アスカの目覚めた場所がどこなのか
ガタガタ、ゴトゴト。
振動してる。ここはどこ?
アスカはゆっくりと瞼を開けた。
「気がついた?このまま眠ったままだと、変な研究施設とかに送られるところだったよ、あなた」
14、5歳くらいの可愛らしい女の子がニコニコとこちらを見ている。彼女の髪は顎の下で切りそろえられた淡いブラウンの髪で、瞳は非常に薄い水色だった。
彼女の首には黒くて重そうな金属製の輪が付いており、手足には手枷足枷がついていて、麻っぽいゴワゴワした素材のワンピースを着ている。
「ここはどこ?あなたなんていう名前なの?」
アスカの質問に女の子は目を丸くした。
「やっぱり、同意で来たわけじゃないんだ。この馬車そういう子多いね。私はユマ。エルフと人間のハーフなんだけど、口減らしで売られてきたの。ここは奴隷商人の馬車。これから馬車でお屋敷に運ばれてオークションで、売られるのよ」
ユマはなんてこともないように、アスカに説明した。
言われてみれば、彼女のように全く動じていない人と明らかに暗い表情の人が入り混じっている。子どももいるが、子どもは明らかに泣いている子もいるくらいだ。
「私はアスカ。多分、薬を嗅がされて攫われてきたの。ユマは同意で来たの?」
アスカの言葉に、ちょっとだけ悲しそうな顔でユマが頷く。
「私が1番上だったんだけど、お父さんが死んじゃってから家計は苦しくなるばかりで。私とお母さんで必死に働いても幼い弟や妹が初等学校に行けないくらいだったの。
だから、1番見た目がいい私が売られるべきだってお母さんに言ったの。すごく反対されたけど、それ以外に方法がある訳じゃなかったから。
幸い、見た目も良くて、エルフとの混血だから、高く買ってもらえたのよ」
「ふーん。なるほど。じゃあ、条件のいい所に落札されて生活がマシな感じになるといいね」
アスカはここでなんで人生諦めてんのっ!とか言って激昴することはなかった。諦めて自分の手の届く範囲内で幸せを探すのも一つの手だろう。
『悲劇のヒロインというのは1番タチが悪い。自分の状態が悲惨だからといって、ヒーローが助けに来てくれると信じきっている。大した努力もしていないのに、誰かが救ってくれると思っている辺りおめでたいことだよ』
これも昔誰かに言われたことだ。私は他力本願な生き方は美しくないのだと思っている。幸せは自分でつかみ取らねばならないのだ。真の努力に周りは優しくなり、手を貸してくれることもあるが、最初からそれ頼みとかこの上なく愚かだ。
ユマは自分の主張があまり強くないタイプに見えるし、性格がお人好しなのだろうから、幼い兄弟を自己犠牲でなんとかしようとしても不思議ではない。
でも、ユマの言葉の端っこに確かに誰かに救ってもらえる望みを捨てきれていない感じがした。
「そうね。貴族か大商人の妾くらいになれたらそれなりに幸せかなと思うよ」
さっきより悲しそうな顔はそのことを物語っていた。
これ以上は話す必要性もないなと思ったので、現状把握と情報収集を始めた。多分アスカのことはアルスたちが探してくれているだろうが、助けに来てもらうのをただ待ってるだけにはなりたくなかったので、今出来ることを精一杯やろうと思ったアスカは近くにいた諦めきった目の男の子に話しかけた。