第26話 大切なモノ
グレイシアの抜刀が合図となり暗殺者達が駆け出した。
グレイシアに3人がディオンに2人が襲いかかってくる。
ディオンはレイピアを突き出し先制攻撃を仕掛けるが暗殺者はそれを躱すと逆に短剣の刺突を繰り出してくる。
ディオンはそれを避けるのでなく、暗殺者の腕を掴んで止めると刈り上げるようにして蹴りを入れ、宙に浮かせると腕を引っ張り地面に叩きつけた。
「がっ……」
脊髄を叩きつけられた暗殺者の意識はそのまま暗転し、動かなくなった。
だが、敵はまだ残っている。
「―轟け―雷光!」
もう1人の暗殺者が第二階位魔法雷撃系魔術雷光放つもディオンはそれをすれすれで躱すも電気がバチバチと伝わってくる。
しかし、そのようなことを気にしている場合ではない。
雷撃を躱すとそのまま疾駆し、突きを繰り出すもこれは防がれてしまう。
だが、ディオンは更に高速の突きを繰り出し続ける。
これを暗殺者は防ぎきれず体中に風穴を空けるともに鮮血が迸り倒れ伏した。
武技花麗刺突。敵に目に見えぬほどの速さで突きを繰り出すボーモン家秘伝の武技だ。
早々に2人の暗殺者を倒したことに満足しつつ彼奴はどうなったのだろうと目を向けるとそこには布で刀の血を拭うグレイシアと倒れ伏す3人の暗殺者がいた。しかも情報を引き出すためにディオン同様、全員生かしてある。
「おや、終わりましたか」
グレイシアがにこやかに笑いかけてきた。
「2人の暗殺者をこうも簡単に倒すとは流石は王女の護衛を務めているだけはありますね」
本当に感心したように言っているがディオンより多い暗殺者をディオンよりも短時間で倒したグレイシアの方が凄いのは明らかだ。
「嫌味か」
思ったことを吐き捨てるように言ってすぐ負け惜しみのように聞こえてしまうことに気付き、顔を顰めた。
―これでは私が大人気ないみたいではないか!
「不快に感じたのなら申し訳ございません」
グレイシアが胸に肩を置き、頭を下げる。
その恭しい態度が余計に腹ただしい。
「さて、それはそうと警邏官を呼びましょう」
グレイシアの呼びかけにディオンは「ああ」と返事をするしかなかった。
………………………………………
その後、駆け付けた警邏官に暗殺者達の身柄を引き渡すとグレイシアは屋敷へ帰っていった。
「帰ったぞ」
そして、長い庭を歩き扉を開ける。
「お帰りなさいませ、伯爵様!」
「あ……あの……お帰りなさいませ……」
そこには何故か目一杯に着飾ったアリスとエデがいた。
「……どした?」
それがグレイシアの発した第一声だった。
―2人とも打ち解けているようで何よりだが俺がいない空白の時間に何があったのだろうか……
ちなみに先に帰ってきたグレンとジョナサンはその様子を傍で見ていた。
「伯爵様、私達の格好をどう思われますか?」
「どう思われますか……似合ってるし綺麗だと思うぞ」
「ありがとうございます!嬉しいです!」
「――っ〜〜〜!」
嬉しそうにくるくる回るエデと赤らめた顔を掌で隠すアリス。
「何故ドレス姿なのだろう」と考えるグレイシアだったが2人の姿を見てあることを思いついた。
「2人も舞踏会へ行くか?」
「「舞踏会?」」
アリスとエデは首を傾げた。
「そうだ。交流のあるモレル男爵から誘いの手紙があってな、今夜行くことになったんだ。ちなみにグレンとジョナサンは強制参加な」
「「はい……」」
2人は「まだ働かせられるのか」とガクリと肩を落とした。
「あの、すいません。舞踏会とは何をするのでしょうか?」
アリスが手を上げて尋ねるとグレイシアの代わりにエデが説明を始めた。
「貴族通しが交流を兼ねる場のことよ。大体は自分のお婿さんや奥さんを探す場合が多いけどモレルさんは貿易会社を運営しているから方だからこの場合は商談相手との交流が目的ではないかしら?」
エデが「そうですわよね?」と目だけで尋ねるとグレイシアは首肯した。
「でも、そんな所に行って俺ら何したらいいんですか?仕事のことなんて全く分からないですよ」
グレンの言葉に横にいるジョナサンがブンブンと不安げに頭を振った。
「それは心配しなくてもいい。適当に相槌打ったり飯食べてればいいから」
「そんな適当な……」
ジョナサンはボヤいたがグレイシアは気にする素振りを見せず階段へ歩いてゆく。
「さあ、グレン、ジョナサン準備をするぞ?」
前を向いたまま言われた2人は返事をすると急いでその背中を追いかけた。
………………………………………
グレイシア、グレン、ジョバンニが準備を終えると5人は馬車に乗り込んだ。勿論御者はベルトゥッチオだ。
そのまま馬車で揺られる内に疲れていたのかエデ、グレン、ジョバンニは眠ってしまい起きているのはグレイシアとアリスだけになってしまった。
緊張して押し黙るアリスに何か喋りかけた方がいいのではないかと思案しているとその指に見覚えのない物が着けられているに気付いた。
よく見るとそれはダイヤの指輪で自分を着飾ることに興味がないアリスがそんなものを着けているのは今まで見たことがなかった。
「アリス、その指輪はどうしたんだ?」
気になったので尋ねてみることにした。
「あ……もしかして、駄目……でしたか?従者の立場にある物がこんな物を着けるなんて」
「いや、従者とて多少は着飾ることに問題はない。俺が訊きたかったのは今までそれを着けているのを見たことがなかったからどんな物か気になっただけだ」
「あ、そういうことですか……分かりました。えっと、これは……ですね……」
アリスの歯切れが悪くなり押し黙ってしまう。もしかすると話したくない事情があるのだろうか?
「アリス、話したくないなら話さなくていいぞ」
「いえ……聞いてください」
アリスは「大丈夫」ではなく「聞いてください」と言ったが、その科白にはこの話を誰かにしたくて堪らないという気持ちではなく、「この話をしないと前に進めない」という気持ちを帯びているように感じた。
ならば自分は彼女の話を聞いてあげるとべきだろうとグレイシアは頷いた。
「これは元々私が住んでいた孤児院のシスターさんがされていた物だったんです」
その話を聞き、グレイシアは記録で読んだその人物に当てはまりそうな名を探る。アリスが尊敬すると答えていた人物がその孤児院のシスターだったはず。
―確かその人物の名前は……




