表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/73

第23話-2 始まる学園生活(?)②

 遅れた時間を取り戻すためディオンはいつもより早歩きで王女のいる高等部魔術科3学年の2組に向かう。


 扉を開けると階段式に設置されている一列型の机と席が左手に見える。


 そこへ一点に生徒達が集まっている場所がある。


 ディオンは苛立ちの溜め息を吐くと先程よりも階段を上がり早歩きでそこへ向かう。


 少し目を離すとこうなのだ。まるで光に群がる虫のように我が君へ群がる。男はその夫の座を狙って。女は甘い汁を啜るために。


 ―虫唾が走る。


 ディオンがギロリと群がる虫ども睨む。


 それに背筋が凍るような感覚に陥り背後を見るとそこには王女殿下の護衛たる茶髪の美青年が佇んでいた。


 その姿を見ると一同は続々とその場から去っていく。そこに残ったのはディオンが心から敬愛する白百合のような美貌の持った少女―フランソワ王国第一王女マリアンヌだった。


 「あらディオン、帰ってきたの!」


 マリアンヌが嬉しそうに手を合わせて言うとディオンも自然と頰を綻ばせた。


 「はい、戻って参りました。少々お待たせしまい誠に申し訳ございません」


 「いいのよ。ところで何故皆様は一斉に席に着かれたのかしら?」


 「それはきっともうすぐ授業時間だからでしょう。何も気に留められることはありませんよ」


 そう―何も気に留められることはないのだ。


 「そう。なら構わないわ」


 そこへ担任教師であるアラン・カミュが扉を開け、入ってきた。


 「お前らおはようー」


 カミュがフランクな口調で言うと生徒達が「おはようございます」と口々に挨拶を返す。


 「よーし、今日も全員揃ってるな。そんなお前達に言わなければならないことがある。何と!この2組に新しい仲間が加わることになりましたー!」


 カミュがパチパチと手を鳴らすとクラス一同が浮き足立つ。


 「はーい!一同静かにー。それでは入ってきてもらうぞ。とうぞー!」


 扉が開かれ、入ってくる3人の生徒に一同は釘付けになった。否―一同が見ているのは1人だけだった。


 それはマリアンヌとディオンも同様だった。


 「あら、あの方は……」


 「彼奴(あやつ)は!」


 そして、3人はカミュが名前を書いた黒板の前へ立つ。


 「それでは、どうぞ」


 カミュに促され白髪の美青年は柔らかな笑みを浮かべて口を開いた。


 「エドモン・ド・ピコーと申します。どうか皆さん、お見知り置きを」


 その自己紹介に一同は騒めき立つ。


 「エドモン・ド・ピコーだって!?」


 「あの超金持ちの伯爵でしょ!?」


 「何でこの学園に!?」


 「はーい!皆静粛にー」


 カミュがパンパンと手を叩くと一同は徐々に静かになっていった。


 「知っている者も多いと思うがピコー君は王国から伯爵の位を賜っている貴族で今回、編入生として入学してくることになった。横の2人は従者のジョナサン・リーヴ君とグレン・アークライト君だ」


 紹介に預かったジョナサンとグレンが頭を下げた。


 「本人曰くこの学園の学則でも言っているが身分分け隔てなく接して欲しいとのことだ」


 カミュがそう言うとピコーはニコリと笑みを浮かべた。


 その笑みに女子生徒の胸が思わず高鳴る。


 「では、皆拍手を」


 クラス一同から万雷の拍手が鳴った。


 マリアンヌは笑みを浮かべながら、ディオンは軽く手を叩いていた。


 「じゃあ、好きな席に座ってくれ」


 「分かりました」


 そう言うとピコーは階段を上がってゆく。


 その姿をディオンは横目で捉えていた。


 ―気色が悪い。


 それがピコーに抱いた第一印象(と言っていいか分からないが)だった。


 まるで全てが作り物のようだ。笑顔、所作、その全てが計算され尽くした行動に思えてならない。


 この者が間違いなく国王より派遣された新しい護衛なのだろう。


 ―だが、お前の出る幕はない。マリアンヌ様の護衛は私1人で十分なのだ。


 ディオンはピコーが隣に座ってくることを警戒し、物騒にも腰のレイピアに手をかける。相手をおだすつもりで。


 しかし、予想に反しピコーとその従者達はマリアンヌのディオンの席列を通り過ぎその二つ後ろの誰も座っていない席に並んで座った。


 ―何故だ?


