Act.7 浮遊大陸上陸
空游竜の群れとの乱戦の後・・・。
「うっま!! コルネは料理の才能もあるんだな! ほら、ドグマさんも食べて!!」
先ほどまでの緊張感は何処へ行ったのやら、エイトたちは遅い朝食を食べていた。
理由は、遅刻のために食事をしていなかった人・・・エイトの腹の虫が鳴ったことだ。
三人は飛竜の背でコルネの手料理を堪能していた。
さながらピクニック気分である。
しかし、ドグマは頑なに食事を口にしようとしなかった。
「・・・ドグマさん、美味しいぜ?」
エイトはおそるおそる、『あーん』のかたちでドグマの口に匙を運ぶ。
それに対し、ドグマは口を開けない。
それを見たコルネは苦笑混じりに言う。
「無理しなくていいよ。私の・・・人間の料理は口に合わないもんね。」
「すまない。気持ちは受け取った。」
ドグマはコルネに一言伝えると、くるりと向きを変える。
背を向けられたエイトは、『あーん』していた料理を自分で食べようとして・・・
「・・・・いただきっ!」
目の前でコルネに奪われた。
コルネは自身が作った料理を至福の表情で咀嚼し、エイトの反応など見てもいない。
実際、エイトは口を開けてとぼけた表情を晒していた。
コルネってこんなキャラだっけ。
心の中で、エイトは密かにコルネを食いしん坊キャラと位置付けたのであった。
数十分後、だらだらとした食事が終わり、やる気を取り戻した三人は再び飛行種庭園に向かっていた。今のところ襲撃はない。
「いやぁ、それにしても食った食ったァ・・・! 手料理は気合いが入るな!!」
エイトは満たされた腹を叩き、頬をゆるませる。
自宅警備員になってからは、母も父も手料理なんて振る舞ってくれなかったのも理由のひとつ。
もうひとつ、理由があるとすれば・・・
「ちょっと、エイトさん。あんまり飲みすぎちゃダメだよ!?」
「・・・だって美味しいもん」
「そ、そういう問題じゃ・・・!!」
・・・エイトが今現在手にしている革の水筒に入っている飲み物だろう。
その名も『子供ビール』。
「エイトよ、我も飲むぞ」
「へいへい。どーぞ。」
ドグマとエイトは雰囲気を楽しみながら、つまみを食べていた。
そんな二人を見てため息をしつつ、前方を見たコルネ。
視界には比較的大きな浮遊大陸である・・・飛行種庭園が豆粒ほどに見えた。
豆粒ほどでも見えるのなら、もう十数分あれば着くだろうか。
考えを巡らせて、その結果、エイトとドグマから酒(子供ビール)とつまみを奪った。
「見て! あれが世界最大級の浮遊大陸。あの大陸で空游竜の亜種が発見されたの。くれぐれも気をつけて。 大陸に近付くにつれて、飛行種のモンスターが襲ってくるようになるから・・・」
コルネは世界の終わりのような表情でつまみを取り返そうとするエイトにでこぴんをかます。
するとエイトは急に詠唱をし始めた。
「ドグマさん協力頼むっ!!! ほっ、焔の祝福に接吻を、木々の叫びに嘲笑を。暴け晒せ燃やせ焼け! 業火業炎の聖霊よ怒れ 嫉妬の華」
「火妖精の加護」
焦るように捲し立てるエイト。それに重ねてドグマの・・・火妖精の加護の付与。
コルネはその行動の意味を、理由を汲み取れずにただ困惑していた。
だが、次の瞬間には理解できた。
二人の狙いがコルネでなくコルネの後方に向けられていたことに気付いたのだ。
『クォォオオ!!』
飛行種・・・一角鷲の短い悲鳴が響いた。
「ありがとう・・・って、えぇ!?」
振り返り、思わず声を上げるコルネを見たエイトは満面の笑みでサムズアップ。
Aランクが適正といわれる一角鷲は燃えていた。
炎をあげてもがき苦しみ・・・墜落。
「いくら何でもオーバーキルでしょぉぉ!?!?」
コルネの叫びはエイトには届かず、代わりに飛行種を呼び寄せる。
二匹の一角鷲と一体の空游竜の子供がやって来た。
エイトはナイフを抜き、構える。
すると、ドグマの忠告が耳に入った。
「空游竜亜種との闘いに備えて、負担の少ない職業適正の言霊メインで闘え!」
そう言いながらもドグマは近接戦闘の準備をしている。
すかさず反論するエイトだったが、
「・・・我は脆弱な人間と違って、適正でなくとも低燃費である。」
と返されてしまっては納得するしかない。
エイトはナイフを逆手に持ち直した。
「空中歩行!」
すっかり慣れた言霊を唱え、宙に舞い上がる。
まず一匹。
一角鷲を狙っての投擲を行った。
手から離れたナイフは精密投擲の補助により、美しい放物線を描いて一角鷲の角へ吸い込まれる。
しかしその一撃は、脅威的な強度の角に弾かれる。
続けて二撃目を投げるが無意味と判断し、エイトはそのまま一角鷲に接近。
残り三メートルというところでエイトはモンスターの意識の外へ・・!
「気配遮断。」
空振りに終わる一角鷲の突きを見ずにエイトはその脚をナイフで深く切りつけた。
同時にエイトの右脇腹が熱に侵される。
「あっぐぁ・・!?」
見れば、脇腹を掠めていたのはもう一匹の一角鷲の角。
熱から這い出るような猛烈な痛みがエイトを襲った。
「いっっっってぇぇ!!!」
涙を堪えたものの声が出た。
絶叫を聞いたのだろう、誰のものかわからないが回復系の言霊の光がエイトを包んだ。
その頃にはエイトは一匹目の羽を切り落とし、二匹目へ報復を!
言霊を使わずとも、その無茶苦茶に突き出されたナイフの刃は空中歩行の効力に助けられ、二匹目の一角鷲に深い傷を負わせる。効果は抜群だ!
「エイトさん! そいつ逃がしちゃった!!ごめんっ」
ふいに聞こえたコルネの謝罪を聞き流し、突き刺さったナイフを蹴り、傷を抉る。
一角鷲は断末魔の叫びをあげ、墜落途中に息絶えた。
いつの間にか治った脇腹の傷・・・があった場所をさすり、エイトはため息をつく。
「いってぇ・・・な・・」
冒険者になって初の負傷に、多少なりともビビっている自分がいた。
だが、それより、・・・・・・
「・・・コルネもドグマも、回復系の言霊なんて覚えてたっけ?」
エイトのささやかな疑問と呟きは、戦闘音にかきけされる。
どうでもいいか、と不安を振り払い、決着のついたコルネとドグマを見る。
移動しながらの戦闘だったため、彼女らとの距離は離れていた。
そして、目の前には浮遊大陸・・・飛行種庭園が。
ついにエイトたちは、目的地に到達したのだった。