魔王様の好みはどんなタイプなのか
「具体的にはどうするの?私なんも考えてないんだけど。あと、魔王様の好み分からないから」
翌日である。腫れ上がった瞼が治っていないのと、魔王様と会いたくないので、自室に篭城中のアスカである。一応、体調が悪くて誰にも会いたくないとベッドに臥せっていることになっている。
というわけで、アルスと作戦会議中である。
「魔の国には適材がいないので、他の国まで行きましょうか。魔王様はその地位や魔力に惹き付けられるような女は全員虫ケラ以下だと思ってますから」
アルスがため息をつく。いい影響になる人が男でも女でもいいのでいて欲しいという思いから、魔王様に呼ばれるまでは魔王様の運命の人を探して、約5年間、各国を放浪の旅人として廻っていたらしい。
「結局、私がいい人をみつける前にアスカ様の件で呼び戻されてしまいましたが」
アルスが自力で見つけられなかったとなると、条件はかなり厳しそうである。
まず、魔王であることに怯えたり、縋ったりしないこと。地位や力に惚れるような輩を相手にする暇などないと、大臣の娘と見合いを断ったことがあるらしい。
次に、ある程度の魔力があること。これはそれなりの魔力がないと、魔王様の濃い魔力にやられてしまうから。人として魔王様を愛せたとして、相手が魔力で変質してしまったら魔王様が今度こそ闇堕ちしそうである。
最後に、王妃としての正しい振る舞いができること。外国との外交とか、王様の執務とかを手伝うくらいはしてくれないと困る。さらに、人前に立つのでそれなりに愛想がよくないとね。
「このうち2つが当てはまるのが現状アスカ様しかいらっしゃらないので、魔王様は求婚してるんだと思います。
3番目については別においおい学んで下されば大丈夫な部分ですから。必要最低限の愛想の良さ位はアスカ様でもお持ちですし。
あの人は王としての自分の役割のための伴侶という形で王妃を欲しているだけです。愛してるとか好きとはまた別の感情でアスカ様に求婚していらっしゃいます」
魔王である父親のことを相当意識しているらしい。そして、自分を産んだ時亡くなった記憶の魔女である前王妃に対する複雑な感情から、アスカに執着しているのだ。
「魔王って世襲制だっけ?魔の国って実力至上主義だったような気がするんだけど」
魔王が治める魔の国は魔力の量、魔法の質などが基準となる実力至上主義である。一般的な人間の王族とは違って実力のないトップは引きずり下ろされる。
「稀にあるんです。魔王が2代続くときが。3代目以降は有り得ませんが」
ふぅとアルスがため息をつく。これもまた例のこじらせてる原因の一つらしい。曰く、前王妃の死因は今の魔王様が魔力を胎内から吸い尽くしたのが原因らしい。前魔王である父親はそれが原因で魔王様の扱いに困っていたとのこと。
「一番良くなかったのは、サリエル様の両親が相思相愛で結婚し、魔の国に800年以上にわたり善政を行っていたことです。理想の夫婦でありながら、国中が認める理想の君主だった2人の仲を切り裂いたのがサリエル様だった、これを知ったときのサリエル様の悲しみは測り知れません」
アルスが用意してくれたホットジンジャーミルクティーを飲みながら、うんうんとアスカは頷く。あー、あの父親を振り向かせたい的な気持ちとあの父親と誰かが話してて、自分の出生の秘密を知っちゃったときの感情か。ひねくれるわそりゃ。