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第13話 最強vs最強

 「おいおい、いきなりマジかよ……」


 ライオネルがかろうじて掠れた声を出した。その声色には興奮と緊張の二種類の感情が混じっていた。


 目の前で行われるであろう異次元の戦いを見れるというワクワクとただ事では済まないのではないかという不安で一同はその場から動けずにいた。まだ戦いが始まってないにも関わらずだ。


 「では、行くぞ」


 「ああ」


 その返事を聞く前にグレイシアは駆け出していた。一瞬でジークとの間合いを詰めるとデスサイズを振るう。


 しかし、ジークはそれをバルムンクで受け止めるとグレイシアを弾き飛ばし、今度は自身が距離を詰める。


 グレイシア着地するとそのまま真正面からジークの一撃を受け止めるとお互いの足場が衝撃で沈み、蜘蛛の巣のような亀裂が勢いよく入った。


 「凄い……」


 「ただの剣戟でもこれか」


 その光景に7人はただ圧倒されていた。


 ジークについてはよく分からないが、グレイシアの動きは明らかに訓練と時とはキレが段違いだ。しかも、これはお互いに殺し合うつもりのない戦闘。恐らくまだ余力は残している。


 それにも関わらずこの圧倒的な戦闘力。


 今のままでは一矢報いることすら出来ないだろう。


 7人は自分たちがまだまだ未熟であることを実感した。


 グレイシアとジークはお互い弾けるように飛び退った。


 するとジークは間髪入れずに勢いよく息を吸い込むと二酸化炭素の代わりに炎を吐き出した。


 「邪竜の吐炎(ファブニールズブレス)!」


 炎の大きさは凄まじくこれだけで森一つを一瞬で焼き尽くせるほどであった。そして、()()()()()()()()()確実に過剰戦力(オーバーキル)だ。


 しかし、グレイシアのしたことは慌てるでもなく、逃げるでもなく、デスサイズを前に振るうことだった。


 するとジークの炎は真っ二つに割れ、グレイシアに直撃することなく、まるで避けるように通過した。


 そして、グレイシアは再びジークとの距離を詰めようと駆け出す。


 ジークも走り出そうとするがそこで自分の足が動かないことに気が付く。


 足元を見るとそこには血のような真っ赤なドロドロした液体に足が沈んでいた。足を動かそうとしてもどんどんと沈んでいく気がする。


 これはグレイシアの異能力の1つ怒りの血沼フューリー・スティージュ。地獄の第五階層に存在すると言われる憤怒に身を任せて罪を犯した者が永遠に閉じ込められるという血の沼を出現させる能力で相手の動きを拘束出来る。


 そして、身動きの取れないジークにデスサイズが振り下ろされる――


 すると、ジークは自分のコートを脱ぎ捨て、グレイシアの視界を覆い隠す。


 ―悪あがきか?


 一瞬、そう思うも彼ほどの手練れが考えもなしにそのような情けない行動に走るだろうかと訝しむと同時に何かしてくるかもしれないという警戒を抱いてコートどけるとそこにジークの姿はなかった。


 「何?」


 一瞬、戸惑うものの頭上より気配を感じ、見上げるそこには傷だらけの上半身の背中から(ドラゴン)の翼を生やしたジークが宙にいた。


 ―翼まで生やすことが出来るのか


 グレイシアが心中で呟くとしジークは翼を羽ばたかせ突風を引き起こす。


 常人なら手足が千切れ飛んでもおかしくない風圧が迫る中、グレイシアは手に小さな黒い竜巻を出した。


 「獄嵐インフェルノ・テンペスト!」


 グレイシアが竜巻を投げつけるとそれは一気に巨大な火災旋風となり、迫り来る突風を喰らった。


 そして、獄嵐インフェルノ・テンペストはジークに襲いかかる。


 風圧に加わり、水をかけても消えることのない獄炎(インフェルノ)が加わったことにより、地獄の監獄と化した獄嵐インフェルノ・テンペストへ巻き込まれたジークはグルグルと回転し続けた後、地面に叩きつけられた。


