奴隷商人の館は脱出可能なのか
ここは奴隷商人の館である。豪華絢爛というよりは質実剛健、実務的で軍事的な感じがする。窓には鉄格子が嵌り、ドアは施錠され、通路は奴隷商人が雇った傭兵と思われる粗野な男たちが一定時間ごとに見回りしている。しかも、2人1組で。
思ったより厳重、管理体制が整った逃げ出しにくい牢獄である。
奴隷はそれぞれ3人ずつ部屋に入れられている。しかも、剥き出しの石の…というアスカの想像した牢屋ではなく、簡易的なホテルのようで居住空間は悪くない。ベッドも椅子と机のセットもトイレもある。
1日2回食事が運び込まれ、2日に1回風呂に入れられる。なかなかの高待遇である。食事を運ぶ奴隷の1人に聞いたのだが、良い奴隷商人は商品である奴隷を管理し、丁重に扱うらしい。
ここの奴隷商人は良い方に入るようだ。
昨日、何かの魔法を使う奴隷商人の部下が来て、一人一人に魔法をかけて回っていた。多分、審判の祝福を持つ人間の特殊スキルか何かだと思うが。
奴は私を測定したあと、尻餅をついて後ずさり、私に対して『ばっ…バケモノ』と言って怯えきっていた。魔力が人間の量とは比べ物にならない上、何の魔法も使えないのを見て思うとこがあったのかもね。
私の予想だと、今日あたりこの部屋から連れ出されるだろう。
一緒に部屋に入れられたのは10歳くらいのエルフの少年と15歳くらいのドワーフの少女。出してくれと暴れることも無く、諦観している。
少年の方はリュートといい、住んでいた村を盗賊に襲われたあと、奴隷商人に売られたらしい。魔法がそんなに使えないとのことだけど、見た目が凄くいいので高く買い取られるのではないだろうか。
尖った耳の先の飾り以外はなんの装飾もないが、ストレートのシャンパンゴールドのボブヘアが下手な女の子より美しい。ラピスラズリのような深い蒼の瞳は切れ長で長いまつ毛に縁取られ、伏し目がちにするだけで気品がある。
女の子の方はラトといい、父親が鉱山事故で死んだために持参金が期待できず、ろくな嫁ぎ先も見つけられなかったために自ら奴隷になろうと思ったようだ。彼女の売りはその魔力と祝福によるものだった。
見た目は長い赤毛をポニーテールで纏め、ソバカスのある、少しポッチャリな緑色の肌をした女の子である。可愛いが、エルフの少年ほど見た目はよくない。
しかし、彼女は、土の魔法が得意で魔力量もそこそこある。本人曰く、ちょっと年老いた大農家の当主に買ってもらえたらハッピーとのことである。
前向きでガツガツしたよい奴隷だと思う。ちなみにアスカは良い奴隷とは何かを考えると哲学になるので考えたくない。
そして、魔力量は膨大だが、何の魔力も使えないアスカ。この部屋比較的高く売れる奴隷が集まってるのかな。
それぞれ簡単な貫頭衣みたいなのを着せられ、魔力が使えない腕輪とか首輪とかさせられているので、何も出来ない。ちなみにアスカが唯一使える魔力放出でも壊れなかった。残念である。
そういうわけで、移動するときにスキをつくか、助けてくれるのを待つかという困った2択である。スキを作ったとこで魔力使えないし、元々魔法も使えないし、無理である。