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第2話-1 革命軍①

 黒い人影は自分の倍以上の高さのある塀を跳躍し、なんなくグレース伯爵邸の敷地内へ侵入すると真っ直ぐに扉へ向かう。


 しかし、人影が辿り着くよりも早く扉が開き、グレース伯爵家の兵士たち8人が出てくる。


 兵士がすぐに侵入者に気付けたのは人影が結界術の探知機能に引っかかり、それを察知した結界術師が兵士へ伝えたためだ。


 3人ほどの兵士が一斉に飛びかかるが人影は大鎌を振るい、全員を切り裂いた。


 それを見た隊長格の兵士が他の兵士に伝える。


 「彼岸の死神だ!心してかかれ!!」


 無論、家の兵士全員が彼岸の死神の排除へ向かった訳ではない。兵士の多くは当主であるグレース伯爵にその夫人、娘であるエリザベスの保護へ向かった。


 「何!?彼岸の死神が!?」


 「はい、今兵士たちが対応をしておりますが……」


 「そうか……取り敢えず逃げるぞ。さあ、君も一緒に」


 グレース伯爵は怯える妻に手を差し出す。夫人は震えるながらもその手を取る。


 「あなた、エリザベスは……」


 「きっと大丈夫だよ。さ、早く行こう」


 2人が部屋を出たその時だった。


 廊下の向かい側から兵士が飛ばされ、壁に激突してきたのだ。兵士はピクリとも動かず壁には血が飛び散る。


 その惨状に夫人は口元を押さえながら悲鳴を漏らす。


 そして兵士が飛ばされてきた方向から彼岸の死神がゆらゆらと現れた。手に持った大鎌の刃は真っ赤に染まっており、多くの兵士たちを屠ってきたことを証明していた。


 護衛の兵士が声を上げてかかるも一瞬で仕留められる。


 間髪入れずに彼岸の死神は丸腰となった伯爵夫婦との距離を一気に詰めると鎌を振り上げる。


 「く……っ!」


 グレース伯爵はとっさに夫人と抱き寄せると自身の背中を向け庇う。


 「あなた!」

 

 そして、その背中に無慈悲に鎌が振り下ろされる。


 ………………………………………


 グレイシアは目を覚ました。


 しかし、それは寝付きの浅さから来た単なる目覚めではなかった。


 『ガキイィィイイン!』


 金属と金属がぶつかる激しい戦闘音。


 これが原因だ。


 ただ事でないと感じたグレイシアは刀を手に取ると扉を開けた。急いで部屋を出、廊下を全力疾走で走る。


 すると前方に人影が現れる。


 グレイシアは足を止めると刀の柄に手を置き、いつでも抜刀出来るよう備えた。


 人影はふらふらとこちらへ歩いて行き、月光に照らされ、その正体現す。


 「グレイシア様!」


 人影の正体はエリザベスだった。


 姿を現したエリザベスはグレイシアの胸に真っ直ぐ飛び込んでくる。


 「グレイシア様……」


 泣きながら震える体にグレイシアは手を回し、頭を優しく撫でた。


 「大丈夫ですか?落ち着きましたか?」


 「はい、ありがとうございます……」


 「何があったんでしょうか?」


 「黒くて大きな鎌を持った人が……家に入ってきて、兵士さんがたくさん……殺されて……」


 それを聞くとグレイシアは鋭く目を細めた。


 「分かりました。まずは逃げましょう。リジーを安全なところに避難させます」


 「しかし、お父様たちは?」


 「大丈夫ですよ。グレース伯爵はあなたを逃がした後、私が助けに行きます」

 

 そう言うとグレイシアはエリザベスの手を引き、走り出した。


 …………………………………………


 目を閉じ、死を覚悟した。


 しかし、その背中に大鎌が振り下ろされることは無かった。


 恐る恐る後ろを振り返ると何者かが死神の大鎌を受け止めていたのだ。


 「チッ……」


 「ハアァァ!!」


 大剣で死神を押し返したのはまだ20歳にも満たない黄金に輝く長髪の美少女だった。


 王冠のような形で三つ編みにした髪を後ろに結い上げ、その頭は美しく輝く飾り紐で彩られ、胸には滝のように飾られた100個はあるであろう金のブローチを付けていた。


 「ハッ!」


 少女はその手に持つ宝玉の如く輝く大剣を構え、死神に襲いかかる。


 死神は少女の一撃を受け止めるが体勢を崩す。


 その隙を見逃さず少女は新たな斬撃を加えるも受け止められる。


 しかし、少女は反撃の隙を許すことなく、死神に攻撃を繰り返した。大勢の兵士を蹂躙していた死神が1人の少女に抑えられていた。


 そして、遂に死神は少女の斬撃に耐えきれず後方に飛ばされる。


 「今よ!」


 少女の掛け声と共に背後よりオリーブと鳩の紋章が入ったマントを羽織った4人の男女が現れ、転倒した死神に襲いかかる。


 死神は攻撃を弾こうとするが、捌ききれず槍の一撃を肩に喰らった。


 「ぐ………っ!」


 しかし、死神は体勢を立て直すと持ち前の俊敏さで逃げ去った。


 「すいません!仕留められませんでした!」


 「早く全員で追って!私も後で行く!」


  「「「「はい!」」」」


 4人は返事をするとすぐに死神の追跡を始め、その場から消えた。


 「グレース伯爵、ご無事ですか?」


 少女は残されたグレース伯爵夫妻に声をかける。


 「ああ、怪我はない。ところで君は……」


 「私とは初対面でしたね。申し遅れました。私は革命軍リベリオンの者です」

  

