水も滴るいい女
「ぎゃー!!」
朝起きると冷たい感触。
全身にまとわりつく夜着が濡れていた。
びっちょりである。
昨日、仕方がないので早めに床についた娘は飛び起きた。
可能性は一つである。
恐る恐る手を見てみると、手のマークがくもり時々雨になっていた。
「父さん、父さん、手が手が!!」
居間で新聞を広げていた父に、手を見せると、
「水も滴るいい女って、風呂は裸で入るもんだ」
「単なる濡れねずみだから、気持ち悪いだけだから」
「ですよねー。とりあえず着替えてこい。話はそれからだ」
「あー、うん。冷静な対処ありがとう。って父さんこんな性格だったっけ?」
「父さんも色々進化しているんだ、ってまー、友人達にこうしろって言われただけだよ?」
「バラしちゃ花を持たせようとしてくれた友人達の心遣いが台無しだよ?とりあえず着替えてくるね」
着替えて父さんの前に座る私。
父さんが話しかけてくる
「大体のところは分かっている。水漏れが発生したんだな」
「うん。って父さん知ってたの!?」
「かーさんもそうだったからな。そろそろ来る頃だと思っていたんだが、予想より早かったな」
「かーさんもって、これ遺伝なの?」
「そんな感じの理解でいい」
厳密には違うんだが……とか言ってたけれど、それでいいとした。
根本はどうでもいい。現実問題の対処が先である。
父に続きを催促した。
「コントロールが出来ない理由はフラストレーションが溜まっているからだ」
ズバリと言う父の言葉に山のように心当たりが。
そもそも田舎の出である私は良く言えば野生児である。
都会の忙しい生活はかなり無理していた。
痩せるわ、目の下にくまは出来るわ、動かないから筋力も落ちる。
イラッシャイマセー、アリガトウゴザイマシターと機械的に話し、ゴイッショニポテトモイカガデスカーという言葉がスラスラと出るようになった。
「おーい、戻ってこい。おーい」
「ごめん父さん。で、解決法はあるの?」
気を取り直して父さんの方を見る。
「簡単だよ。溜まったフラストレーションを定期的に晴らせば良いんじゃよ」
「そんなに簡単に無くなるなら、こんなに疲れ果てないよ」
「鍛えてやるぞ?」
父さんの申し出に私は思わず吹き出した。子供の頃は父と共に大地を走り回り、武道っぽいものをしていた。
でも、それはもう昔のこと。
「え、いや、あれは子供の頃の話であって、今、無理よ!? もうもやしっ子よ」
「今年のワシは一味違う。短期間で鍛えてやろう」
帰る頃にはシックスパックにする。
「いや、それで入らなくなったら、着る服なくなるからね」
そんなときにはこの世〇末覇者の装束を貸してやろうという父さんの申し出を全力で却下した。