Act.6 決め台詞は「ばいばい」
召喚した剣を投げ棄て、ドグマの方を見たエイトは驚愕した。
「あ、あいつ・・・!!!」
先ほどまで散り散りになっていた空游竜たちが、揃いも揃ってドグマに狙いを定めていたのだ。
炎眷族を使用して、空游竜の行動を阻害したのが原因なのだろうか。
ドグマは言霊を重ねて唱えて応戦するが、彼女一人では時間の問題だろう。
実際に、数体の空游竜は防衛を突破し、ドグマに近づいていた。
エイトは叫ぶ。
「コルネ!! 先に行っててくれ!!」
エイトの言葉を聞くと、コルネはそれに従って飛竜を向かわせた。
・・・とたんにコルネも竜の攻撃対象となる。
「防壁!!!!」
コルネは不慣れな支援言霊を唱え、攻撃に備えた。
半透明の壁が、コルネと飛竜の周りに形成された。
コルネの突撃に気付いたのか、ドグマは炎眷族の召喚を中断し、コルネを招く。
・・・しかし、それは竜たちにとってチャンスでしかない。
無防備になったドグマに、竜が押し寄せた。
それを見たドグマは笑っていた。
恐れでも、悲しみでもなく、ただただ楽しそうな笑みを浮かべ・・・
「炎神眷族」
・・・その燃え盛る髪から、巨大な炎の鳥を召喚した。炎眷族の上位互換だろう。
炎の鳥は空游竜めがけて一直線に飛ぶ。
そして、最初の一体に触れると、炎眷族同様に・・いや、それ以上の規模の爆発を起こした。
『クルァアアアアアア!!!』
火の粉に触れた竜からも爆発が起こり、炎は連鎖的に広がっていく。
威力も炎眷族以上で、竜たちは思わず動きを止めた。
エイトは火の粉が消えたのを確認してナイフを構えると、竜の群れに飛び込んだ。
「精密投擲、精密投擲、精密投擲、精密投擲・・・!!!」
エイトは何度も何度もナイフを投擲した。
そのすべてが、言霊の恩恵で狙った箇所・・・翼の付け根に正確に突き刺さっていた。
ナイフがなくなると言霊で召喚、投擲、召喚、投擲・・・と何回も繰り返した。
そのため、コルネの乗る飛竜に到達したときには竜の半数が落下を開始していた。
辛うじて的中は避けた個体も、翼の動きが少しぎこちない。
ナイフの刺さっていない個体でも、さっきの爆発で多少のダメージを負っていた。
「ドグマさん、ナイス!」
「ドグマ・・・ありがとね!」
二人に感謝されたドグマは照れくさそうに頬をかき、そっぽを向く。
少しにやけているのを隠しているつもりだろうが、隠れていなかった。
それを見て微笑ましく思いつつ、コルネは言った。
「じゃ、最後くらい私に活躍させなさいよっ・・!!!」
コルネは笑顔で飛竜から飛び降りた。
「ちょ、ちょちょちょっと待って!? 何してんのコルネ!?!?!?!?!? 死ぬぞ!?」
「そんな心配しないで。 死なないわよっ!!」
心配して叫ぶエイトを落ち着かせ、コルネは早口で詠唱をする。
「凍れ傷め割れ崩れ、女神の抱擁に抗うなかれ・・・氷乙女の涙!!!」
凡人でもわかるほどの力の奔流。
これに巻き込まないために、飛竜から降りたのだとわかった。
青い光が輪を形づくり、コルネの周りを回転している。
空游竜たちはその脅威を本能的に感じとり、コルネに襲いかかった。
先頭の空游竜とコルネの目が合う。
「ばいばい」
その言葉と同時に・・・青い光の輪が水平に拡がり、竜たちに触れた。
すると、先頭の竜に一滴の水がふりそそぎ・・・
次の瞬間には、光にあたった竜は氷像となって砕け散った。
「・・・・・すっげぇ。」
エイトは空游竜が一瞬で消えたのを目の当たりにして、その美しい最期に目を奪われた。
宙を舞う氷の粒がさっきまで竜だったなんて、誰が思うだろうか。
コルネは飛竜を呼ぶ。
飛竜は空中にいたコルネを受け止め、小さく鳴いた。
空游竜の群れは全滅した。
飛竜の背で剣を鞘に仕舞うコルネを見て、エイトは興奮しながら聞く。
「今の言霊、何だよ!? すっげぇじゃん!!」
コルネは笑って言った。
「いやいや、そんなにすごくないよ。 詠唱が必要だし、私の職業の適正言霊でもないし・・・」
「いや、すごいって!!」
「でも・・・範囲が水平に広がってて使いにくいし・・」
「いやいやいや、そこに魅力を感じるって!!」
「・・・・・はぁ?」
エイトは自分の素直な気持ちを伝えただけだが、これ以上はコルネが怒る・・・と判断し、会話を中断する。
すると、さっきまでの戦いが嘘だったように静かになった。
「・・・疲れたけど、まだ空游竜の亜種は見つけてもいないから。エイトさんにはもう少し頑張ってもらうことになるよ?」
申し訳なさそうに言うコルネだが、エイトは迷惑だなんて思っていない。
むしろ、楽しみな気持ちが勝っていた。
「別にいいよ。初めての戦いだったけど、わりと戦えたし。」
エイトの笑顔を見て、その台詞が嘘でないとわかったコルネは笑う。
ずっと無表情 (の、つもり)だったドグマは、少しだけ口の端をつり上げていた。
「・・・我はエイトを同類と判断した。」
「それはないだろぉぉぉ!?!?」
ドグマが告げると、エイトは心底心外そうに叫ぶ。
休憩とばかりに談笑する三人。
三人は出会ったばかりとわからないほどに打ち解け、これからのスケジュールを決めていく。
・・・彼らの様子を、監視している者がいるとも知らずに。