それはキスなのか
程なくして、ネオジムに到着した。うーん、空気が美味しい!
「今日はライラの自宅に泊まります。食事は彼女が地元の料理を手作りしてくれているらしいですよ」
アルスは、移動中に取り出したいものが入ったそんなに大きくないボストンバックをルーカスに渡しながら、アスカにエサが貰えますよ、良かったですねと耳打ちしてくる。クソ。アルスコロス。
「うちの奥さんの料理すごく美味しいですから、アスカ様もきっと気に入りますよ。楽しみにしててください」
ルーカスが今までにないくらいへらへらとしている。奥さんにベタ惚れとの噂は本当らしい。
ルーカスの先導でライラさん宅へ向かう。なんだか大気中の魔力が変に動いていて、なにかあるかもしれないと言ったアルスがラムを偵察に向かわせたので、ちょっとだけ待ち時間。
「なんで、ライラさんってルーカスと別居してるの?ラブラブなら一緒に暮せばいいじゃないの?」
ルーカスは目を見張って、アルスと目配せした。なんじゃい。目と目で通じ合うなや。
「私は魔の国に家を持ってません。いつもここに帰ってきますから。昼離れている間でも、私は彼女に何かあればすぐに分かるので」
曰く、魔の国の空気中の魔力はほかの種族には毒になるレベルで、ライラさんに合わせてこちらに住んでいるらしい。
あとはライラさんに何か発信機みたいなものが付けてあり、それの信号で判断し、いざとなれば、転移で助けに来るとのこと。
わぉ。発信機。ちょっと愛なのか分からんレベルじゃねえの、それ。
アルスは目を合わせるとフイと顔を逸らした。あー、やり過ぎなのは共通認識なのね。
突然、ルーカスがばっと顔を上げた。
「何かあったみたいです。行きます」
険しい顔でルーカスはそれだけ言い残して転移してしまった。アルスはアスカを1人で残すのか、連れていくのか迷っている。
「どうしますか?正直に言うと、戦闘になっていたら貴女は足でまといです。しかも、ほぼ戦闘が起こっているといっても過言ではない。でも、ここに残しても1人で身を守る術はないですからね。あの付け焼き刃の護身術じゃなんの頼りにもなりません」
アルスが主人としての私に決定を求めるのは始めてだ。どちらの選択もどっちもどっちであるから、アスカの意志を優先しようとしている。
「私は行ったほうがいいと思う。近くの目だたない所に隠れてるから、アルスだけ戦って」
分かりました、そうしましょう、では行きましょうとアルスはアスカと向き合った。
「向こうに行ってからではなにも出来ませんから、守護の魔法かけておきます。あと気配が薄くなる魔法も」
ブツブツと口の中で何事か呟いたアルスが目を閉じて下さいと言ったので、目を閉じた。
おでこの髪がかき分けられ、おでこに何かが触れて、暖かい何かに包まれる。びっくりして目を開けると、凄く近いところにアルスの身体があった。
え?今おでこにキスした?
アルスが目を閉じてろと言ったのにと言いたげに、胡乱な目でアスカを見た。
「終わりました。では、転移しましょう」
アスカの手を取ってアルスが何事か呟くとその場から二人の姿は消えていた。