 普通なら生きていたのしても複雑骨折に大火傷と重傷のオンパレードだ。


 しかし、ジークはむくりと何事もなかったのように起き上がるとズボンの埃を軽く叩いた。


 「これが邪竜の呪いファブニールズ・プロテクションか」


 邪竜の呪いファブニールズ・プロテクション。それはジークの父である邪竜ファブニールの有していたバリアのような能力でどんな攻撃をも受け付けなかったと言われている。


 そして、息子であるジークもその呪い(バリア)を受け継いでおりそのおかげで大体の攻撃は無効となり、ダメージを与えることが出来たとしても軽傷に留まってしまう。


 現に目の前のジークはほとんど傷を負っているようには見えない。


 歴史の中には他にも半竜半人(ドラゴンニュート)がいたという記録は残っているがこのような能力を持っていたのはジークただ1人でその性質は異能力邪竜(ファブニール)などと言われることもある。


 ―しかし、これほどとは……


 グレイシアは肩を竦めた。長期戦になれば不利になっていくのは自分だ。向こうには攻撃はほとんど効かないのだから。


 なら、一撃必殺で終わらせるしかない。


 グレイシアはデスサイズを水平に構えると魔素(マナ)を充填し始めた。その規模は先日、リチャードと戦った規模を超えている。


 その意図に気付いたジークもバルムンクを構えると魔素(マナ)を蓄え始める。


 すると魔素(マナ)の上昇気流により地面から岩石が浮き上がってゆき、2人の周りにはまるで無重力空間が現れたかのような光景が広がっていた。


 「皆!僕の後ろに回って!」


 ジョナサンは叫ぶと目の前に巨大な異空間の裂け目を展開した。


 それでこれから来るであろう衝撃に備えるという意図に気付いた6人は固まっていた足を動かし、ジョナサンの言う通り後ろへ回った。


 そして、双方が己の魔素(マナ)の溜まり切った武器を振るった。


 「地獄の大鎌(デスサイズ)!」


 「邪竜の凶牙(バルムンク)!」


 地面を抉り、空を裂こうかと言う斬撃が衝突する。


 その威力は地が翻り、木々が吹き飛び、波が騒ぎ、空が靡くほどで異空間ディファレント・ディメションで防いだとは言えどその余波は7人を容赦なく襲った。


 「ぐうううう……」


 「皆、踏ん張るんだ!」


 シドが叱咤激励するが、皆耐えるのに精一杯で声を上げることなど出来なかった。


 そして、突風に耐えきれなくなったアーロンの体が宙を浮く。


 「うおおおおおお!?」


 「アーロン!」


 アーロンの体が急激に遠のいてゆく。


 そして、まるで吸い込まれるようにして海へ飛ばされるかに思えたが、アーロンの手をすんででライオネルが捕らえる。


 「ライオネル!」


 ライオネルは腰に力を入れ、更に踏ん張る力を強めるとアーロンの体を引き寄せた。


 「ライオネルううううう!」


 泣き付くように縋り付くアーロン。


 「暑苦しいな離れろ!」


 それを引き剥がそうとするライオネル。


 するとその時、双方の斬撃が相殺し、天に向かう巨大な柱が立った。


 そして、粉塵舞う大地を駆け抜けて行く者がいた。


 グレイシアである。


 グレイシアはこの隙を利用してジークに詰め寄った。


 しかし、ジークも甘くない。それに気付いた途端、すぐに飛び立とうとする。


 するとグレイシアは鎌であるデスサイズで抜刀のような構えを取った。


 そして、デスサイズを勢いよく振り抜くとジークの体を9つの斬撃が襲った。


 「!?」


 グレイシアが攻撃したのは1回だったはず――にも関わらずジークは9回攻撃を受けたように感じた。


 この攻撃にジークは見覚えがあった。


 と言っても直接見たわけではない。人伝に聞いたことがあるだけだ。


 かつて、東洋の小国、日ノ皇国に九頭龍と呼ばれる九つの頭を持っていたという魔獣(かどうかは定かではないが)が突如として現れ、人々を襲ったのだ。


 僅か数日で10を超える国々を滅ぼし、既に幾つかの周辺諸国を沈めていたという九頭龍に当時、国を治めていた神の血を引く(すめらぎ)と呼ばれる王は一族の中で最も強い戦士を遣わした。


 その戦士は己の先祖である闘神スサノオの数ある神具の1つである雨叢雲剣(アメムラクモノツルギ)を用いて九頭龍を討ち倒したという。


 そしてその時、戦士は一息で九つの首を全て斬り落としたと伝わっている。


 その神技(しんぎ)の名前は――九頭斬(クズギリ)太刀(タチ)


