勝ったのは?
奈緒は一つ気になることがあった
先日同窓会に招かれた際に友人が言ったことだ
『格好良くなったよね。昔の面影を残しながら歳をとった感じ、私の旦那、なんか怪しいことに手を出してそうだし、別れて狙ってみようかな』
その時はバカなこと言わないでと笑ってはいたが、その後、他の友人からこのことが本気だったと知らされた
『よしっ!暇だし連絡してみるか』
お久しぶりです教授お元気ですか?その書き出しと何気ない日常の季節の会話、そして送り主アドラーと記載されたメッセージが孝弘のもとに届いた
孝弘のよく訪れるサイト『犯罪者あるある』のメッセージBOXだ。
アドラー、彼女にはある提案をして犯罪の手助けをした。っかどうかは定かじゃない
だが、孝弘はこのサイト内ではかなりの有名人であり犯罪界のナポレオンと称されたモリアーティ教授のお名前を拝借している
だから、多くの犯罪計画依頼が日々舞い込んでくる。そしてそれを楽しみながら計画を練ってる。やばいものには手を出さないと考えながら
ここで言わなくてはいけないのが、私はもしもで話しているだけでその犯罪が行われたかは定かではない
もちろん犯罪の手助けを依頼されるが断っている
『アドラーどうした?』
この書き出しなら孝弘が優位な立場に普通の人は感じるだろう。っが
『何かないと連絡しちゃダメ』
その後にハートマークまで付けて孝弘をからかうように返事が来る
『毎日一緒に同じ空を見ていたい』
『空の色覚えてますか?』
『今にでも降り出しそうな曇り空、でも所々覗く晴れ間が綺麗な空だったかな(笑)』
『教授の天気だ(笑)』
そんな私達しか知らない話しをした後、アドラーから話しが出てきた
ある有名な大臣が金銭トラブルを起こしてしまい大臣を辞任するかどうかの話題だった
『この話しはよくある話しだけど、騙されたらしいよ。教授ですか?』
『知り合いの警察からも相談の話しがあったけど俺じゃない』
孝弘にとってはごく日常の話しで、議院さんも人間だからちょっとだけなら大丈夫。そんな勢いでやったら見つかってしまった。そんな感じにしか見えないとそう返事を返す
美人の奥さんがいて離婚もするのかなって少し気になってはいたがこれが事件には感じなかったと付け加えた
『ちなみにですが教授はもしこの婦人が離婚して、教授のことを気に入ったなら、どうしますか?』
なるほど、孝弘はアドラーをからかうように返信をする
『とりあえず、ホテルに連れ込んでから考えるよ』
アドラーか即返事が返ってきた
『殺すよ!』
その後、機嫌を伺うようなメッセージを孝弘が送ってはみるが返事はない
『仕方ないゲーム開始ってことで』
孝弘はそう言いパソコンの前を後にする
その頃反対側では『あのバカには任せておけないわ』
奈緒は今海外で暮らしているが、急いで日本に戻ることにしていた
『奈緒こっちこっち?』
奈緒を迎えに来たのは晴美。同級生の一人で大臣の婦人でもある
『もう、年がいもなく大きな声で呼ばないで』
本当は嬉しくもあり、安心する面もあったが、奈緒は警察に目を付けられていた
その心配は的中する
『お帰りなさい奈緒。日本には何を?少し警察で話そうか?』
男性の声がし、奈緒は一瞬背筋に寒気が走った
『よっ!』
そうやって手を上げて笑うのは現役の刑事でマスコミからもよく騒がれるイケメン刑事正幸だ。奈緒のこと色々疑っているのは間違いない
正確に言うとわかってはいるけど証拠不十分で逮捕出来ないだけだ
『呼んでもいない男が何をしてるのかしら?』
『言わなきゃわからないか?』
奈緒の挑発に表情を変えず正幸が返すが間違いなくこの空間には重たい空気がある
『私が呼んだんだよ。少しでもお出迎え多い方が喜ぶと思ってね二人を』
『二人?』
奈緒は晴美の二人に反応し辺りを見渡すが知り合いが居そうにない
『一人は俺が誘ったが寝坊したから置いてきた』そう正幸が言いながら頭を抱え下を向いた
『相変わらず朝弱えーからな?』
その言葉に奈緒は心当たりがある。朝弱くて正幸と最近よく話す相手
もう一度奈緒は周囲を見渡す
『見つけたわ。あそこ!一角だけ人の流れが乱れてるでしょ』
『あぁ、だな』
奈緒と正幸の言葉に晴美は首を傾げ、なぜと言う顔をするが近づくにつれ
『なんなんだよ、人しかいねぇし、俺は反対行きたいんだよな』
頭をかきながら孝弘は困っていた
