祝福持ちは優遇されるのか
残念魔王様と私に忠誠を誓う気がないドS執事、もっとも怖いほほえみのメイド長の3人に囲まれた非日常な日常が始まった。
ここで私が記憶の魔女となった経緯を話そう。
私はここに来て、まず城お抱えの学者たちにこの世界の常識や魔法、世界情勢について教えてもらっていた。
そこで、異世界からの客人はほぼ間違いなく、祝福を受けていると教わった。ありがちな設定だなと思いつつ、相槌を打っていたのだが、その祝福はこの世界の人間たちのおよそ3分の1、魔人にいたってはほぼ6割以上が有しているものらしい。
あら?ありがたみが薄れてきたよ?その説明をしていた歴史学者のルーカスも知識系の祝福持ちであった。
「では、祝福持ちとそうでない人の違いとは?私は何の祝福を持っているのでしょうか。」
貴婦人の言葉遣いというやつを心掛けないと私の後ろにいるアルスにあとで手ひどい目に合わされるのだ。
ついてこなくてもいいのに、わざわざ私の勉強の時間には必ずよほどのことがない限りついてくるのだ。学者の先生の前で私に粗相がないか見張っているらしい。
以前一度聞いたことがある。
「私の印象が悪くなろうが、あなたには一切関係ないでしょ。なんで目くじら立てられなきゃならないのっ!?」
そんなこともわからないのかと鼻で笑ったアルスに見下しきった目で言われた。
「いいですか?アナタの印象が悪くなれば、後見人として立つ魔王様の印象が悪くなります。アナタ自身の為に言ってあげてる訳ではないので、心得て下さい。」
仮にも執事なのに、アルスのアスカへの好感度はほぼゼロと言っても過言ではない。アスカはすでに諦めつつある。
「まず、祝福というのはこの世界を創世した女神リルスから与えられるものです。ちなみにリルスというのは古い言葉で闇や光、混沌といった意味を持つ言葉です。リルスは混沌の中から光と闇を作り、その混じりあったところに生命が生まれました。
このとき、最初に女神が作った生命たちには女神の力が宿っていたのです。祝福とはこの女神の力が薄まったものです。
いまだ発現の仕組みはわかっていませんが、魔力に影響されて発現するため魔力を持つ魔人やエルフ、獣人などに祝福持ちが多いというのが有力な説とされています。
力を持つ魔獣などにも祝福を持つものがいますから、おそらく魔力が影響するのであろうというのが王立研究所の研究の成果です。
前置きが長くなってしまいました。祝福持ちとそうでない人の違いについてでしたね。
たとえば、私は知識系の祝福持ちなので学者になりましたが、審判系の祝福持ちは裁判官などをしている場合が多かったり、職業や生き方を選ぶときに自分に向いているものが分かるのです。
ここで祝福なしに裁判官になったものと祝福を持ち裁判官になったものとの違いですが、二者の間には決定的な才能の差があるのです。確か、最高裁判所の判事は全員祝福持ちだったはずです」
ルーカスによれば、初めは同じランクにあるものの、最終的に達する到達地点が圧倒的に祝福持ちの方が上であるとのことである。
祝福イコール才能で、才能がないと出世できない。ブラックボックスで才能とか自分とかを探さないといけない元の世界より優柔不断な人にはいいのかな?
でも最初から自分で職業や学校など探すことすら許されていないのはちょっといやかもしれない。
「では職業の自由は祝福持ちにはないのでしょうか?」
ここが一番重要な部分である。私にはこちらの世界で職業を選ぶ自由があるのか。
「祝福を持たない分野で働く祝福持ちもいるにはいます。あまり多数派とは言えませんが。
過去には祝福を持つのに別分野で働いていたら、祝福なしの方たちからのひどい嫌がらせを受けることすらあったと聞きます。
今では表面上はそういったことも起きていませんが、裏では怪しい部分もあります。
職業の自由は与えられているとは思います。ただ祝福を持つ分野で働くことが期待されているのです。
私は歴史学者が向いていて、この職でよかったと思っています。自分の意志で選択した自覚もあります。
私のような祝福持ちの人間が大多数だとは思いますが、そうでない人がいるのも確かなのです。
そういう意味では祝福を持つものと持たざる者は平等ではないかと考えます。」