第四話
「アオ、顔を上げなさい」
少女は、私の頭をポンと叩いた。
「私は村を守るために選ばれたのです。悲しむようなことではありません」
私はシアナが手足を縛られ、生贄として蛇の巣穴に取り残されるのを黙って見ていた。
やがて岩戸が閉まり、洞窟内は完全な闇に支配される。
私は岩の陰から走り出て、短剣でシアナの拘束を解いた。
「……こんなことをしてはいけません。すぐに洞窟を出るのです」
「もう遅いよ」
洞窟は入り組んでいた。どこかに出口があるかもしれない。
私はシアナの手を引いて歩いた。
「神なんていない。村のみんなは間違っている」
その時、シアナが内心どう思っていたのか、私は考えることもしなかった。
やがて行きついた広い水場で、私たちは巨大な白蛇と邂逅した。
それを見たとき、私はこれが神なのだと、確信をもって断ずることができた。
白蛇がシアナに噛み付こうとしたときに、私は強い恐怖に駆られ、無茶苦茶に短剣を突き刺した。
目の前のものがなんであるか、そんなことは考えず、ただ衝動に駆られて、
私は神を殺した。
湖の底に光が見えた。私はシアナとともにそこから外に出た。
村の者たちは話を信じなかった。
だが本心から神を信じている者など誰もいなかった。
ただ恐怖のために、彼らは生贄を捧げていたのだ。
白蛇の遺骸は村の神体として奉った。
その年で、長い哀しみの儀式の連鎖は断ち切られた。
最初にその病に罹ったのはシアナだった。
手足が動かなくなり、肌は白く濁り、硬質になった。
村人たちは次々にその病に罹っていった。
「私を、あの洞窟に連れて行って」
シアナはすでに動くこともできなかった。
私はシアナをあの暗い洞窟の中に連れて行った。
湖の近くの岩場に横たえて、私は震える手で短剣を構えた。
「私を殺した後に、村のみんなが良くなるようなら、あなたは自決することを許されない。分かりますね」
「……僕が神の代わりに生贄を殺す」
「あなたはこんな私を助けたために、死ぬよりも辛い目にあうのです」
「……シアナ、」
「謝ったら、あなたを許しません」
シアナの紅色の眼光が私を捉えた。
「アオ、バカな子。私の愛しい弟」
私は掟を破ったために、最愛の人を殺すことになった。
村人たちの病は、冗談のように消え去った。
絶対に掟を破ってはいけない。
掟を破れば、大勢の人間が苦しんで死ぬ。
私は神に成り代わり、生贄を殺し続けた。
一人、洞窟の中で、贖罪を求めて。




