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第30話 決闘

 放課後、3時限目に授業を行った体育場に向かうとそこには既に噂を聞きつけた生徒達がトラックを囲うように作られた観客席に座っていた。


 「随分な集まり様だな」


 体育場に2つあるトラックに繋がる入り口の片一方の前でグレイシアが呆れたように呟いた。


 いつも側に控えているグレンとジョナサンはディオンの代わりに観客席にいるマリアンヌの護衛に付いているためいないので完全なる独り言だ。

しかし、そう愚痴らずにはいられなかった。


 元々は何も知らないお姫様に知られることなく、お国が解決してくれるまで影ながら護衛をするだけの面倒だが、簡単な任務だったはずだった。


 しかし、今現在鋭い護衛(ストーカー)に勘付かれ、嫉妬の末にこのような決闘をさせられる羽目になっている。


 そして、今後もこのような面倒事に巻き込まれるのだろうという予感がなんとなくだがある。


 グレイシアは溜息を吐きたくなったが、堪えるとトラックへ姿を現す。


 歓声がグレイシアに降り注ぐ。まるで、大規模な大会のような盛り上がりだ。


 対してグレイシアの正面から出てきますディオンも大きな喝采を浴びるが、その目は正面のみを見ていた。


 「ディオーーーーーン!」


 しかし、ディオンはマリアンヌの声を聞くや否や顔をくるりと向け、笑顔で手を振る。


 「キャーーーーーー!」


 それを自分へのファンサービスだと勘違いした女子生徒が黄色い歓声を上げる。


 しかし、ディオンはそれらに見向きもせずに前へ向き直った。


 噂に聞くとディオンはその容姿と優等生ぶりで女子生徒から多大な人気を得ているらしいが当の本人は女っ気が全くない事で有名らしい。


 「随分真面目な事だ」


 グレイシアはシニカルな笑みを浮かべた。


 そして、双方が対峙する。


 「ちゃんと来たか。逃げるかと思っていたぞ」


 定位置についたディオンが挑発ぎみに言う。


 「まさか。自分より弱い相手に逃げる理由がどこにありましょうか」


 グレイシアがその笑顔に似合わず辛辣な挑発をし返すとディオンの顳顬が軋んだ。


 「言ってくれるな。まさか、勝算もなしに私が決闘に挑んだと思うか?」


 「いいや?ですが、それを加味しても私が勝ちます」


 言葉の応酬を繰り広げる2人を覆う形で体育場に仕掛けられていた第四階位魔法結界術鐘形結界(ドーム・バリア)が発動される。


 これは決闘などの大規模な戦闘が行われる際、観客に先頭の余波がいかないようにするための機能だ。


 「では、そろそろ始めようか」


 「ええ、そうですね。このコインが落ちた時、勝負開始です」


 そう言うとグレイシアは金貨を取り出した。


 ディオンの準備が整ったことを確認するとグレイシアは指にコインを置き、弾いた。


 宙を舞ったコインが回転しながら重力によって地面に引き寄せられてゆく。


 そして、コインが地面に着いた。


 「――追雷撃(サンダー・ショット)!」


 開始早々、グレイシアが無詠唱からの追雷撃(サンダー・ショット)をディオンへ放つ。


 迸った稲妻が一直線に王女の護衛へ向かってゆき、直撃する。


 「ディオン!」


 マリアンヌの叫びが響き渡る。


 一方、観客の生徒達は初手から繰り出された一撃必殺の魔法に目を見開いていた。


 あのディオンと言えどあれを喰らってはひとたまりもないだろうと舞い散る砂煙を見ながら誰もが思った。


 しかし、砂煙が舞うと同時にその予想は覆される。


 そこにはディオンを中心として竜巻のような風がまるで守るように巻き起こっていた。


 「何だあれは?」


 グレンが身を乗り出してディオンの竜巻をその瞳に映す。


 あれがグレイシアの攻撃を防いだというのだろうか?


 「間に合いましたか……風体結界(トルネード・アーマー)


