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第10話-1 切磋琢磨

 今日も遊撃部隊は修行に勤しんでいたが、大きな成長は未だ見られない。


 しかし、まだ始めて一週間なのだからそれも仕方ないだろうと思う。


 修行というのは血の滲むような努力の果てに身を結ぶもの。決して急いでは行けないのだが……


 「初任務ですか……」


 天の間にて劉陽が遊撃部隊に初任務の依頼を告げたのだ。時は一週間後。


 「有難いお言葉ではありますがまだ時期尚早ではございませんでしょうか?まだ次の訓練に移る目処すら立っていない状態です」


 「君の言わんとしていることはよく分かる。しかし、今の革命軍(リベリオン)僅かな兵とて遊ばせておくわけにはいかんのだ。ああ、これは比喩じゃぞ?決して君たちが遊んでいると思っているわけでは決してないのだが……」


 グレイシアは唸った。


 確かに革命軍(リベリオン)の人材不足は深刻だ。自分やアンのように隊長を兼任している者もいる上、一番多い歩兵部隊の5000人さえ決して多いとは言えないのだ。動ける者は1人残らず動かなければならない。


 それに一週間という猶予を与えてくれたのは劉陽なりの譲歩だろう。


 「……分かりました。善処致します」


 そう返事をしたもののグレイシアの頭には未だ妙案は浮かんでいない。


 白髪の美青年は常人ではあり得ないほどの早さで多岐に渡る思考を始めた。


 「……よって、一週間後の舞踏会にて貴族を7人暗殺する仕事を仰せつかった」


 まあ、こいつらだって仮にも革命軍(リベリオン)の戦闘要員なのだ。仕事の一つや二つ熟しているだろうとグレイシアは考えていた。


 しかし、予想に反して7人は緊張の面持ちを見せた。


 「……どうした?」


 語尾に僅かな戸惑いを見せながらグレイシアは尋ねた。


 「……実は俺たち、この任務が初任務になるんです」


 「え?」


 シドの告白にグレイシアは思わず間抜けな声をだす。


 「……知らなかったんですか?俺たち、前の隊長がいた時は実戦経験のない見習い部隊だったんです」


 シドがまたしても今まで知らなかった事実を告げる。


 「……実戦経験のあった隊員は?」


 「……全員、前の隊長と一緒に殉職しました」


 シドの言葉に一同が俯く。


 そして、グレイシアも俯いた。


 想定外の事実に。


 ―嘘だろ……俺はそんなこと知らなかったぞ。セタンタは隊長が死んだから代わりを務めてほしいって言ってきて……


 そこでグレイシアは気づいた。セタンタが説明をはしょったのだと。


 そう言えばあの女には自分が大切と思ったこと以外は忘れしまうという悪癖があったはずだ。


 ―あの女あああああああ!


 柄にもなく叫びそうになるのを堪えてグレイシアは思い返すと思い当たる節は多々あった。


 実戦を知らない戦い方、組まない陣形(フォーメーション)、出来ていない基礎部分。


 これでよく生き残れたものだと抱いていた違和感がようやく拭えた気がする。こんな気持ちになるくらいなら拭えなくて良かったが。


 セタンタは後々問い詰めるとして今どうするかである。


 グレイシアは立てたあらゆる訓練計画を思い起こし、取捨選択していくもほとんどが実戦経験があるとことが前提のため、捨てられていく。


 そして、残った立案が……


 「あれをすることになるのか……」


 グレイシアは糸が切られた人形のようにがっかり項垂れた。


 7人は訳が分からず不思議そうな目でグレイシアを見る。


 それはグレイシアが最悪の手段として考え出した策。


 ―この訓練にこいつらが耐えられるのか?というか俺も疲れるし、費用もかかるし……何で働き口のために俺が出費しなきゃならんのだ?別に金で困っているわけではないが。


 考えれば考えるほど愚痴が止まらないが短期間で効果を得るには確実な上、先行投資だと思えばいいと己を説得してグレイシアは顔を上げた。


 「そこでお前たちには任務を達成してもらうにあたり今までとは違う訓練をやってもらう」


 「違う訓練?」


 ジョナサンが首を傾げる。


 「ああ、短期間で成果の出る訓練だ」


 「そんなんあるなら最初からやれよ」


 ライオネルが不満げに言った。


 「だが……その分、今まで訓練より格段に辛いぞ?」


 「そんなの良いんだよ。オレは早く結果を出したいんだ」


 早く教えろと言わんばかりのライオネルだが、他の6人は「格段に辛い」の「格」を言い終わる時には嫌な予感がしたらしく前のめりにしていた体を引っ込めていた。


 「まあ、落ち着け。内容は明日発表するとしてこの訓練には名称がある。名付けて死して行く勇士の楽園(ヴァルハラ)式トレーニングだ」


 「ヴァルハラ式トレーニングぅ?」


 ライオネルが頭に疑問符を浮かべ鸚鵡返しのように呟く。


 ライオネル以外が沈黙する中、シルヴァーナはキラキラした目で手を挙げた。


 「ヴァルハラってあの死して行く勇士の楽園(ヴァルハラ)ですか?」


 その反応にシルヴァーナはかなりのスカンディナビア神話好きだったことを思い出す。


 「そうだ。勇敢に戦って死んだ者が智神の乙女達(ヴァルキュリー)に連れて行かれ、朝から夕暮れにかけて文字通り死ぬまで戦わされ、夜になれば行き帰りどんちゃん騒ぎをするのを毎日繰り返しながら終末に備える場所だ。未だ戦争で勇敢に戦うために言われることもある文言でもあるな」


