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第29話 騎士のプライド

 その後、ドビュッシーは保健室へ運ばれたがグレイシアはしっかり手加減していたため、その派手なやられ方に反して大きな怪我はなく、明日にでも復帰できるだろうという養護教諭の判断だった。


 授業後の昼休みにて、昨日同様中庭で弁当を楽しんでいると多くの生徒達が集まり、グレイシアを見ていた。


 「何か、落ち着かないっすね……」


 グレンがしきりに周囲を気にした素振りを見せる。注目されているのが自分でないと分かっていても多くの視線に晒されれば落ち着かないものだ。


 どうやらドビュッシーはこの学園内でもきっての乱暴者且つ実力者で有名だったらしく、それを昨日編入してきたばかりの謎の伯爵が瞬殺したとなれば注目されない方が不思議というものだ。


 「すまんな。せめてもう少し上手くやるべきだった」


 好奇の目にを多数向けられることはグレイシアとしても愉快なものではなく、「見世物じゃねえぞ!」と言いたかったがピコー伯爵がそのような品の欠けた態度を取るわけにもいかず、視線を気にしないフリをしつつ優雅に弁当を食べていた。


 「いえ、ドビュッシー候と当たった時点でこうなることは避けられなかったことです。気にしても仕方ないですよ……」


 ジョナサンが身を縮こまらせながらフォロー入れる。どうやらジョナサンも視線が気になるらしい。


 「ご機嫌よう」


 そこへマリアンヌとディオンが現れたことで人の目が更に増えたように感じた。


 グレイシアは今日はここで食べるべきではなかったと一瞬、後悔したものの任務を放棄するわけにはいかなかったと自分を納得さると2人へ笑顔で応対した。


 「ご機嫌ようマリアンヌ様、ディオン様」


 「また、お食事をご一緒しても?」


 「勿論」


 グレイシアがそう言うと2人は芝生に座り、弁当を広げた。


 マリアンヌは周囲の生徒達を見回すとフフフとグレイシアに笑いかけた。


 「ピコー様、とても注目を集められているようで」


 「ええ、そのようですね。私としてはあまり好ましいものではないのですが……」


 グレイシアは困ったように頭を掻いた。


 「あら、そうなのですか?ピコー様は舞踏会でも注目の的とお聞きしましたが」


 「普段は仕事三昧で飛び回っているものですから。結局は注目されている時間の方が少ないもので中々慣れないものなのですよ」


 「ピコー様はどうやってあの強さを手に入れたのですか?」


 そこでディオンは初めてグレイシアに話しかけてきた。


 そのことにグレイシアは一瞬驚くもすぐに答えを返した。


 「あちこち飛び回っていると色々巻き込まれることも多いですからね。その過程で身についたとしか答えれませんね」


 「ふむ、つまり実戦的な訓練を詰めば私も強くなれると?」


 「ええ、やはり実戦を積むのが一番だと思います」


 グレイシアが断言するとディオンは顎に手を置き、考えるような仕草を見せる。


 しかしその時、グレイシアはディオンの口元が僅かに笑うのを見た。


 「ならば……ピコー伯にその実戦訓練をつけてもらいましょうか」


 「え?」


 ディオンの唐突な提案に間の抜けた声を出したのはグレイシアではなく、グレンだった。


 「ピコー伯、私は貴方に決闘を申し込みます」


 ディオンの高らかな宣言に見ていた生徒達はどよめいた。


 そして、グレイシアは……


 ―面倒臭いな……


 表面上は和やかにしながらも内心、溜息を吐いていた。


 決闘とは貴族同士によって行われる一対一の対決でお互いに何かを賭けたり、単純にどちらが強いかを競うために行われる。そして、この学園内でも相手を殺さないという条件の下、行うことが許可されており、見世物的な側面まも持っている。


 グレイシアはこれに一瞬、断ろうかと思うも公衆の面前で決闘を断るのは貴族の間では恥とされており、ピコーの名に泥を塗ってしまう。


 恐らくディオンはこのことも計算に入れた上で決闘を申し込んだのだろう。


 決闘の動機は勿論、グレイシアを護衛の立場から降ろすためだろう。


 「ちょっと……ディオン?一体どうしたの?」


 グレイシアの正体を知らないマリアンヌはディオンの発言に戸惑いの様子を見せる。


 しかし、ディオンは安心させるよつな声色でマリアンヌに微笑みかけた。


 「マリアンヌ様。私は未熟ではございますが貴方様を守る1人の騎士なのです。そうとなれば強者と戦うの騎士の本懐と言えます。我儘を承知でお願い申し上げます。私の騎士道を貫かせてはいただけないものでしょうか?」


 その科白にグレイシアは思わず笑いそうになった。


 よくもまあ、気に食わない相手を倒したいがため、自分のプライドを守りたいがためだけにこれほどの大立ち回りをして、主人に法螺を吹けるものだと。


 いや、もしかするとディオンにとっては真実なのかもしれない。


 ディオンのいたって真面目な顔を見てグレイシアはそう感じた。


 マリアンヌは不安げな表情を浮かべたもののこれはディオンにとっては大切なことだと割り切ると真っ直ぐにその目を見つけた。


 「分かりました。ただし、無理をしてはいけませんよ」


 「畏まりました」


 ディオンはマリアンヌに傅き、その手の甲にキスをするとグレイシアに向き直った。


 向き直ったグレイシアは立ち上がっており、ディオンのことをしっかりと見据えていた。


 「勝負は今日の放課後に行う。今からするのでは時間が足りないからな」


 「ええ、構いませんよ。楽しみにしています」


 唐突に開催が決定した学園の実力者を倒した謎の伯爵と王女の護衛との決闘に周りが湧き立つ中、2人は静かに火花を散らしていた。


 ――少し遅くなると家の者には連絡を入れなければな。

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