第17話 国王からの依頼
ジョーンズと密約を交わしたグレイシアはアリスとの約束通り7人の共同部屋へ向かっていた。
らしくないなとグレイシアは自嘲した。
あの7人と自分の関係はあくまで部下とその上司。それ以上にもそれ以下にもなってはいけない。
つまり、信頼は必要だが、親しみは必要はないのだ。
情が湧いていしまえば任務に支障が出てしまう。
「いや、これも言い訳だな」
初日にセタンタに弱音を漏らしていたのはどこの誰だ。
結局は恐れているだけなのだ。
大切な人が出来、それを失うことを。
この世界で失うのは当然なのに。
―俺はその覚悟を未だ決めれていない。
そんな葛藤を抱きながらグレイシアは部屋の前へ辿り着いた。
ドアノブに手を掛けようとするもすぐに引っ込めてしまう。
何を躊躇っているのだ。
そもそも厳密に言うと俺は大切なものたちを失ったわけではない。
自分から捨てたのだ。
そして、それは自分が望んだことなのに。
―俺は後悔しているのだろうか?あの時の選択を。
あれが最善の選択のはずだったのに。
「ハハハハハ!それはないない〜」
そこへ扉の向こうから笑い声が聞こえてくる。
皆楽しそうだ。
あれなら俺がいなくても大丈夫だろう。
そう思いその場を去ろうとする。
「グレイシアさん、いつ来てくれるのかな……」
しかし、背中に突き刺さるアリスの声で立ち止まる。
「時間的にはもう来てもおかしくないと思うけど……」
「来ないかもしれないぜ」
ジョナサンの呟きにライオネルが素っ気なく言った。
その科白にアリスは悲しそうに俯く。
「ライオネル!何でそういうこと言うの!」
シルヴァーナの非難するような声が聞こえた。
「だってアイツ、何かオレたちと距離取ってるだろ?」
その言葉にグレイシアはピクリと反応する。
「確かにそういう節はあるよな。あの人」
グレンも同調するように言った。
「それって俺たちのことが嫌い……とか?」
「そういう感じではないな。何というか仲良くしすぎないようにしてるっていうか……」
アーロンにシドが言った。
「何でだろうね?」
「昔、俺らみたいな部下がいた時期があったけど全員死んじまった……とか?」
近い答えを言われてしまい思わず振り返り、扉を見つめつつ、聞き耳を立てる。
「そりゃねえんじゃないの?アイツがそんなこと気にするタマかよ。でもそうだとすれば……」
ライオネルは目を伏せて笑った。
「今度は死なせねえようにオレらを育てろって話だ」
その言葉にグレイシアが目を見開いた。
「1人で大国シオン王国を恐れさせてんだ。なら、オレら全員生かすくらい出来んだろ」
確信を持ったように言うライオネルにグレイシアは微笑を浮かべた。
「そうだな」
グレイシアは一人呟いた。
それが元々の依頼なのだ。
依頼を熟さなければ彼岸の死神の名が廃れるというものだ。
―あいつらは全員死なせない。
そんな決意を心に秘めるとグレイシアは扉の前へ戻るとドアノブに手を掛け、捻ると開けた。
「来たぞ」
………………………………………
「はぁ!」
加速したシドが斬りかかる。
それと同時にアーロン、ライオネル、グレンが四方から襲いかかる。
しかし、その攻撃全てを受け止めるとデスサイズを振るい突風を起こし、全員を吹き飛ばしてしまう。
さらにそれと同時にジョナサンの弾丸、アリスの矢を打ち消しただけでなく、空中で羽ばたくフレースヴェルグをも撃ち落とした。
「クソ!」
片膝を着き、着地したライオネルが悔しそうに漏らす。
「攻撃が一辺倒だ。各々のもっと攻撃工夫しろ!」
初任務成功から一月が経った。
グレイシアは遊撃部隊の指導や任務を熟しつつも医療部隊と財務部隊の仕事も行っている。
遊撃部隊は訓練と実戦経験を積んだことにより、着実に成果を上げ、一月前とは間違えるほどに成長した。
医療部隊も随分と体制が整ってき、既に前隊長がいた頃の機能を取り戻し、最近はグレイシアがいなくてもなんとかではあるが運営が可能となってる。
