#007 『激かわ美少女さんの素顔を激写する』
俺たちの猫探しは、そうして怒涛の勢いで火蓋を切った。
「レオン君、どこだーい」
カンナの部屋から退き、部屋の扉が並ぶ廊下を駆け回る。同じ様な構造の仕切りが組み合わさっているので本当に迷路みたいだ。
「しかし……本当に広い御屋敷ですね」
もう結構時間が経っている。かれこれ十部屋は回っただろうか? これほどまでも広大な邸宅で猫一匹なくしては、探すのにも骨折りだ。だから探偵に頼ったんだろうが。
「ご主人様、本当に見つかるのでしょうか……」
「ドアが開けっぱだったり、換気口から入ったりもするからな───この場合、シラミ潰しが妥当だろうぜ」
そう言って俺は数回目の入室を、自信なくしかけのルナに促す。彼女もだいぶ疲れてきた様だがメイドとしての協力度は万全だ。
「よし、あと一部屋回ったら休憩するか」
「はいっ、ご主人様」
ルナと一緒に部屋の中を捜索する。二人でいてくれるのは本当にありがたい。
「こことか……?」
「ご主人様っ、落ちない様に気をつけてください」
本棚の上から棚の下まで、くまなく探していく。大体猫は暗かったり狭かったりする場所に隠れていたりするからと、独自の知識で張り切ってみたりもしたがなかなか見つからない。結局この部屋にも見当たらないままだった。
「しかし、夜更けまで時間もないな……」
「そうですね……」
見つからないままこの豪邸で一泊させてもらうのも申し訳ない。
床に座って壁を背もたれに、しばしの休息をとる。冷たい床の感触もどうでもよくなる程に疲労感が込み上げてきた。
「どうですか、具合は」
そんな中、背後から可憐な声がする。
振り向くとスカーレットがひょこっと顔を出していた。
「あぁ、どうも」
「その様子では、まだ見つかっていない様ですね……」
せいぜい進捗はゼロ。どこを探しても見つからないのでは探偵の仕事としての意味がない。
「猫探しってこんなに難しいもんなのか?」
「いえ……私もお役に立てればお手伝いさせて頂きますが」
「マジか、でもそれだと探偵としての立場が揺らぐ事になるから遠慮しておく」
「そうですか───ですが、人手が変わるだけでも具合は変わるものかと」
やっぱりこの人もメイド気質の様だ。嫌いじゃないが、立場上ここまで言われると少し申し訳なくなってしまう。
「まぁ、ありがたく気持ちだけは受け取っておくとしても」
壁に体重を預けながら俺はスカーレットに言い放つ。
「こんな美女に囲まれて依頼捜索とか贅沢にも程があるな」
「美女っ……ご主人様、そう言った事はっ」
「ユウスケ様、何をおっしゃっているのか理解できません」
はい、相対の反応。素直に受け止めるタイプとそうでもないタイプ、もしくはツンデレなタイプがこの場で二分する。個人的にではあるがスカーレットはできれば後者であってほしい。
そんな話をする中、その場に一人の声が加わった。
「あなた達───だれ?」
その声の主は、純白の少女からだった。
白い肌に白の髪。そして全身を飾る黒のワンピース。
しかし彼女の中で何よりも目を引くのは、その目に括られた黒い布……目隠しだった。
「ライカ様……!?」
それを見たスカーレットは顔の色を変えて彼女に近寄る。
しかし俺が驚いたのは、その瞳に映らない視界においても俺たちの事を認知し確かめることができている。なんとも不自然なその状況だったが、それ以前に───。
「それって……」
そう、彼女の手中に抱きかかえられていたのはレオンこと依頼主であるルベルの探し求める黒猫だ。特徴だけ見ればほぼ間違いないと言っていいだろう。
それを示すルナの言葉に反応したのか、彼女はレオンを撫で微笑を浮かべながら言う。
「この子の事……?」
「あぁ、確かに……どうして君がそれを」
他に何か指すとすれば何もない、なぜ君がレオンを───?
その俺の思考を遮る様に彼女は言葉を読む。
「この子……私の子だから」
……何を言っている? 彼女の言うことが理解できない。
「ライカ様」
「この猫は、私の子供───」
「ライカ様!」
彼女の発言を止める様にスカーレットが動く。彼女はそれに驚いたのか話すのをやめるが、既に聞いてしまったものは仕方がない。
「……どういう事なんだ?」
「───」
俺はスカーレットに問うも、彼女は答えないまま俯いてしまっている。いや、こっちとしても急な展開に頭が追いつかないのは同じではあるが。
「……わかりました」
すると、スカーレットは俺に向き直る。
「事の次第をお話し致しますが───」
そして胸に手を当て、恭しく礼をすると。
「お願いいたします、ユウスケ様。この事はルベル様にはどうかご内密に」