 革命軍リベリオン。それはシオン王国の革命を目指している義勇軍の名称だ。百数十年前にも同じ名称の組織があるが直接の繋がりはなく、今の革命軍(リベリオン)はその組織に倣って作られたのだ。ここ数年の間に作られた組織だが急速に勢力を拡大していき、シオン王国と対立関係にある国とも協力関係を築いている。



 「そうですか・・・だが、何故此処へ?」


 「参謀部隊から私たちの協力者であるグレース伯爵様の家が襲撃を受けるかもという旨の連絡を受け取りまして、急いで駆けつけさせていただきました」


 「そうだったのですか。ありがとうございます」


 「娘は無事なんですか!」


 「大丈夫ですよ。今、部下に捜索を命じています。直に見つかるでしょう」


 少女の肩を掴み、緊迫した顔の夫人に少女落ち着かせるように答えた。


 その言葉を聞く夫人はホッとしたように溜め息をついた。


 「早く見つけてあげて下さい……」


 「了解しました」


 するとグレース伯爵は思い出したようにハッとして少女に顔を向けた。

 

 「もう1人、助けていただきたい方がいるのです!」


 「もう1人?」


 少女が怪訝そうに言葉を繰り返す。

 

 「ええ、娘を助けてくれた恩人なのです。この上の階のお客様用のお部屋にいます。どうかお助け下さい!」  


 ………………………………………


 一方その恩人はその娘の手を引き、屋敷の裏方にあるというもう1つの出口を目指し、走っていた。


 「大丈夫ですか?まだ走れますか?」


 エリザベスは首を縦に振るが息が上がっており、無理をしているは明らかだ。


 自分が担いで走ろうかと考えていると前方から凄まじいスピードで何かが迫ってくる。


 エリザベスの前に立ち、刀の柄に手を置き、構える。


 向こうもグレイシア達に気づき、止まった。


 「その風貌……お前が襲撃犯か」


 襲撃犯も大鎌を構え、臨戦態勢に入る。


 「リジー、俺が奴を食い止めます。その間に先へ」


 「でも……グレイシア様は?」

 

 エリザベスが不安げな表情でグレイシアを見る。


 「俺は多少戦えます。ですので気にせずお行き下さい」


 そう言いながらグレイシアは鞘から刀を抜く。


 すると死神はエリザベスに向かって来るがグレイシアは前へ出ると死神の攻撃を受け止めた。

  

 「早く!こいつは恐らくあなたを人質に取るつもりです!」



 2人の鍔迫り合いをしばらく見ていたエリザベスだったが背を向け「ご無事でいてください!」とグレイシアへ声をかけると隣を抜け、走り去って行く。


 それを逃すまいと死神は押し返すとエリザベスを追いかけようとするが、グレイシアが前へ躍り出て行く手を防ぐ。


 「退け……」


 仮面の奥から殺気立った声が向けられるがグレイシアはそれを涼しい顔で返した。


 「そうはいかないなっ!」

 

 グレイシアは距離を詰め、間合いを取ろうとする。


 だが、死神はそれをさすまいと大鎌を横に振るうもグレイシアは体勢を低くすることで躱し、スピードを落とすことなく平突きを繰り出した。


 死神は咄嗟に柄でガードし、押し返すと同時に攻撃を加え、自身の間合いに入らせない。そして、後退し、距離を取ると壁に掛けられている絵画を取り外し、投げつけた。


 高そうな上に泊めさせてもらったグレース伯爵のことを考えると気が引けたグレイシアはそれを斬らずに避けた。だが、絵画で視界が遮られた一瞬の隙に前方の死神は姿を消していた。


 そして、死神はグレイシアの背後を取り、首目掛け、大鎌を振るった。


 (取った!)


 死神は勝利を確信した。しかし――


 「!?」


 大鎌は首を刈り取ることが出来ず、すんでのところで止まった。


 何故か?


 その理由はすぐ分かった。


 グレイシアは刀で鎌を受け止めていた。()()()()()()()()

 

 (読まれてた!?)

 

 死神は驚きを隠せず動揺するもすぐ戦闘に集中する。大鎌を振り上げることで攻撃を防いでいた刀を上へ飛ばすと勢いよく振り下ろす。


 (今度こそ殺した!)

 

 再び勝利を確信するが死神の顔を打撃が襲った。


 「ごふ……ッ!」


 仮面越しから殴られるような衝撃を感じ、体勢を崩す。


 よろめきながらも目を向けると上半身だけをこちらに向けたグレイシアの右手には鞘が握られていた。振り返る力を利用し、そのまま鞘で殴りつけたのだ。そしてその隙に上へ飛ばされていた刀を空中でキャッチする。

 

 「なっ……!」


 体勢を崩した死神にグレイシアは刀を勢いよく薙ぎ払い、腹部を斬り裂いた。


 「ぐうぅっ!」


 死神は何とか後退するも流血する腹を押さえ、片膝をついた。致命傷でこそないものの決して浅くは無い傷だ。


 「貴様、何者だ?」


 苦しげに息を吐きながら死神は問いかける。

  

 「ただの流浪人だよ。それより、こんなものなのか?彼岸の死神っていうのは」


 冷たい視線を向け、グレイシアは呟いた。

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