財務部隊はダングラールから引き継いだ仕事を隊員たちにもやらせるようになったため、仕事効率は圧倒的によくなり、収入も増えた。そして、その収入を他部隊に適切な予算として配分するようになったため、革命軍の全体戦力も上がった。
しかし、新事業については未だ未完成で鋭意努力中と言ったところである。
そして今日、遊撃部隊は任務がないため、実戦訓練に励んでいた。
着実に7人の技量は上がっているものの未だグレイシアには敵わず全員纏めてかかっても倒せるのはしばらく先になりそうだ。
訓練を終えるとグレイシアはジークに武技九頭斬リノ太刀の習得練習に付き合う。
「腰と腕の振り方を一致させるんだ!」
「……」
ジークの飲み込みは早く、指摘した箇所はすぐに修正し、出来るようになっている。
この1ヶ月やっているのは反復練習だけだがそれにも関わらずジークは同時に3つの斬撃を繰り出せるようになっていた。
この調子でやっていれば1年も経たない内にモノに出来るかもしれない。
末恐ろしいものだとグレイシアは思った。
その後、グレイシアは早めのシャワーを浴びると財務部隊の仕事に励み始める。
こうでもしなければ夕食をここで食べることになってしまう。
それではダングラールを真似ているようで嫌なので夕食までには終わらせる。
最近は……というよりあの日以来グレイシアは7人との時間を訓練中以外でも増やすように心がけていた。
グレイシアの意識が変わったというだけではなく、そうすることによって訓練中では分からなかった7人の性格や様子などが分かるようになったからだ。
机に向かって3時間が経つ頃には今日の分の作業が終了し、背筋を伸ばす。
「じゃあ、これは頼んだぞ」
グレイシアはそう言い、隊員の1人に資料を渡すと返事をし、作業に取り掛かる。
ちなみに財務部隊の仕事の時、グレイシアは仮面を付けたままであるため、最初は怖がれていたものだが今ではすっかり慣れた様子である。
そして、部屋を出て行こうとすると同時に通話用の魔道具通信魔具が鳴った。
「珍しいな」
グレイシアの通信魔具に登録されている術式は少なくセタンタなどの革命軍の一部に限られている上、ほとんど使う機会もないため時々その存在を忘れることも多々ある。
グレイシアは部屋を出ると通話に出る。
「もしもし?」
「もしもし。朕だ、分かるかい?」
その声と特徴的な一人称を聞き、グレイシアは驚くと同時に背筋を伸ばした。
「ルートヴィヒ王殿下!?……ご無沙汰しています!」
「もう王ではないよ。それに其方とは友人だ。堅苦しい態度はやめて欲しい」
電話越しにも関わらずグレイシアが頭を下げる人物はフランソワ王国前国王ルートヴィヒ14世その人だった。
「かし……分かりました。それで……体調の方はいかがでしょうか?」
「うむ、無事なんの病気もない。もう少し王位にいても大丈夫なくらいにはね」
「それは良かったです。また近々伺わせて頂きます」
「ああ、それでこうして連絡させてもらった理由だが、君に依頼したいことがある」
「依頼、でしょうか?」
グレイシアは少し顔を曇らせた。
今、グレイシアは革命軍の一員として活動している。以前ならすぐにでも飛んで依頼をこなすところだが組織の一員となるとそう簡単にはいかな……
―いや、待てよ。
グレイシアは考え直す。
実はグレイシアはフランソワ王国に偽名で戸籍を持っており、そこではそれなりに高い地位を築いている。ならばそれを利用すれば財務部隊の新事業も上手くいくかもしれない。
こういう正統な理由があるのなら劉陽も許してくれるだろう。
「グレイシアくん?」
「……ええ、依頼ですね。内容はどのようなものでしょうか?」
「うむ、依頼の内容は私の孫娘の護衛である」
「護衛……ですか?」
自分のこと得意とする暗殺と正反対の依頼内容にグレイシアは戸惑いの声で応えた。