 「はーい!私は信じてまーす!」


 シルヴァーナが元気よく返事をする。


 「えっ……じゃあ、俺たち死んでヴァルハラに行かされるんすか?」


 ショックを受けた様子で言うグレンに一同は笑う。


 「流石にそれはないだろう」


 アーロンがグレンの背中を叩きながら笑う。


 「いや、だって流れ的に実戦経験のない使えないお前らは死して行く勇士の楽園(ヴァルハラ)へ行ってこいっていう感じかなって……」


 「さすがのグレイシアさんでもそんなこと……」


 そう言いながらグレイシアを見るも当の言い出しっぺ無表情で腕を組んだまま立っている。


 「ない……ですよね?」


 その態度に不安を覚えたアーロンが冷や汗をかく。

 

 「そんなわけないだろう」


 その返答にグレンとアーロンは何故かホッとする。


 「だが、この訓練名はそのくらい過酷な目に遭ってもらうぞという比喩でもある」


 その言葉に2人が固まる。


 「ただし、ちゃんと褒美も与えてやるよ。だから、

死ぬなよ?」


 最後にグレイシアは嗜虐めいた笑みを浮かべた。


 ………………………………………


 その夜、グレイシアはベッドに横たえるダングラールの診察をしていた。


 何とこの男昨日、自室で寝るように言ったのにも関わらず今まで仕事していたのだ。


 「悪化してますね」


 「貴様の薬が効かんからだ」


 「貴方がちゃんと寝ないからですよ」


 睨んでくるダングラールをグレイシアが睨み返す。


 「薬というのは身体が安静の時に初めて効くものです。ずっとベッドで横になってろとはいいませんが仕事をするのは止めて頂きたい」


 「だが、私が働かねば金が……」


 「働き続けたいならお金の管理だけではなく、自分の体調の管理をしてからにして下さい」


 投げかけられるグレイシアの言葉と睥睨にダングラールは押し黙ってしまう。


 「次、部屋を抜け出して仕事なんかしていたらどうなっても知りませんよ?医者の言うこと聞かない患者は総じて痛い目を見るものです」


 「別にお前は医者では……」


 「貴方にとっては医者です。また薬を処方しておきますので。ではお大事に」


 そう言うとグレイシアは部屋から出て行った。


 「上々吉……」


 ……………………………………


 翌朝、グレイシアは7人を森林へ呼び出した。ちゃんとアリスも来ている。


 一対一のコミュニケーションを苦手としているため唯一グレイシアの訓練を受けてないが練習はしているらしくシルヴァーナが弓を引くアリスの姿を目撃している。


 「今日の訓練はこの森林を抜け出して宮殿へ辿り着く事だ。道中協力してもいい。分かりやすいだろ?」


 そのあまりに簡単に聞こえる内容にライオネルは笑う。


 「オレたちを舐めすぎじゃねえのか?こんなんすぐ終わっちまうぜ?」


 「それなら別の訓練に時間を充てれてこにらとして嬉しい」


 ライオネルが詰め寄るもグレイシアは表情変えずに言った。


 嘘をついているようには見えない。


 これくらいでは嫌味にもならないと感じたライオネルは舌打ちと共に引き下がる。


 「あの、他に本当にルールはないのでしょうか?」


 ジョナサンが手を挙げて尋ねてくる。


 「ああ、ないぞ。死なない限りどんな手を使ってくれても構わない」


 そう言うとグレイシアは人数分の水と保存食である高カロリーのクッキーを渡していく。


 「俺がここからいなくなった瞬間から訓練の始まりだ。では、各々全力を尽くすように」


 その言葉を残すとグレイシアは一瞬で姿を消した。


 「よし、こんな訓練さっさっと終わらせてやるぜ!」


 「ちょ、待てよライオネル!皆で協力して……」


 「こんなんで協力とか要らねえよー。お前らもあんまり遅くなるんじゃねえぞー!」


 ライオネルはシドの制止も待たず走り去ってしまった。


 「行っちゃった……」


 「ホント馬鹿だよねライオネルは。これがただの脱出訓練のわけがないじゃない」


 「やっぱそうだよなー」


 シルヴァーナに同意するようにアーロンに言った。


 「取り敢えずここは皆一緒に進んで行った方がいいよね?」


 ジョナサンにシドが首肯した。


 「皆もそれで構わないか?」


 「面倒事回避できるならそれでいいぜ」


 「わたし……みんなの力に慣れるか分からないけど……頑張ります」


 グレンに続けてアリスも同意した。


 「アリス、期待してるわよ」


 シルヴァーナがアリスの肩を優しく叩いた。


 「じゃあ、皆行こうか。ライオネルは道中会ったら合流しよう」


 シドがそう言うと6人は前日決めた陣形(フォーメーション)の形になり、進み始めた。


 ………………………………………


 6人が慎重に歩みを進める中、ライオネルは1人、森林を駆け抜けていた。しかし、その姿は既にボロボロだ。


 「何なんだよこれ……」


 ライオネルをこうしたのは仕掛けられていた数々の(トラップ)。矢が飛んでくるという古典的なものから結界術による魔法攻撃と枚挙に暇がない。


 「ともかくさっさっと進まねえと遅くなっちまう。早く着いて……」


 そんな目的を履き違えているライオネルだったがその姿が突如として消える。


 落とし穴に落ちてしまったのだ。


 「うわあああああぁぁぁぁああああ!」


 ライオネルは重力に体を引っ張られ瞬く間に深淵へ姿を消した。

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