ライラはどうして人間不審になったのか
「ごめんくださーい。すいません、ちょっと雨宿りさせて貰えませんか。」
両親が色々観光に行くのに付き合っていたが、早々に飽きてしまったルーカスは道端で本を読んでいた。
結果両親に置いていかれてポツーンである。いつもなら、その場で両親が来るのを待つのだが、生憎と雨が降ってきてしまった。
持ってきた本が濡れるというのはいただけないので、近くの民家で雨宿りを頼もうとしたのである。
「はーい、え、あの、その……ごめんなさいっ!!」
出てきたのは銀髪を両側の耳の横で三つ編みにした少女だった。ルビーのような紅い瞳はルーカスを目にした瞬間見開かれ、謝罪の言葉と共に彼女の身につけていた腕輪が光った。
次の瞬間、ルーカスは蔦で拘束されていた。簀巻きである。しかも、蔦の触れている部分からどんどん魔力が抜けて行く。魔力の低下により意識がだんだんボヤけ、ルーカスは気を失った。
次に気がついた時、ルーカスは見知らぬベッドに横たわっていた。ちょうど扉を開けて例の美少女が入ってきたので、身体を起こそうとする。少女の背後で両親の話し声が聞こえた。誤解は解けたのだろう。
「ダメ!まだ寝ていてくださいっ!」
少女に押しとどめられて、布団の中に戻る。甲斐甲斐しく世話をしてくれたのは彼女のようだ。身体のベタつきもないし、汚れた旅装は清潔な服に変えられている。どうぞと飲み物と果物を差しだされたので、少し口にする。こちらを見てソワソワし、口を開いては閉じ、開いては閉じしている彼女をじっと見た。
「あのっ!本当にごめんっなさい!あの、えっと私はライラって言います。ルーカスさんっ…のご両親から事っ情はお聞きしました」
ライラは深々と頭を下げたままで、こちらを見ようともしない。人見知り1発で分かるようなたどたどしい話し方と態度だ。
「あの、頭をあげてください。既に知っているみたいですけど、僕はルーカスです。どういう事情があるのか教えてもらう事はできますか?」
ライラは、はい、少し長くなりますがと答えてゆっくり説明し始めた。
魔族や人間、精霊は神の息吹によって生まれた生き物である。ちなみに普通の動物やら何やらは力のある魔族が生み出したものであるという説が有力である。
対して、エルフは精霊女王が始祖と言われている。神が生み出した精霊に連なるモノ達がエルフ。そのせいかエルフは精霊信仰に厚い。
精霊女王の血を薄くではあるものの、引いているエルフたちの中には稀に精霊女王の色彩や能力を先祖返りで持つ者が現れる。まさに、ライラがそれであった。
言い伝えによるとエルフの始祖となった精霊女王は銀髪で紅い瞳、高い魔力と知性を持ち、植物を自在に操る緑の魔法を使っていたという。
ライラは見た目だけでなく、高い魔力と緑の魔法を操る才能があった。それゆえ、幼い頃からよく誘拐されそうになっている。
精霊女王の先祖返りであるライラを害そうとするエルフはめったにいない。誘拐しようとするのは常に人間であった。
緑の魔法は農業をしやすくする。人間の国が飢餓に見舞われると決まって人間の奴隷商人に攫われそうになった。
両親が流行り病で亡くなって保護者もいなかったライラは1人でその危機を何度も乗り越えた。次第に人間恐怖症になってしまった。
常に瞬時に魔法を発動させるための腕輪をし、人間はすぐに捕縛する。それによってライラは危険を乗り越えてきた。今回もそのようにしてルーカスが捕縛されたのである。
「本当にごめんなさい」
ライラは泣きそうになりながら謝っている。気にしないでくれとライラを慰めた。
魔族は自分たちの利益のために他の種族を害することはない。しかし、魔族は自領から出ないのでその生態や見た目すら他の種族には伝わっていない。憶測と、ものすごい魔力量、特殊な魔法構築から恐れられてきた。
今回ライラが見た目に人間に似ているから間違えたのは無理もないのだ。