 マリアンヌがホッとした様子で呟いた。


 「申し訳ございません。風体結界(トルネード・アーマー)とは何なのでしょうか?」


 ジョナサンが恐縮気味にしかし、それよりも興味の方が勝ったのか王女であるマリアンヌに尋ねる。


 「はい、風体結界(トルネード・アーマー)。第四階位魔法嵐風系魔術の1つです」


 「「第四階位魔法!?」」


 魔法には階位というものがあり、第一から第五までに分けることが出来る。


 階位が上がれば上がるほどその威力と効果が上がっていく傾向にあり、詠唱も長くなる傾向にある。


 第四階位魔法はその系統の魔法への適正があるものでも使える者の方が少ないと言われる高位魔法である。


 それをまさか学生の身で使える者がいることに対する驚きが2人からは滲み出ていた。 


 「風体結界(トルネード・アーマー)は使用者の周りに高密度の竜巻を巻き起こすことであらゆる攻撃を弾くことの出来る魔法です」


 「つまり、あの状態のディオンさんはほぼ無敵ってことっすか?」


 グレンの問いにマリアンヌは頷いた。


 「マジかよ……」


 グレンは驚きで席にもたれかかった。


 「その性質上、攻撃時には魔術を解く必要がありますがディオンの反射神経は常軌を逸しています。あらゆる攻撃に即座に反応して僅か一節の詠唱で発動される魔術を破ることはいくらピコー様でも困難でしょう」


 ディオンはこの魔術のおかげで格上の騎士にも勝ったことがある。


 観客は掌を返し、ディオンが勝つだろうと考えていた。


 「ほお……」


 一方のグレイシアは感心したようにそう呟くだけで動揺した様子は微塵も見られない。


 するとディオンは風体結界(トルネード・アーマー)を一時解除するとレイピアに風を待たせると三つの斬撃を繰り出した。


 第三階位魔法嵐風系魔術疾風刃(ゲイル・スラッシュ)。剣に纏わせた風を斬撃として放つ魔術だ。


 グレイシアはそれから逃げるのではなく、敢えて突っ込んで見せる。


 そして、空中で体を捻り、最小限の動きだけで疾風刃(ゲイル・スラッシュ)を躱すと同時に追雷撃(サンダー・ショット)を連続して放つ。


 「――護れ!」


 ディオンは即座に風体結界(トルネード・アーマー)を発動させると放たれた三つの追雷撃(サンダー・ショット)防ぐ。


 「早いな」


 呟いたグレイシアの背後より先程躱したはずの疾風刃(ゲイル・スラッシュ)が迫る。


 「何で!?」


 「疾風刃(ゲイル・スラッシュ)は一度躱したとしてもまるでブーメランのように対象者に戻ってくるという特性があるのです」


 驚くジョナサンにマリアンヌが丁寧に答える。


 そして、その間にも疾風刃(ゲイル・スラッシュ)はグレイシアの背後に迫る。


 「グレイシアさん!後ろだ!」


 グレンが叫ぶも鐘形結界(ドーム・バリア)に施されている防音機能のせいで中のグレイシアにその声は届かない。


 ディオンは勝利を確信し、ニヤリと笑った。


 しかし、グレイシアは抜刀し、刀を振り翳すと振り返ることなく疾風刃(ゲイル・スラッシュ)全てを両断した。


 「くっ……」


 ディオンは悔しそうな呻きを漏らすと風体結界(トルネード・アーマー)を解除し、詠唱を唱える。


 「――吹き飛ばせ!――大突風(グレート・ストーム)!」


 第三階位魔法嵐風系魔術大突風(グレート・ストーム)により、高風速の突風が起こされる。


 常人ならば立つことすら出来ず吹き飛ばされるほどの突風に対し、グレイシアは刀を地面に突き刺すと同じく詠唱を始める。


 「――映せ――氷鏡(アイス・ミラー)!」


 するとグレイシアを守るように巨大な氷の壁が出現する。


 そして、ディオンはその壁に自身と周囲の光景が映ったのを見たかと思うと次の瞬間、突風が襲った。


 「!?」


 気付いた時にはディオンの体は宙を舞っていた。


 驚きで反応が遅れたがディオンは咄嗟に風体結界(トルネード・アーマー)を展開する。


 その直後、ディオンは鐘形結界(ドーム・バリア)の障壁に激突する。


 「ディオン!?」


 何が起こったか分からず戸惑いと心配が混じった声色でマリアンヌが叫ぶ。


 「何が……起こったんだ?」


 他の観客達も何が起こったか分からず戸惑った様子を見せる。


 確かに皆、ディオンが突風での攻撃をグレイシアに行ったのを見た。


 しかし、次の瞬間に飛ばされていたのは攻撃したはずのディオンだった。


 ディオンは身体を起こすと驚愕に表情を歪めた。


 ――何が起こった!?


 当事者であるディオンでさえ、何が起こったか理解出来ていなかった。


 だが、分かっていたことが、一つだけあった。


 ――あれは……氷結系魔術!?


 グレイシアが使った魔術――それは、神帝と呼ばれた五大英雄が1人、レイ1世が生み出し、唯一使うことの出来た氷結系魔術であった。


 ――奴の得意魔術は雷撃系ではなかったのか!?


 様々な疑問が頭に入って渦巻く中、グレイシアはディオンに向かって笑いかけた。


 「ここからが俺の本気だ。精々楽しませてくれよ?」

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