ルーカスはどうして考古学者になったのか
静かになった車内で、アスカはもそもそとマフィンを食べる。干しいちじくのマフィン。てらうます。
あと、1時間もしたら、目的のタンタル地方である。タンタル地方はいわゆる観光都市である。エルフは清い水と空気、緑を好む。その全てが揃ったタンタル地方はエルフ的な熱海と考えて良い。
熱海。そう熱海である。
温泉が盛んで、旅館がある。むふふ。
何を隠そうアスカは温泉が大好きである。銭湯やお風呂も好きだ。
あと、旅館は懐石である!美味しいご飯!
「アスカ様その顔気持ち悪いのでやめていただけますか」
アルスがなんか言ってるけど、無視無視。
「本当に、食べている時のアスカ様は幸せそうですね。見ているだけでこちらが癒されます」
ラムがほぅっと熱い息をついた。ラムはアスカを愛玩動物か何かだと勘違いしているらしく、普段から食べている私を愛おしそうに見つめて来るのだ。
お目付け役のフローラさんもいないので、アスカを存分に愛でる。普段フローラさんの前では目で見つめるだけだが、今は食べているアスカをよしよしと撫でている。
ハムスターかリスのように頬を膨らませ、食べ物を食べているときのアスカはみんなの人気ものである。その様子に場が和んだ。
みんなどうやらなんだかんだ言うこともないが、魔王様の出生の話は暗黙の了解で知っている。そして、魔王様がものすごく強いので、強者に従う魔族たちはみなある程度魔王様を尊敬している。
強くて優しい、理想の魔王となろうとする魔王様に対して悪く思う人は少ないんだろう。
だから、気にかけているけど、腫れ物扱いしている。うむ、歪む要素ここにもあるな。
「食べているときは静かで大人しくて私は助かりますね」
アルスとラムがバチバチしてる。この2人仲が悪いのである。
「アルスが執事とか信じられませんね。私が今からでも代わりましょうか?」
それに対して我関せずで、ルーカスはアスカにマフィンの感想を聞き、自分の食べていたピスタチオのマフィンを半分渡す。
これはこれで美味しい。お礼にルーカスにもイチジクのマフィン半分あげた。アスカはイチジクのマフィンを3つも買っていたのである。
「ルーカスのお父さんとかお母さんのこと教えて」
アスカの問に一旦目を丸くしたが、ルーカスは教えてくれた。
ルーカスは350歳で奥さんはいるけど、子どもはまだいない。お母さんとお父さんは既に亡くなっていて、子どものころを教えて欲しいというと快く了承してくれた。
ルーカスの両親は小さい頃から、ルーカスを外に連れ出したがった。10歳の時に教会で知識の祝福持ちだと判明するまでも、ルーカスは本を読むのが大好きで、外で遊ぶことはめったになかった。
そのルーカスを心配した両親に連れられて、世界各地を巡った。何かルーカスの心を動かす物は外の世界にないのかと考えてのことだった。
ルーカスがインドアの割に旅慣れているのはこのせいである。
魔人は強い。
他の種族は簡単に凌駕してしまう魔人の強さは他の種族を怯えさせるのには十分である。
不必要なトラブルを起こさないためにも魔人は全員人族だと名乗る。
旅の途中に立ち寄った中でルーカスを決定的に変化させる事件が起きたのが今から行くタンタル地方の端のネオジムという小さな町での出来事だった。
人族を恐れる同い年くらいのエルフの女の子。この子がルーカスの人生を驚くべきほどに変えたらしい。