魔族はなぜ世界征服をしないのか
エルフの国、タンタル地方。
ここはエルフの国の外れどちらかというと隣接するドワーフの国に近い位置にある。
ちなみにこの世界大きな大陸が世界に一つだけあって、周りに島国がチョロっとある感じの単純な構造である。その一番南に魔の国がある。一番北に人の国がある。
種族ごとの境には緩衝地帯があって、そこは人が住めるような環境にはなっていないし、1度に1000人ずつくらいしか通ることが出来ない。
種族間の領土を巡った争いには余程のことがないとならない。魔人は転移魔法使ってしまえば簡単に移動出来てしまうので、魔人なら世界を征服可能であるとのこと。
「なんで、征服しないの?」
アスカがもぐもぐしながら、ルーカスに聞いた。
ちなみに今食べているのは途中の駅の売店で買ったフランスパンのサンドイッチである。間に切れ込みが入っていて、生ハムとアボカド、クリームチーズ、水菜などが挟んである。もちろん、デザートに季節の果物のマフィンも買った。
いつも何か食っているアスカを白い目でアルスが見ている。
仕方ないじゃん。お腹空くんだもん。ここの世界に来てからご飯が美味しすぎるのだ。大体何を食べても美味しいと、とりあえず食べるのが普通というものだと、アスカは開き直っている。
アスカは正真正銘中肉中背の普通の体型である。太ってはいない。この世界の人達平均身長は多分現代日本と変わらないので、女で160センチは平均身長くらいだと思う。
ちなみに体重計で毎晩計るのだが、体重は微動だにしない。この計量はアルスによって義務づけられている。本来アスカは体重など気にもとめない。
アスカが太っだ瞬間に、ダイエット用カロリー管理メニューにしようと目論むアルスはアスカの唯一の楽しみを邪魔する不届きな奴である。
話は魔族がこの世界の征服をしないところに戻る。
「旨味がないからです。魔族は世界最強の種族で、どのような環境にあろうと最後まで生き残ります。
空気中の魔素を栄養変換すれば、食事すら必要ありません。だから、耕せば実る畑があり、取りすぎなければ魚の居なくならない海があり、鉱石の取れる鉱山があればいい。あの魔の国の環境でよいのです。
それから魔人は人口が多いわけでも増えるわけでもないので、広すぎる土地も不要です」
ルーカスは魔族はほかの種族に興味を持たないと肩をすくめる。
字ズラで見る魔族のイメージと実際の魔族では全く違う。この人たちは悪い人たちではないとは前々から思っていたが。むしろ人の国の方が征服欲などの性質をもつのではないか。
「だから、子どもあんまり見かけないのね。城下町にもほとんどいなかったもの」
魔族の子どもについて話すと、場がしーんと白けた。何かタブーでも言ったかな。
「アスカ様、それは別に理由があるのです。魔族は死期が近づかないと子を成せないようになっています。
長く生きる種族ですから、死期が近づくといっても余命だいたい100~50年くらいの頃でしょうか、その頃に子を成します。
僅かな時しか一緒にいられないとなると親も非常に子どもを大事にしますから、生まれてから20年程度は家から出られないのです」
ルーカスが気まずい空気を感じながらも教えてくれた。多分、これ魔王様の出生のことが原因だな。
魔王様のお母様は魔王様を産んで半月で亡くなった。これは例外中の例外だったのだが、しかも原因が魔王様が胎内から魔力を吸い出したことによる魔力欠乏症。このことを連想して、全員が押し黙ったのだ。