 ディオンはレイピアから手を離し訝しんだ。


 護衛というのは必ず側に控えなければならないはず。しかし、あの男はこちらに一瞥もくれず後ろの席に座った。


 まさかピコーは護衛ではないのだろうか?いや、距離が離れていても守れる自信があると言うことか?


 恐らくは後者の可能性が高いだろう。


 ―図が高い。


 そう思うとディオンは後ろ目でピコーを睨み付けた。


 しかし、それにピコーが気付いた様子は見せなかった。


 ―殺気にも気付かないとは……所詮こんなものか。


 ディオンは心中で嘲笑った。


 ……………………………………


 前方より向けられる殺気を無視し、ディオンが呆れたように前を向くとグレイシアは鼻で笑った。


 「今めっちゃ睨んでませんでした?」


 グレンが小声で目を見開きながら言うもグレイシアは「そうだな」と授業を聞くフリをし、意に介さない様子で答えた。


 どうやら自分は早速嫌われているらしい。話したこともない人間から。


 グレイシアはそれが面白い可笑しかったのかフフフと静かに笑った。


 「でも、護衛なら無理してでも隣に座った方が良かったんじゃないですか?」


 ジョナサンの問い掛けにグレイシアは首や横に振った。


 「変にディオンの気に触れても面倒だし、王女殿下に自ら接するというだけで悪目立ちしてしまうからな。今はいいさ。だが……」


 グレイシアは目線を下に向け、マリアンヌを見た。


 「急がずとも彼女の方から接触してくる。そう慌てる必要はない」


 そう自信に満ちた目で呟いた。


 それと同時にディオンが首を後ろに回すがグレイシアは反射的に目線を黒板へ戻した。


 ディオンはしばらくこちらの様子を伺っていたがこれ以上警戒しても無駄だと判断したのか前に向き直った。


 「おっかねえー……」


 グレンがそう呟くのも無理はない。こちらの視線に勘付くとは対した察知能力だ。それも自分ではなくマリアンヌに対しての。


 「もしかしたらマリアンヌ王女を狙う暗殺者とでも思っているのか?」


 グレイシアは冗談めかして言うと1人笑った。


 ………………………………………


 その後、(グレイシアにとっては)簡単な一限の魔術講義が終わるとクラス一同が一斉に集まってきて質問攻めに遭ったがグレイシアはそれに対し、一つ一つ答えた。


 「じゃあ、次は君だね」


 「はい!何でピコーさんはこの学校に入ろうと思ったのでしょうか?」


 その女子生徒質問にグレイシアは笑って答えた。


 「学生生活に憧れがあったからだよ。若年で父から家督を継いでからは忙しくてそんな暇がなかったんだけれどこうして時間が出来たからね。夢を叶えたいと思ったのさ」


 エドモン・ド・ピコー伯爵は若くして父を亡くし、その後1人でピコー家の財産を守ってきたという設定になっている。


 その答えに多くは穏やか気持ち包まれる一方で幾人かが冷めた視線を向けてきているのを感じた。


 その人物はアルフレッド・ド・ドビュッシーという生徒とその取り巻きだった。


 父は軍務省軍務総監を務めるアルフォンス・ド・ドビュッシー侯爵でその家柄と自信が強者という自負から周囲に対し、横柄な態度を取っているという。


 恐らくドビュッシーは"遊び感覚"で学園に来ていると思っているグレイシアのことが気に喰わないのだろう。


 ああして睨むだけなら放っておいて構わないが突っかかってきたならば何か手を打たねばならない。


 グレイシアはドビュッシーを要注意人物の1人に指定した。


 「あら皆さん。楽しそうですわね」


 その声に一同の視線がグレイシアから外れる。そして、声の主のために道を開けた。


 出来た"道"からグレイシアへ歩み寄ってきたのはマリアンヌだった。


 白銀色の髪を後ろに纏めた幼気の残った顔立ち美女でその顔に似合わぬ立派な物を持っており、男ならその双丘に目を奪われるのだろうがグレイシアは「重そうだな」という枯れた感想を抱いていた。


 「これは王女殿下。ご機嫌麗しゅうございます」


 グレイシアは恭しく頭を下げた。


 ―ほら、来た。


 グレイシアは俯かせた顔の口角を上げた。


 そんなグレイシアの様子をディオンは注視していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