8月の大学生
「暑い、暑い、暑い…」
「蝉がうるせぇ…」
「夏は嫌いだ。」
そんな文句いつも言っていたのは大学1年の夏だろうか。
「1回生 岸原雄、本日をもってサッカー部を退部させていただきます。お世話になりました。」
大学のサッカー部を夏休み前に辞めた俺は近くのカラオケ店でバイトを始めた。
ずっとサッカー漬けの日々を送ってきた俺にとってバイトは初めてで慣れないことが多かった。
特にドリンクの作り方やフードの作り方は全然覚えられる気がしなかった。
でも、先輩たちは良い人ばかりだったのでなんとか助かった。
でも、同い年の女の子は違った。
宮城葵。
その名前は今でもはっきり覚えている。
新人の俺に対して「さっき教えたじゃん!ちゃんとやってよ!はい、さっさと提供行って!ほら!」などと嫌味口調で俺に説教しまくってきた。
俺の唯一のストレスだった。
元々、めんどくさがりの性格の俺にとって彼女はストレス以外の何物でもなかった。
彼女とシフトが被っていない日は嬉しかった。
夏祭りの日、俺は男友達と寂しく3人で祭りに来た。偶然にもストレス女の声が聞こえてしまった。
「だよねー!あ!りんご飴食べよ!」
最悪だ。
「あ、ちょっ、あっち行こーぜ」
まだ姿が見えなかったから早くその場から立ち去りたかった。
絶対に会いたくなかった。
「あっ」
見つかった。
「岸原君じゃん」
振り向く以外選択肢はなかった俺は仕方なく振り向いた。
俺は自分の目を疑った。
浴衣姿のストレス女はりんご飴を片手に持ち、普段とは違う雰囲気を漂わせながら、夏の夜に明るく輝いている花火のように俺には見えた。
「あぁ、これが恋か」
それから俺はバイトが楽しくてしょうがなかった。
相変わらず彼女は口うるさかったが、時より見せる笑顔は俺の何よりの癒しだった。