田舎でのんびり暮らしたい派。そんな孝弘にとっては人の波ほど乗り越えて行くのが難しい場所と一番に思えていた
『迎えに来たの?迎えに来てもらったのどっち?』その声は神の声。いや悪魔の招き声だった
奈緒は孝弘を見つけ、バッグを投げて孝弘に受け取らせる
あまりの重たさに一瞬腕が抜けそうになった
『何が入ってるんだよ!くそ重てぇ』
孝弘はそう言うが
孝弘の耳元に奈緒は近付き冷静な声で言った
『あんたの処刑道具よ』
孝弘は言葉を失った
その後、喫茶店で一休みをとる。その際、奈緒は孝弘と正幸、晴美の会話から推測すると晴美は正幸としか連絡手段が無いと判断をする
孝弘がもし流行りのSNSを利用していたら、交流の観点から教授とわかってしまう
それを恐れて孝弘は登録を避けている。以前にそんなことを話していた。前に正幸から誘われていたが断っているのも知っている
そして今日も晴美のさりげない、問いかけにいつもの答えを返していた
『俺はやらんぞ!世界中で最後の一人になってもその流れには乗らん』
SNSの断り文句だ
『はいっ!残念賞』奈緒は心の中で晴美にそう呟く
『あれっ!そう言えば、奈緒と孝弘は昔から仲が良いけどどうやって連絡とってるんだ?』
孝弘は正幸の質問に表情を変えずに沈黙を、しかし奈緒は
『連絡なんかとってないよ』ってニコっと笑って見せたが
『おかしいなー。久しぶりに会うはずなのに久しぶりの言葉も無かったし、それに!やり取りに違和感感じ無かったぜ。』
奈緒はその言葉にどう返していいか直ぐには答えを出せない。しかもこの場はやばいとすら感じた
さらに『ちょっと説明してもらっていいか?』
そう奈緒の顔を覗き込むように、いや心に問いかけるように冷たい声で話してきた
だがしかし、『さてはお前ら出来てるなー?』
正幸は奈緒をおちょくるように笑いながら指を指してきた
『チュウしていいか?』
その孝弘のいきなりの言葉に私達の席は笑いに包まれた
そして、正幸はその後仕事へ孝弘は奈緒に追い出されるようにその場をあとにした。
『あぁっと、ざっと4時間って所か』
孝弘は正幸と一緒に奈緒と晴美が喫茶店から出るのを遠くから見ていた
『女って言う生き物は何時間話せば満足するんだ』
『俺調べだと、ざっと4時間は当たり前、張り込み中その店が閉店だから次の店をはしごは仕方なし』
『警察は張り込み中も給料発生するのか?』
『お前と違って国で認められた仕事だからな』
『俺っていったい何者だ?』
『警察へのただ協力者、それ以上の名目が欲しいか?』
『いらん(笑)』
孝弘は内心この野郎としか思えない
まずは身内を疑え。例えそれが自分にとって順位の高い人間でも
警察の捜査には感情はない。正幸は捜査対象を晴美に絞ってきた
しかし『あれは関係無さそうだな』
正幸の感はそう思わせる
孝弘は頷き冷静に
『警察の鋭い観察力を目の当たりにしたら、必ず関わりある人間なら、誰かと連絡したり、警戒をする動作をする』
『さすが犯罪者!わかるか?』
『悪いことはしてませーん』
その内ボロが。そう思うと孝弘の心の中では冷や冷やしてしょうがない
やはり家に入って調べないとダメそうだな
正幸の判断だ
しかし、それは事件が起きてからそれこそしらみつぶしと言わんばかりに調べているはずだ
『調べるのは晴美だ』
こいつには人の血は流れていない。かりにも友達だぞ。孝弘は正幸のことをそう思うしかなかった
『っで、どうやって調べるんだ?友達でも肝心な所は調べられないぞ』
『だから警察への協力者が必要なんだよ』
そう正幸は孝弘の顔を見た
『晴美はお前を気にかけている。なんとかしろ。それに晴美ぐらいの女なら情報が無くても良い思いは出来るだろ』
正幸は完全に仕事としか考えていないようだ
こう言う正幸の所は孝弘は好きになれない
しかし警察の圧力に孝弘の心は耐えられそうにない
『…わかっ』
その言葉が出る前だった
『その役目は私』
『えっ!』
正幸は一瞬何が起きたかわからなかった。それもそのはず、現役の刑事が背後に人がいるのに気づかない。そんなことがあるのかそんな気分だ
『帰ったんじゃなかったの?』
孝弘は服は着替えて動きやすく靴も動きやすそうになった奈緒に笑みをこぼしながらそう言う
『ごめんねー。美人と仲良くなるチャンスなのに』
なんか怒ってるそんな感じが奈緒から伝わってきた
おそらく孝弘が正幸の作戦に乗ろうとしたのが気に入らなかったのだろう
