ルーカスの口はどうやったら止まるのか
「多分、聞いたかと思いますが、私たちは魔族です。人間とは違い、例え飢餓に陥っても大気中の魔素の変換で生きられるし、全く緑の魔法というものに対する利益はありません。君を害することはない」
「あのっ!ごめんなさいっ!人間は魔力を奪われてもちょっとだるくなるだけだし、変だなとは思ったんです。あなたが悪い人かどうかも確かめずに魔法使ってしまった私が悪いんです」
へにょっと音がしそうなくらいに眉が下がっている。そして、ルーカスの目を見て話すのはちょっと恥ずかしいのかひたすらルーカスの手元を見ている。ちょっと話し方はましになってきたな、とルーカスは思った。
「お詫びに、この村を案内します。研究や探求がお好きだとお聞きしました。私は家庭菜園をしながら、この村の周りの遺跡をエルフに案内することで生活しているので、多分少しは楽しんでいただけるのではと」
少女は勘違いしていた。ルーカスが好きなのはあくまで本を読み、考察することである。しかし、無下に断ったらこの少女はもっと困った顔で申し訳なさそうな声で謝り続けるに違いない。
「もう謝らなくていいです。顔をあげてください。ライラさんの話を聞いている限り、今回の対応は間違ってません。確かめてる間に捕まる可能性もありますから。
遺跡に実際に行ったことはないです。けど、知識の探求である限り私の興味の対象内です。案内楽しみにしていますね」
ルーカスが普段はほかの人に向けることがない笑顔をライラに向けると、ライラもはい!とニコニコと笑いながら応えた。ルーカスはライラに目を奪われた。ビクビク、オドオドしていないライラは美しくて魅力的だった。
それから、ライラとルーカスは2週間かけて膨大な数の遺跡に2人きりで赴いた。
意外なことに観光名所となっている割には遺跡は殆ど手付かずだった。しかも、魔法遺物はほとんど壊れていなかった。
魔法遺物が失われた古代魔法によるものであり、知識の無いものには綺麗な石像、置物、ステンドグラス、よく分からない恐ろしいモノにしか見えなかったのもある。
神聖な空気を感じる、古きものを信仰するというエルフの目的から遺跡の発掘というものは外れていたために、発掘は殆ど行われていなかった。
また、エルフが使わない種の、しかも失われた難解な古代魔法の解析を行うような識者がいなかったのだろう。
失われた魔法を示す魔法遺物に惹かれ、ルーカスは考古学を極めることになった。
「お父さん!お母さん!これが本当に知識を求めるということなのですね!これを教えたくて連れだしてくれたのですね!」
目をキラキラさせたルーカスに両親は何も言えなかった。
本だけに齧り付いている息子に外の世界にも興味を持って欲しかっただけなのだが。それはもはや言い出せなかった。
そして、ルーカスはアクティブな学者になった。
それから、ルーカスのノンストップ古代魔法遺物についての講座がスタートした。10分を過ぎた辺りで、頭がパンクしそうになったので、ラムちゃんに目で助けを求めた。
が、ラムちゃんはそれはアスカの自業自得であるとばかりに深く頷いて、助けてはくれなかった。
ちなみに、アルスは馬鹿めと見下しきった目を1度向けてからは持参した本に目を落としている。ムカつく執事である。
きっと満足するまで止まらないでしょう