#008 『ビックリする、とはこういう事』
招かれたのは広々としたダイニングホール。中央に白いクロスのかかった卓が置かれていて、そこに等間隔で花瓶が配置されている。
「どうぞおかけください」
その前に用意されていた椅子に座ると、隣のルナとスカーレット、そしてもう一人の純白美少女で対面する形になった。その美少女の手には未だにレオン君が抱かれている。
「ここでお話しすることではないかも知れませんが……ご無礼をお許しくださいませ」
「いやいや、依頼のタネであるレオン君も見つかったことだし───なぁルナ?」
「は、はい……」
どうもルナは急に話を振られるのが苦手なタイプらしい、俺からしたら逆にそこが可愛いと思ってしまうんだが。
「まぁそんなに緊張しないでくれ。悪くは思っていないし、これを口外するつもりもない」
「恐縮でございます、ユウスケ様」
いちいち様を付けられるのでは少しこそばゆいものがあるが、彼女にはそれだけ慕われていると捉える事にさせてもらう。
そんな事を考えながら俺はスカーレットに疑問を投げかける。
「とりあえず、俺が気になったのはその子の言葉だ」
「私のこと……?」
自分の事だということがわかっていないのだろうか、純白の彼女は不思議そうに首を傾げている。
「はい、順を追って説明いたしますが」
それに重ねてスカーレットは会話を続ける。
「彼女はフロイト・ライカ───ルベル様のご息女でございます」
そう言いながらスカーレットはライナの頭を撫でると、彼女はそれに反応して嬉しそうな笑顔を浮かべる。それはライナのその容姿相応の態度に見えた。
「ご息女……というと、ルベルさんの娘か」
彼女の自己紹介にもあったカンナ・F・ルベルのイニシャルはフロイトから来たものだったのだとここで納得する。
「ええ、当主にはこの子の他にもう一人───姉のブラウニー様がいらっしゃいました」
即ちライナが妹という事になるが……ん、なんで過去形なんだ?
その状況と俺の疑問を察したかの様にルナが表情を引き締めて言う。
「という事は、そのブラウニー様は」
「───ええ、半年ほど前でしょうか。魔物に誘拐をされて」
ここで俺は彼女の呟きに疑問を覚える……魔物に誘拐?
「はい質問。ここってスチームパンクの世界で魔法は使えないはずじゃ」
「ユウスケ様もご存知の様ですが……それは定義上の話でして、正確にはこの世界では使えなくなったと言ったほうがいいかもしれません」
片手を上げて設問する俺にスカーレットが早口で答える。
「使えなくなった……というと?」
「はい、ユウスケ様は魔王の存在はご存知でしょうか」
「あぁ、ルナに教えてもらったぜ。確か既に討伐済み……って」
ルナが隣でこくこく、と頷く。彼女の情報に間違いはない様で、スカーレットも同様に首を縦に動かしているのが確認できた。
「ですが、かつての勇者の討伐は魔王に留まり……手下である魔物は封印の対象外になってしまったようで───私も言い聞かされた逸話でございますから」
「まぁ、そこらへん不確かかも知れないのはわかるが」
この国にそんな過去があったとは。聞く限りではルナが知っていてもおかしくはなさそうな話ではあるが、平均年齢に比例して案外歴史も深いのかも。
「それで魔物が放たれて、ここの姉様が誘拐されて───って話か。なかなかの闇だな」
「しかし、何故そのブラウニー様が?」
ルナの問いにスカーレットが目を閉じる。
「ブラウニー様が邪魔であると、魔物自身が感じ取ったのでしょう」
「ん、つまりどういう事だ?」
「ルベル様には旦那違いの息女様がふたり───」
ブラウニーと、ライカ。
ふたりは血縁の繋がりがない、義姉妹同士だと言う。それに続けてスカーレットは少しだけ顔を固くして言い放った。
「その片方である、このライカ様は……魔物の血を引いているのでございます」