第34話-2 強襲②
キャメロットのルース城の庭園にて王子リチャードは真剣での素振りを行なっていた。
しかし、その太刀筋には苛立ちが混じっており、剣のブレが見て取れた。
理由は明白。今回の彼岸の死神が関わっているという任務に就くことが出来なかったことだ。
リチャードは必死に参加を志願した。
だが、謹慎中という理由も手伝って誰も首を縦に振ってはくれなかった。
そのやるせなさを紛らわすため、リチャードは剣を振っていた。こうすれば嫌なことも忘れられるだろうと思い。
脳裏に浮かぶのはあの憎っくき彼岸の死神のあの言葉。
『貴様の正義とはいかに自分がいかに満足な振る舞いをし、自分の目的を達成出来るかのことを指す』
リチャードは歯を噛みしめた。
―違う!俺の正義は正しきを為す事だ!
リチャードは彼岸の死神を眼前した気持ちで剣を振るった。
「剣に邪念が見える。それじゃ、太刀筋も鈍る」
そこへリチャードへ声がかけられた。
かよわげな少女の声だった。
目を向けるとそこには声の印象通りの小柄な青髪少女がいた。
しかし、騎士服を纏っているため、ただの少女でないことは一目瞭然だ。
「ああ、そうだな。全く情けない限りだ」
少女の指摘でリチャードは一気に頭が冷め、自嘲するよう言った。
少女の態度は下手をすれば不敬罪にあたってもおかしくないがリチャードは不思議と不快感は感じず、何故か興味を覚えた。
「ところで君は中々面白いな。王子である俺にそのような態度を取ってくるとは」
「え……王族だったの?」
少女は変化に乏しい顔で驚いた様子を見せた。
「ああ……第一王子リチャードだ」
気付いていなかったのかとリチャードは呆れたように言った。
「わたし……不敬罪になる?」
「いや、俺は訴える気がないから大丈夫だ」
少々不安げに言う少女にリチャードは笑いながら答えた。
「だが、その代わりと言ってはなんだが、愚痴を聞いてくれないか?」
「愚痴?」
「そうだ。俺の剣に邪念が混じっていた理由だよ」
するも少女はしばしの間、考えるように黙り込んだ後、「分かった」と言った。
「そうか。ならこっちへ座ってくれないか」
庭園に設置されているベンチに手招きすると少女はリチャードの隣に座った。
「では、まずは自己紹介だな。俺はリチャード・アレクサンダー・ザ・シオン。シオン王国の第一王子だ。君の名前は?」
「わたしは……」
………………………………………
グレイシア達が物陰から姿を現したその瞬間だった。一同目掛け、雨のように魔素でできた矢が降ってきた。しかも一撃一撃が必殺の威力を誇っている。
「セタンタ!行くぞ!」
「うん!」
グレイシアとセタンタは自分の得物に魔素を充填するとそれを斬撃として撃ち放った。
「死神の大鎌!」
「燦然と煌く宝剣!」
2人の斬撃が矢を全て焼き払う。
しかし、その隙に7つの影が遊撃隊7人に襲いかかった。
「うわぁ!」
そして、7人全員が攻撃を防いだにも関わらず、弾き飛ばされる。
「お前達!」
そこへ再度、矢の雨が降り注ぐ。
「邪魔だ」
グレイシアはデスサイズを振るい、矢を全て斬り落とすと同時に遠く離れた屋根をも斬り裂いた。
すると屋根から飛び降りるようにして何が転がり落ちてきた。
その何かは落下音のみが聞こえ、姿を視認することは出来なかった。
「なら、これでも喰らえ。獄炎!」
グレイシアは姿の見えない相手に消えることのない地獄の炎を複数個放つ。
するとその何者かが矢で迫りくる獄炎を撃ち落とす。
しかし、その時だった。
何者かが移動しようとした際に足を掬われ転んでしまう。
その足元一帯にはグレイシアの異能力怒りの血沼が広がっており、身動きを封じていた。
「終わりだ」
身動きを封じた相手にグレイシアはデスサイズを振り上げる。
「トリスタン!」
背後から不可視の弓兵の名前と思しき単語が叫ばれると1人の大柄な鎧姿の男がグレイシアに襲いかかる。
「グレイシアくん!」
セタンタが駆けつけようとするもそこへ何者かの一撃が襲う。
セタンタはその一撃を防ぐと目の前の人物に絶句した。
「メーヴ!?」
「久しぶりね。何かまた綺麗になってムカつくんだけど」
セタンタに一撃をお見舞いしたのは舌足らずな口調で喋るどこからどう見ても子供にしか見えない騎士服を纏った長い赤紫の髪を持った少女だった。
するとどこからか槍を持った騎士服姿の女性達が現れる。
「何でヴァルキュリー騎士団がここにいるの!」
「この作戦はわらわの指揮下だからな。さあ、久しぶりに遊んでやろうぞ」
そう言うと鞭を持った少女は嗜虐的な笑みを浮かべた。
「はあああああああ!」
男は拳を繰り出すもグレイシアは後ろを見ることなくデスサイズの柄で受け止めた。
「何!?」
二回りも小さな相手に見向きもせずに自分の一撃が受け止められることに驚いているとグレイシアは拳を弾き返すと同時に男へ540°キックを繰り出した。
「ぬう!」
男は蹴り飛ばされるもそれを咄嗟に両腕で受け止めたのでダメージはなしだ。
グレイシアは男は一旦退けると向かったのは飛ばされた7人の元だ。
ちなみに襲いかかってきた他の騎士達はトリスタンと大柄な男の方へ向かっている。
「お前達大丈夫か?」
「はい……なんとか……」
シルヴァーナが自身の頭を摩りながら立ち上がる。他の面子も同様のところをみると決して無理をしているわけではなさそうだ。
そこへセタンタが跳んできた。軽く息をしており、一悶着してきたらしい。
「さっきの幼女は知り合いか?」
傍目から様子を見ていたグレイシアが尋ねた。
「それ挑発になるから止めた方がいいよ。彼女はメーヴ・コノート。女性のみで結成された騎士団ヴァルキュリー騎士団の団長よ。あんな見た目だけど私より年上」
「ほう、スカルミリオーネが聞いたら喜びそうだな」
「?」
「いや、こっちの話だ。……それにしても青薔薇の騎士団とそんな連中が手を組むとは珍しいな」
グレイシアの言葉にシドが驚いた様子を見せた。
「青薔薇の騎士団って……あの!?」
「それ以外何がある。あのメーヴとか言う若作りとその団員以外の7人は青薔薇の騎士団だ。胸の鎧に付いてある青薔薇の紋章がその証だ」
そう言うとグレイシアは自分の胸を親指で小突いた。
「まさか本当に彼岸の死神が来るとはな。それに革命軍のセタンタも一緒とは……噂は本当だったわけだ」
そう言うと大柄な男は兜を外す。
男は褐色肌でビルガメシュ州の血統を受け継ぐ人物であると思われた。
「ごめんね、パロミデス」
マントと鎧を血に濡らした小柄な美青年が申し訳さなげに声をかけた。
「いいってことよトリスタン。お前が死ねばイゾルデが悲しむからな」
パロミデスと呼ばれた褐色肌の大男が人の良い笑みを浮かべて言った。
「まさか、襲撃がバレていたとはな。原因を考えたいところだが、今はこっち急がないと船が出航してしまうな」
7人のマントと鎧姿の騎士とその他大勢の女性騎士に囲まれた状況にグレイシアは冷静に目を向けた。




