の入った瓶を投げた。
「一か八かだったが上手くいったな。お前達、全員ずらかるぞ!」
「待て!逃すと思うか!」
「やれるもんならやってみろ。カニャッツオ!」
「了解」
グレイシアの命令にカニャッツオは辺りに岩石爆弾を投げつけ、煙幕の代わりとした。
「行くぞ!」
その隙にグレイシア達はその場から退散する。
「待……きゃっ!」
追いかけようとするメーヴだったが、そこへ熱湯がかけられ、前にスカルミリオーネが現れた。
「女がいっぱいだあああああ!何だよこのハーレム!?グレ……彼岸の死神さんありがとおおおおおおおおお!!」
「よくも……やったわね……」
狂喜乱舞する長く乱雑な髪の毛の悪魔にメーヴは肌が焼けるような熱さと服が肌に纏わり付く不快感に顔を顰め、睨みつけた。
「待って!今の話は私達を騙すための嘘だったの!?」
悪の爪が暴れ回る渦中の中、ケイの叫びが反響した。
『それを信じるかはお前達次第だ。だが、これからも俺のやること変わらない。俺はこの国を滅ぼす』
グレイシアはその言葉を残すと殿を悪の爪に任せ、仲間と共にその場から姿を消した。




