執事は誰に頭が上がらないのか
アスカは魔王様にこれでもかという位のお金に、屋敷、召使い5人と料理人、庭師まで付けてもらったので、何の不自由もなく暮らせる。
私の事が好き過ぎるらしくて、魔王様を幼少の頃から育てていたという乳母も付いてきた。王宮の侍女長だったが、引退してのんびり暮らしていたのを呼び寄せたらしい。迷惑極まりないから、辞めてくれと言ったのだが。
「あの女性には庭の昆虫以下の関心しか向けなかったぼっちゃまが、好いているお方ですもの。私が隠居している場合ではございません。」
とか何とか言って、やる気満々のご婦人である。ちなみに外見年齢は50前後位の、非常にお上品で押しの強そうなフローラさんが、新たに私の屋敷の侍女長になるらしい。もう、好きにしてくれ。
そして魔王様の乳兄弟になる、フローラさんの息子がアルスだ。そのアルス シャーリーが私の執事になった。金色の髪にそれを少し濃くしたような琥珀色の瞳で、正統派王子様顔である。イケメンである。
魔王サリエルより少し低いくらいの身長でこいつも同じく、8等身。ちなみにアルスとフローラさんはその色彩以外は全く似ていない。父親似のようだ。父親については何も聞いてない。
まぁそれはいい。問題はアルスは執事のくせに初対面で私を敵認定したことである。
与えられた屋敷での初めての食事、料理人お手製のめっちゃ美味いイタリアンっぽい料理を食堂で食べていた。給仕してないで一緒に食べようと言ったら拒否られたので、仕方なく大きな食堂で1人でご飯を食べていた。
イタリア料理のフルコース。特に美味しかったのがアレ!海鮮いっぱいブイヤベースのスープパスタみたいなやつ!めっちゃ美味かったし、今度また料理人に作ってもらうことにしよう。口いっぱいに頬張ってもぐもぐしてたのだ。咎める人もいないので、マナーは気にしていなかった。
いきなりバーンって両開きの扉が開いたと思ったら、いかにも王子顔のイケメンが睨みつけながらこっちに来たので、びっくりして固まっていた。
「このリスみたいなちんちくりんを?あのサリエルが?信じられませんね。しかも、これの執事になれと?俺が今まで散々勉強して、修行してきたのはサリエルの右腕になる為であって、このような小動物のためではないっ!」
初対面のイケメンが地を這うような声で、まるで汚らわしい汚物を見た時のように顔を顰めている。
ただ、アスカからしたらイケメンがなんか言ってるわ、ポカーン的なやつだった。
イケメンはキレててもイケメンじゃのうとか思っている。この間にも口だけはもぐもぐしていて、アスカは何も喋れない。
そうしたら、今度は先程よりも大きな音を立てて、扉が開いた。そこには仁王立ちするフローラさんがいた。
本当に後ろに般若でも見えるかと思しき、怒りの形相で、普段のお上品な様子からは想像も出来ない、のしのしと音を立てるのではないかと思うほどの勢いで歩いてきて息子に掴みかかった。
「口を謹みなさい、アルス。次アスカ様にそのような口の効き方をしてみなさい。私は瞬時にお前を死ぬより辛い辱めに合わせるわよ…お前がまだ小さかったから手加減してあげてたのを本気でやるから覚悟しなさい」
フローラさんが無表情で言葉を紡ぐにつれアルスの顔色がどんどん悪くなっていく。死ぬより辛い辱めってなんだよ。怖っ。フローラさんは敵に回すと終わる、気をつけよう。アスカは心に誓った。
というわけで、私に対してしぶしぶながら忠誠(?)を誓う執事が誕生した。
おかん強し!