表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人形師と理想人格  作者: 弥七茂右ヱ門兵右衛門桜江
第零章
8/12

第二話

 タルは夢の中で大勢の人間の声を聞いた。


「やるのだニーナ。お前がやらなくてはならない」

「これはきっと神の思し召しよ」

「ニーナ。お願いだ。君を失いたくない」

「……ごめんなさい。タル」


 胸の上部に鋭い痛みを感じた。息をしようとして咳き込む。喉の奥から熱くぬめりとした液体が迸る。

 視界は暗闇に飲まれ、腕も足も動かすことができない。

 悪夢から目覚めようとタルは強く目を瞑る。

 だがこれが決して夢などではないと、覚醒しつつあるタルの意識が冷静に判断し始め……だが確信に至る前にタルの意識は再び暗黒に落とされた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 暗闇の中でタルは目を覚ました。

 その呼吸はいつもと何ら変わりない。

 ただ場所はタルの記憶と合致しなかった。

 見えるのはごつごつとした岩肌。全身を刺すような冷気が立ち込めている。

 そこは洞窟の中の広い空間だった。タルは突出した岩の上に横たえられていた。

 次第に暗闇に慣れる目で辺りを見渡す。

 洞窟の至る所に穴が開いている。そのどれかは外に通じているのだろう。

 そう離れていない場所で流水の光が見えた。

 そこには大きな湖があった。洞窟の奥まで続いている。

 タルは自身の体をあらためる。服は全て脱がされ、血でなにやら紋様が描かれている。

 タルは深くため息を吐いた。

「ここまではカサノヴァの筋書き通りか」

 タルの声が暗い洞窟に反響する。

 その時、湖面が不自然に揺れた。

 湖面が細かく震え、さざ波が広がった。

 うねり、滑るようにそれは現れた。

 タルの目の前で止まり、巨大な顎を開いて威嚇する。

 それは白色に光る大蛇だった。

「お前がここの神か」

 タルはそう喋りかけたが、帰ってきたのは暴力的な自然の摂理だった。

 白の大蛇は一直線にタルの胴体に喰らい付いた。

 そのままタルの体に幾重にも巻き付き押し潰す。

「……さあ、俺を殺してみろ」

 あばら骨が折れて内臓に突き刺さる。

 そしてあっさりとタルは死んだ。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 悲哀、苦痛、怒り。

『ああ、また村の子供を殺した。いつまでこんなこと続けなくてはならない』

 そこは暗い感情で埋め尽くされていた。

『だが私は絶対に途中で投げ出したりしない。村を守ると約束したのだから』

 だが同時に正義の意志と覚悟があった。

 それらがない交ぜになり、その場所を形成していた。

 ここがどこなのか、聞こえる声は誰のものなのか。

 それらの疑問が浮かぶより前に、タルは落胆した。


――やっぱり、ダメか。


 ドクン、ドクンと脈打つ音が聞こえる。

 それは全方位から、タルの体に振動を刻む。


――ここは、蛇の腹の中か?


 全身を覆う硬い膜の感触を確かめ、タルはため息を吐いた。


――何が神だ。結局ただの呪い患い(のろいわずらい)じゃねえか。


 タルは自身の右手に意識を集中する。それと同時に頭の中に広がる感情の渦。

 不安、懐疑、焦燥。

 蛇の感情が雪崩れ込んでくる。


 タルの右の手には、ある神官が作った呪いの石が埋め込まれていた。

 その石は特性として任意の相手と意識を共有することができる。

 共通の言葉を知っているなら、対話をすることもできる。

  

『生きている?あり得ない。あり得てはならない。そんな馬鹿な』

『おい蛇、聞こえるか』

『……何者だ?村の人間ではないな』

『ああ、だから今すぐ吐き出せ』

『なぜ生きている?確かに首をへし折ったはずだが』

『俺は死なない。そういう呪いにかかってる』

『呪い……だと?』

『ああ。お前と同じだ』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