第二話
街に入ってすぐの大通りは、遠くまで露店が立ち並び、何かの祝祭のように賑わい、込み合っていた。
観光客や巡礼者らの集団でここは常に混迷を極めている。
この通りをまっすぐ行けば目的地に着くが、タルは横道に逸れて人通りの少ない路地へと移った。
宿屋の続く通りを抜けて街の中心へと向かう。
小さな広場に出たところでタルは事件に遭遇した。
「おい。誰がこいつの姉ちゃんだって?」
「……ごめんなさいっ」
そこには石畳の上に一纏めに正座させられた少年たちと、その内の一人の首元を掴んで恫喝している少女がいた。
それ以外にもう一人、近くで立ち尽くす少年がいる。
少女はローブをドレスのように着崩し、肌の大部分を露出させている。
右腰には物騒にも細みの剣を帯びていた。
「目を反らさないでこっちを向いて。こいつとボクが姉弟だって?本当にそう見える?」
「見えません」
「そうだよね。この美しいボクがこんな奴と血が繋がってるわけがないんだ」
少年たちのほとんどは顔に殴られたような痣ができていた。
「おい、何をやってる」
タルはその女悪党に背後から問いかけた。
「何ってこいつらが……タル!久しぶりだね!」
少女は黄金色の短髪を煌めかせながら振り向いた。
その貌は十人が十人見惚れてしまうような輝かしくも麗しい顔だった。
「こいつらがこの子をいじめていたんだ。だからちょっと教育をね」
少女は一人だけ無傷の少年を指す。
正座させられている少年たちは腫れた顔を涙で濡らしていた。
「それだけか?」
「もちろん続きがある。こいつらはこのいじめられっ子とボクが姉弟だって言ったんだ。許せないよね」
「……お前たち、もう行け」
少年たちは怯えながら走り去った。
「タル、神には逢えた?」
「神なんているわけないだろ」
「それが神官の言うことかぁ?」
「神官は子供を殴って正座させたりしない」
「それは仕方がないよ。神より尊い、このボクを侮辱したんだからね」
ネロはさも当然のようにそう言い切った。
見た目は十五歳かそこらにしか見えないが、この少女はタルと同じ祓魔神官だった。
「いつ戻ったの?」
「ついさっきだ。これからカサノヴァに報告に行く」
「ふーん。じゃあ僕は見廻りを続けるから」
「問題を起こすなよ」
「問題なんて起こすわけないでしょ。ボクはいつだって完璧なんだからね」
ネロは鼻歌を歌いながら角を曲がって消えた。