その夜、奈緒は晴美の自宅に招かれた
『いらっしゃい』
『なかなか、高級そうなマンションね』
『そう言うのやめて〜ぇ』
奈緒は玄関に入ってすぐに気付く。
『旦那さんの趣味?』
玄関からすでに自慢と言わんばかりに過去の栄光が飾られている
『よーし、探検だ』
奈緒は宝探しと言わんばかりに部屋の扉を開けて行く
『ここがお偉いさんのお部屋ね』
そう言われても晴美は嬉しそうに案内してくれる
『本をどかせば隠し金庫が?ないかー』
『残念でした』
『クローゼット発見!晴美のへそくり捜査開始します』
『ないない』
『寝室発見!ここには愛の跡が』
『きゃーっやめて』
『なんか、楽しそうだな』
その会話は孝弘達の元にも届いていた
『そういえば、旦那さんの書籍だよね、パソコンとか使わないの?』
その質問に晴美は書類もパソコンも全て警察が持って行ってしまいない事を話してくれた
『晴美はパソコン無くて不便じゃないの?』
その質問には晴美はスマホがあれば十分だよと笑って答えてくれた
その後他愛もない話しがいくつか続いた
もう、普通の社会人8割が帰宅しているだろう時間になったころ
『奈緒!盗聴器探そうコンセントを叩け』
正幸からの指示が出た
奈緒は指示通り笑いながら行動して行く
そして奈緒は次の手をうつ
『実は晴美、私警察から頼まれて旦那さんの無実を晴らすように言われてるんだよねー』
『バカ!』
正幸は顔をしかめそう言った
もし盗聴器が存在したなら、奈緒は今後危険にさらされるからだ
『さすがだな、これで動いてくるはず』
孝弘はそう言って周囲に目をやる
数分後
『はいっ!正幸!あの人尾行しようか』
『だなっ!』
不満はありそうだが、孝弘の自信満々なテンションを見た時点で答えが出たことを理解した
『もしもし、今女が家から出て来ます。顔は…ふざけやがってミッキーのお面を付けてます』
奈緒が顔を隠して出てきた
しかし近く人影に
『もしもーし、こんな時間に宅配便ですかご苦労様です』
男は慌てたようにし、軽くお辞儀をするが
『宅急便がこんな夜に、しかも荷物も手にしないでどちらへ』
正幸はその人を捕まえて直ぐに携帯の番号を確認し本部に知らせる
もう次の日には新たにニュースが飛び込んできた。大臣は騙されていた!
そんなタイトルの新聞と一緒に
大臣の無実は証明されこの件は終わりを表した
そして次の日
『もう、行くね』
奈緒はそう言って空港に向かう
『もう、少しゆっくり出来ないの?』
『えっ!ひょっとして寂しいの?』
孝弘はそんな意地悪な質問だったが、短い時間でも一緒に奈緒といた喜びを手放したくなかった。だから
『出来るなら、ずっと側に居てほしいんだけど』そう言いながら頭をかきながら照れていても口を開いて言葉にした
『ありがとう』そう静かに寂しそうに答えると奈緒はチケットをかざし中へ進む。そして振り向きもせず空を指して
『この天気なんとかならないの?曇り空。スッキリしないな。快晴にしてよ』
『この空色は俺の大好きな空だよ』
孝弘は精一杯頑張って笑顔をつくりそう答えた
そして奈緒の背中が消えて行ってしまった
『お客様、ご気分は大丈夫ですか?』
『大丈夫ですよ。好きな人と離れれば涙も出るでしょ』
奈緒はそう言うと奈緒を乗せた飛行機が飛び立っていく
帰宅しパソコンを開くと
『モリアーティさん貴方に言われた通り宅急便を装って情報収集、計画、実行を行ってきましたが最後に失敗してしまいました』
そんな内容のメッセージが孝弘のBOXに届いた
『私はもしも犯罪をするならで話しを進めています。詐欺を起こしたことも、犯罪が失敗したことも私の中ではもしもの世界。関わりはありませんよ』
その後この宛先からは返信はなかった
しかし別の宛先から『勝ったのは私ね。嬉しい言葉が今の私を支えてくれる』とアドラーから一言入ってきたハートマークと共に
テレビでは正幸の功績が讃えられている
『正幸さん、またお手柄ですね』
正幸がまた敏腕刑事として取材を受けていた
『人生に犯罪者に勝つのが警察です。今回も私が勝てたのは警察としての仕事をしただけですよ』
『何か一言犯罪者に忠告良いですか?』
正幸はその質問に
『世界中の犯罪者達。バラバラになったパズルが繋がってしまったらお前達は俺に逮捕される。離れ離れで幸せか?辛いだろ!まだやり直せるぞー』
孝弘の心にとても深く突き刺さる言葉だった