アスカの食欲で天変地異は起こるのか
「魔王様の生きる原動力は父王に勝ちたいという気持ちなのです。魔王様は父王より魔の国を発展させ、善政を行いたい、それだけの為に生きていると言っても過言ではありません。そのためには王妃が不可欠ですが、同時に王妃を選ぶ審美眼も非常に鋭くなっています。闇雲に探しても見つかりませんでした」
やれやれと肩をすくめるアルスが、1口サイズのサンドイッチを勧めてくる。あまり食欲はないが、手をつけないと料理人たちが心配して、私が食べられるものを用意出来るまで大量の料理を仕込むのでしぶしぶ口にした。
「これ、美味しい。また作ってって頼んどいて!」
キュウリとハムのサンドイッチと赤い実のジャムサンドとタマゴサンドが交互に並んでいて、それを花弁に見立てた盛り付けが凄く可愛い。しかも食べても美味しい。さっきまで引っ込んでいた食欲が顔をだしたようである。もぎゅもぎゅと口いっぱいに頬張るアスカを見たアルスが少し目尻を下げた。
「アスカ様がご飯を食べないとか、天地が入れ替わるレベルの気象異常の前触れですから、安心しました。魔の国が救われました」
「は?なにそれ?私がめっちゃ食いしん坊だって言いたいの?喧嘩売ってるの?」
アスカがアルスを睨みつけて、枕を投げたが、見事キャッチされてしまった。くそう。ただ、この位の減らず口を叩いていないと、アルスらしくない。この間みたいに黙々と世話をやかれるよりよっぽどいいやとも思った。
「そんなこと言ってませんよ。さぁ、作戦の続きを立てましょう!」
非常にニコニコしているアルスにイラぁっとするが、まぁ作戦会議の続行には意義があるので、水に流すことにする。
「それでどうするかだよね。まぁ、ひとまず記憶の魔女にはなっちゃったんだから、それは仕方ない事だとして……」
基本方針は決まった。まず魔王様のお妃様候補を探すためにはここに留まっていても仕方のないことなので、旅に出ることになった。
大義名分とかないけど良いのかよとアルスに聞くと、他の異世界からの旅人に会いたいから各国を渡り歩くなんていうのは良くあることらしい。そういうことにしとこうと言う話である。
一人旅という訳にも行かないので、アルスとルーカス、それからフローラさんの一番弟子で私付きの侍女ラムちゃんを連れて行くことになった。荷物は空間魔法で繋げた部屋1個分持っていくらしい。この空間魔法を使えるのがあんまりいないので、王宮お抱えである歴史学者のルーカスを連れて行くらしい。
「ルーカスの研究は滞って困ったりしないの?」
「ルーカスは歴史学者でもありますが、考古学者でもあるので各地の遺跡で魔道具を発掘、収集することもしています。
アスカ様と私の目的であれば同じ場所にしばらく滞在することもあります。
その間は遺跡に籠ることを許可していますからね。私の転移魔法で必要な時は転移させるつもりですから、一箇所にいてくれれば困りませんし。この条件を伝えた所二つ返事で同行を了承してくれました」
興味のある事のためなら何でもするし、無頓着になる。研究者の典型的特徴である。家族はうんざりしているらしい、アルス曰く。へー、奥さんとかいるんだ。もの好きもいたものである。
アスカが身を守る最低限の護身術と魔法を身につけるのを待って10日後には魔の国を旅立った。