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第25話 白百合の騎士

 一方のグレイシア達は二限目の授業が終わり、昼休みに入ったので中庭で昼食を食べていた。


 学園には食堂があるのだがピコー邸には専属の料理人(シェフ)がいるため弁当を作らせ持ってきていたため行く必要はなかった。


 「うん、美味い!」


 グレンは弁当に舌鼓打つもジョナサンは落ち着かない様子でオロオロとしていた。


 「どうしたんだよジョナサン?おまえも早く食え。美味いぞ」


 「うん、そうなんだけど護衛放ったらかしていいのかなって……」


 「あ……」


 ジョナサンの指摘で気付いたグレンはグレイシアに目を向けるも当の本人はサンドウィッチ片手に草の中で蠢く蟻を見つめていた。


 「グレイシアさーん、話聞いてます?」


 「うん」


 「聞いてないっすよね?」


 「ううん」


 どうやら本当に聞いているようだ。


 「じゃあ、聞きますけど王女様の護衛してなくて大丈夫なんすか?」


 「大丈夫だ。何せ彼女は……」


 「あら、ピコー様ではございませんか!」


 グレイシアの言葉を遮りマリアンヌとディオンが目の前に現れた。


 「おや、マリアンヌ様。偶然ですね、どうされたのですか?」


 今さっきと打って変わって慇懃無礼は態度でマリアンヌに接するグレイシアを見て2人は「絶対嘘だ」と確信した。


 恐らくグレイシアはマリアンヌがこの庭で昼食を食べるということを知っていたのだろう。そして、先回りしたというわけだ。


 「いえ、私もここでよく昼食を食べますの」


 「そうでしたか。申し訳ございませんそうとは知らず。ジョバンニ、グレン、行くぞ」


 2人に呼びかけるとグレイシアは荷物をまとめてその場を立ち去ろうとする。


 「よければお食事をご一緒しませんか?」


 グレイシアの予想通りマリアンヌはこう言ってきた。


 「構わないのでしょうか?」


 しかし口ではこう言っておく。


 「ええ、是非!」


 後ろで控えるディオンが不快げに眉をひそめだが気付かないふりをしておく。


 「それでは私からも宜しくお願いします」


 そう言うとグレイシアを頭を下げる代わりに2人に木陰へ入ることの出来るスペースを空けた。


 ………………………………………


 ―何故だ!?


 ディオンは内心で憤っていた。


 何故この男との接触を回避することが出来ないのだと。


 マリアンヌ様はピコーに興味を持っている。それは恐らく前国王ルートヴィヒ14世殿下と懇意の関係にあるからだろう。


 そこからディオンの目論見は崩れた。


 王女に接触しようとすれば周囲から目を付けられる。故に彼奴が近づいてくる隙などないと思えた。


 しかし、王女の方から接するとなると話は別だ。逆にそれを拒むのは無礼にあたる。しかも奴は丁寧に遠慮する()()までしてくる。


 ならばせめて休み時間に2人が会わないようにしようといつもの庭で昼食を摂ろうとするとそこには既に奴がいるという始末だ。


 ―早く手を打たねば。


 決意を新たにディオンは策を模索し始めた。


 ………………………………………


 グレイシアはマリアンヌと会話に興じながら護衛らしく周囲の観察を始めた。


 目だけを動かして周囲を観察するとその大半は好奇の目であったがその中にグレイシアは獲物を付け狙う魔獣にも似た視線を感じた。


 その方へ視線だけを向けると校舎の陰からこちらを覗く人影があるのに気が付いた。学生服を着ているが恐らくは暗殺の天使の一員だろう。


 上流階級の子息が通うこの学園の警備は厳重のはずだがさすがはプロというところか。それくらいは出来るらしい。


 だが殺気を隠せていないあたりはまだまだだと笑った。


 それよりも主人が絶賛付け狙われ中だというのに何故正規の護衛であるディオンが気付いてないかと思ったが何やら俯いて考えこんでる様子だ。


 「ディオン殿」


 恐らくはグレイシアをどう排除するか考えているのだろうがそれで本業が疎かになっては本末転倒だ。「早く気付け」という意図を込めて呼びかけるとディオンはハッとした様子でこちらを見てくる。


 そして、マリアンヌに向けられる視線に気付き、顔を向けるもそこには既に刺客の姿はなかった。


 「どうされましたか?」


 グレイシアは何も存ぜずと言った様子で尋ねる。


 「いえ、何もございません。ピコー伯もどうされたのですか?急に私の名前を呼んで」


 「いえ、1人考え事をされていた様子でしたのでどうされたのかなと思いまして」


 と上辺だけの会話を続けていく。


 「最近悩みが出来ましてね。それの解決策を講じていたところです」


 「まあ、そんなことがあったの?ディオン、私には聞かせて下さいな。何か力になれるかもしれません」


 マリアンヌが心配そうに言った。


 「いえ、マリアンヌ様の手を煩わせるわけにはいきません。それに……もう解決策は浮かびました」


 そう言うとディオンはグレイシアに目を向けてくる。"悩み"がグレイシアのことを指しているのだとすればこれはディオンの「お前の排除の仕方を思いついた」という宣戦布告に等しい意味を持つ。