 その戦士の名前はーーヤマトオウス。武神と呼ばれる五大英雄の1人である。


 恐らくグレイシアが使った物は練度も規模も小さい。


 しかし、何故目の前の男がそんなものを使えるのか。


 そう思った時、ジークの意識は暗転した。


 「ハァ……ハァ……」


 技を繰り出したグレイシアは肩で息をしていた。


 何せ大量の魔素(マナ)を消費した後に五大英雄の技を繰り出したのだから。


 本当はここまでするつもりなどなかったが、この技で無ければジークを倒せなかった。


 本来剣でやる技を鎌でしたせいで威力は落ちているだろうがそれが丁度良かった。剣でしていたら下手をすれば殺していた可能性だってあるのだから。


 グレイシアは崩れそうになる膝をデスサイズで支えたと同時にジークが上半身を起こした。


 「おれの負け……だな」


 ジークは呟いた。


 「ああ、そう言ってもらえると助かる」


 グレイシアは苦笑した。


 「終わった……のか?」


 ライオネルが独り言のように呟いた。


 「みたいだね……」


 シルヴァーナが同意した。


 「お互い凄かったよな……」


 シドの一言に全員が首肯した。


 それほどまでに凄い戦いだった。


 まるで歴史的一戦を目にした後のような気分だっ た。


 一方の勝者であるグレイシアは敗者であるジークに手を貸し、立たせていた。


 「なあ、あんたのさっきの技、おれに教えてくれないか?」


 立って早々ジークが言ってきた。


 「あの技は練習すれば出来るようになるとか、そういう次元のものではないぞ」


 「出来なかったのなら、それはおれの力量不足だ。たまにで良い。おれに稽古をつけてくれないか」


 ジークは真っ直ぐにグレイシアの目を見つめてくる。


 あくまで冷静なジークだが、その目には何か秘めているものがあるのをグレイシアは感じ取っていた。


 そして、その目はどことなく自分に似ており、グレイシアは興味をそそられた。


 「なら代わりに教えて欲しいことがある」


 「何だ?」


 「何故お前は力を求める?その理由を教えて欲しい」


 グレイシアは尋ねてみることにした。答えて貰えないかもしれないと思ったが予想に反し、ジークはすぐに答えた。


 「倒したい男がいるんだ」


 「倒したい男?それは復讐か?」


 「そうとも取れるかもしれないがおれはそうではなく挑戦だと思っている」


 その言葉にグレイシアはジークはあの男に対してそのような感情を抱いているのかと感じた。


 実はジークの倒したいという男の見当は付いている。


 ジークの強さはその年齢から常軌を逸しており、おそらく同年齢の頃の自分なら倒せないのではと感じさせるほどだ。


 そんな強さを持つにジークがまだ強さを求めるということは自分がまだその男に劣っていると感じているからだろう。


 ジークにそう思わせるほどの男をグレイシアは1人しか知らない。


 グレイシアは一瞬でそのような思考を巡らせると口を開いた。


 「なるほど、あくまで復讐(アヴェンジ)ではなく挑戦(リヴェンジ)ということか」


 「?」


 「すまない、独り言だ。……分かった、そう時間は取れないだろうがいいだろう」


 「……感謝する」


 表情こそ変えなかったが声色でジークが感謝しているのが伝わってきた。


 「都合が付けばまた連絡する」


 「分かった。訓練の邪魔をして悪かった。それじゃあ」


 そう言うとジークは姿を消した。


 「グレイシアさーん!」


 そこへ7人が駆け寄ってくる。


 「凄い戦いでしたね……」


 「ああ、俺もあそこまでの戦闘をしたのは久々だった」


 シドの言葉にグレイシアは同意した。


 しかし、あれほど激しい戦闘にも関わらずグレイシアは傷一つ負っていない。その事実に一同は息を飲んだ。


 「さてとそれじゃあお前たちも十分に休めただろうから訓練を再開するぞ」


 「えっ、でもグレイシアさん……」


 「もう回復した。他人を心配するとは余裕だなアーロン?」


 あれほどの戦闘の後にまだ訓練を続けれるグレイシアの底なしの体力に一同は驚嘆すると再び最終調整に励んだ。

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