どうしてアルスが抱きしめたか
争いの気配から少し離れたところ、家と家のかげからライラとルーカスの家を二人で見る。アルスは出来る限り動くなと言われているので、置物のように固まっている。
アルスの腕の中で。はい、ここ重要。
ケンカしている場合でもないので、不服ながらも、アルスに抱きしめられたままになっている。
一旦睨みつけるけど、すぐにライラの家の方へ目を向けた。
どうやら、火の魔法で家を守っている緑の魔法が撃ち破られたらしく、家が燃えていた。そのすぐそばでは柄の悪そうな人間と話に聞いていた容姿通りのライラさん、ラムちゃんが対峙している。あれ?ルーカスは?
あ!いた!ルーカスは別の場所に隠れて様子を見ている。最愛の奥さんのことで頭に血が上っているかと思いきや、静かに突入のタイミングを待っているらしい。
ルーカスとアルスが目配せしあっている。突入のタイミングを合わせようというのだろう。
「いいですか?アスカ様の魔法の価値を知られたら無事では済みません。今は私が隠匿の術を掛けてるので分からないと思いますが、魔力を捕捉されたらおわりです。ここにじっとしていてください。今から気配が薄くなり、建物に同化して見える術をかけますから動かないのですよ」
アルスが抱きしめていたのは気配を消すためだったらしい。アルスの言葉にこくこくと頷く。
「いい子で待っててください」
そう言い残して、アルスとルーカスは飛び出して行った。ルーカスは何かの魔法で敵を倒そうとしているのか、ライラの方へ向かいながら手に魔力を集めている。氷の礫が大量に敵の方に降り注ぐ。
ルーカスに目を取られている敵の背後からアルスが近づいている。音も無く、1人を手刀で気絶させた。うちの執事は戦闘場面でも優秀らしい。
一方ラムちゃんとライラさんも全く怯まず、戦闘を開始している。ライラさんは緑の魔法なのか植物の吐く粘液で敵の動きを封じているし、ラムちゃんは魔力を身体に纏い、身体能力を高めた上でボコ殴りである。
ラムちゃんの戦い方が男らし過ぎて困る。だって、カンフースターも真っ青な体術なのだ。飛び蹴りをしたと思ったら、背後の敵を殴りつけ、鳩尾に膝を埋め、背負い投げで倍の大きさの男を投げ飛ばす。
めっちゃつえええ。
ルーカス側に気をとられて、アルスの動きで敵が体制を崩している。一生懸命みんなの戦闘を見ているうちに少し動いてしまって、ジャリと足の音を立ててしまった。
「こんなとこにいらっしゃったのですね。お姫様。さぁ、私と一緒に参りましょう」
アスカが何かいう前に、その口が薬臭い布で覆われた。知らぬ間に背後に現れた女に何か嗅がされたアスカはその場から攫われた。