 「そうですか。それは良かった。無事解決すると宜しいですね」


 グレイシアはニコリと微笑み、面白半分で挑発とも取れる科白を吐く。


 「ええ、期待しておいて下さい」


 微笑み合う2人の間には見えない火花が散っていた。


 火花が見えないマリアンヌは「2人とも仲がいいのね」と微笑み、グレンとジョバンニはその様子に慄いていた。


 ………………………………………


 その後は一度ディオンに勘付かれたことを警戒してか暗殺者は姿を見せることなく、視線は感じ取れなかった。


 そして、学校が無事終わりグレイシアは帰路に就く。


 部活動をしている者はそのまま部活に行くのだが当然ながらグレイシアは属してなくそれはマリアンヌとディオンも同様であった。


 ちなみに貴族御用達の馬車での出迎え等は道路の混雑を避けるため使用禁止となっているため生徒は全員行き来が徒歩だ。


 「ピコー様!」


 つまり帰路で偶然会うということも起き得る。尤もピコー邸とマリアンヌ達王族の居城であるヴェルサイユ城への方向は同じなため実はこうなるのは必然であったりする。


 「良ろしければ帰りをご一緒しても?」


 「はい、御身の望むがままに」


 グレイシアが傅くように言うとまるで臣下のような態度を取ったのが気に食わなかったのかディオンの目つきが鋭くなったのを感じたが実際フランソワ国民なので仕方ない。


 こうしてグレイシア達はマリアンヌ、ディオンと帰ることになった。


 道中、マリアンヌはグレイシアが世界中を旅しているということを思い出し、そのことを訊き出してきたのでそれに答えていると大いに喜んでくれた。それに比例するようにディオンの目も鋭さを増していったが……


 その間にもグレイシアは背後から何者かが着けてきていることに気付いていた。その数こちらと同じ5人。


 そして、その気配は今度はディオンも感じ取っていたようで常に後ろを警戒した立ち回りをしていた。


 そのせいか相手は何も仕掛けてこない。


 後顧の憂いを無くすためにも連中はここで倒しておいた方がいいだろうと判断したグレイシアは人気が少なくなった所で立ち止まった。


 「申し訳ございません。少し忘れ物をしたようです。グレン、ジョナサンは先に帰ってなさい」


 それだけでグレンとジョナサンは意図を察し、着いていくとは言わずに「畏まりました」と返事をした。


 「では、私もご一緒しましょう。ピコー伯はまだ学園に慣れていません。案内しましょう」


 そこへディオンが出てきた。


 その目には「お前だけにいいところは取らせない」という対抗心に満ちていた。


 護衛がその対象の側を離れるのは好ましいとは言えないが刺客を迎撃するためならばある程度は仕方ない上に癪ではあるがグレンとジョナサンがいるから大丈夫だと判断したのだろう。


 「そう、お願いしますわね。ではピコー様、ご機嫌よう」


 「ご機嫌よう、マリアンヌ様」


 「すぐ戻りますので」


 マリアンヌはグレン、ジョナサンと共に先に去っていくとグレイシア、ディオンの2人きりとなった。


 「ようやく2人きりになれたなピコー」


 ディオンは先程の打って変わり敵意を剥き出した口調でグレイシアに話しかけた。


 「これは随分と穏やかでない様子ですね。学園を案内してくれるのではないのですか?」


 しかし、グレイシアはまだ本心を見せずエドモン・ド・ピコーとしての態度でディオンに接した。


 「貴様……もう惚けるのはよしたらどうだ。貴様だろう?前国王殿下から直々に送り込まれてきた護衛というのは。どんなのが来るかと思えば随分と線の細い弱そうな奴が来たものだ」


 そんなグレイシアの態度に苛立ったのかディオンは馬鹿にしたように言ってきた。


 「それはそちらも同じでしょう?低めの身長に華奢な体格。中性的な顔立ちと言いまるで少女のよう……」


 「貴様ぁ!私を侮辱する気か!」


 グレイシアの仕返しにディオンは意図も簡単に乗ってきた。どうやら容姿には自分も気にするところがあったらしい。


 「言ってきたのは貴方でしょうに。それよりも他にやることがあるのではないでしょうか?」


 グレイシアがそう言うと同時に5人の刺客が観念したのか2人の前へ姿を現した。


 「ああ、どうやらそのようだな」


 ディオンは平静さを取り戻すると己の得物であるレイピアを構えた。


 「貴方の言っていた悩みの種を解決する方法とは、私なしでも護衛は十分だということを証明するということでしょう?」


 ここでグレイシアは自分が送られてきた護衛ということを認めた。


 「ああそうだ。ということだ。お前は黙って後ろで見ていろ」


 「そういうわけにはいきません。受けた仕事はきっきりと熟す主義なので。それに私も腕には自信があるのですよ?」


 そう言うとグレイシアも鍔が雪結晶の形となっている氷色の刀を鞘から抜き構えた。

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