Act.56 目覚めの先に
遅れて申し訳ありません!
忙しくて・・・(汗)
「・・・目が覚めた?」
すっかり聞き慣れた声が聴こえて、私は・・・コルネは目を開いた。
見慣れぬ天井、そしてコルネが今横たわっているベッドのシーツは真新しく、新品特有の香りがする。
声の方向を見れば、そこには椅子に腰掛けたリョクがいて、微笑んでいた。
「・・・リョク」
コルネは思わず掠れた声で名を呟いた。
自分は死んだのだろうか・・・死んだ仲間が目の前にいるのだから、ここは死後の世界なのか。
質素な部屋に一つだけ取り付けられた窓は開いていて、そこから吹き込む柔らかな風が、コルネとリョクの頬を撫でで通り抜ける。カーテンがふわりとなびく。
コルネは起き上がろうとしたが右腕の感覚が無いことに気付き、そこでやっと右腕を喪ったことを思い出す。
同時にエイトの顔が思い浮かび、胸がチクリと痛んだ。
懐かしさと悔しさ、怒りや愛しさ・・・感情がごちゃ混ぜだった。
楽しかった冒険も終わったのか、とため息をついた。
その時ーーー
「うがぁああ!! また負けたぁあ!!!!!!!!」
全く聞いたことのない絶叫が聴こえて、コルネの肩がはねた。
しかしリョクは聞きなれているのか反応を示さず、そっと窓を閉める。
するとそれと同時に部屋の扉が開いた。
そこから入ってきたのはモモとドグマ、そしてルシエラだった。
三人とも穏やかな表情で、そして目覚めたコルネを見て驚くと駆け寄り次々に笑顔になる。
特にモモは初期からは想像もつかないほどの満面の笑みを浮かべ、そのまま部屋の外に駆け出してしまった。おそらくまだここにいない従魔・・・フラウヴィアを呼びに行ったのだろう。
少しすると、三人の足音が聞こえて、まずモモが部屋に入った。
コルネは足音が三人ぶん聞こえたことに違和感を感じて警戒心を強める。
次に入ってきたのはフラウヴィア。
・・・フラウヴィアのはずだ。
目の前で立ち止まったフラウヴィア(?)はベリーショートの濃紺の髪、前髪で片眼を隠し、頭部から竜の角を生やした美女だった。
オーラからフラウヴィアだろうと思ったが・・・まさかこんな姿になれるとは。
「元気か、人間よ」
フラウヴィアは仏頂面で告げて、しゃがみこんだ。
死んだのに元気もなにもないじゃないか、と思ったが口には出さなかった。
そしてフラウヴィアの背後に、『彼』が現れた。
「コルネ・・・起きたか」
その声を聞いたとたん頭が真っ白になり、気付けばコルネは愛剣で斬りかかっていた。
とても久しぶりに思える、優しい『彼』の声に、しかし冷徹で残酷な『彼』の片鱗を見て。
仲間を殺したその人物が、憎くて仕方がなかった。
『彼』は利き腕を失ったコルネの攻撃を余裕で目で追い、それなのにその刃が自らに迫り身体に食い込んでも、守ったり、ましてや反撃なんてことはしなかった。
驚くコルネに、攻撃を受けた『彼』・・・エイトは、腹部に突き刺さった剣を抜くことなく、そのままにコルネを抱き締めた。
そのせいで剣はエイトの体に深く埋まっていくが、それでもコルネを抱き締める。
「・・・何も言えなくて、ごめん」
エイトは抑揚のあまりない声でそう言うと、コルネを解放した。
へたりこむコルネをフラウヴィアが支え、エイトは剣を抜くとあっという間に傷を完治させた。
シンと静まる部屋。
突然、その静寂を破る透き通った声がした。
「エイト、ちょっとコルネと二人きりにさせてくれませんか?俺が説明するから・・・」
声の主はリョクで、彼は申し訳なさそうに眉尻を下げた。
するとエイトはとても名残惜しそうにコルネを見てから、「どーぞ」と不貞腐れたような感じで言って、部屋を後にした。
それに続いてモモたちも立ち去り、最後にコルネを支えていたフラウヴィアがコルネをベッドに座らせてから居なくなり、ようやくリョクの望んだ状態になった。
リョクは一拍おいて口を開いた。
「もしかしたら死んでるとかって勘違いしてるかも知れませんが、ここにいる全員は生きています。」
それを聞いたコルネはまず耳を疑い、すぐに反応することができない。
硬直したコルネは頭をフル回転させて考えたが、やはり「死んだ」という結果しか想像できず、さらに混乱の度合いが増した。
リョクはコルネが考えるのを諦めるまで待ち、それから続ける。
「覚えているかはわかりませんが、エイトは《奪取の使徒》です。あの狂った男・・・ホーリーと同じ使徒、ですが、エイトは《奪う》ことに特化した使徒なんです。」
「う、うん・・・」
コルネは返事をしたが、いまいちわからなかった。
しかしそんなことを知らないリョクは話を進めていく。
「コルネは俺たちの反応が感じられなくなって、だから死んだと思った・・・その筈です。 でも、俺たちは全員、コルネから《奪取》されただけだったんです。
・・・つまり、今の俺たちは、エイトの従魔なんです。だから、主従の繋がりの切れた俺たちの存在を感知することができず、あなたは俺たちが死んだと思ったんです。」
少し早口で告げられた言葉に、コルネは息を飲む。
たしかに・・・それなら今の状況も頷ける。
コルネは小さく頷くと、リョクに問う。
「じゃあ・・・みんなはもう、私の従魔には戻れないの?」
不安を隠しきれずに聞いたコルネに、リョクは首を横に振ることで答えた。
そのとたんコルネの表情が明るくなり、リョクも笑顔になる。
しばらく二人は談笑した。
そして、話の最中に、急にリョクが切り出した。
「コルネは・・・えっと、エイトのこと、どう思いますか?」
「えっ?」
あまりにも突然過ぎる問い掛けに、コルネは言葉に迷う。
改めて考えてみれば、私にとってエイトはどんな存在だったか・・・とても言いにくく感じる。
黙りこむコルネを見ても、リョクはひかなかった。
「俺は正直、出会った当初も言ったと思いますが、エイトが好きです。モモも同じ気持ちだって言っていましたよ。」
その言葉に、コルネは一瞬恥ずかしくなったあと、ふと首を傾げた。
今も人化しているが、リョクに胸なんてないし声も低めだし喉仏もあるし・・・これじゃあホm
「・・・人化したら男ですけど、パラライズスパイダーには本来性別なんてないんですから、ホモとか言ったら殴りますよ?」
途中まで考えたが、そこで勘の鋭いリョクが笑顔で告げる。
コルネは背中を冷たい汗が伝うのを感じながら、口から出かけた言葉を呑み込んだ。
しかしリョクはすぐに真顔になると、もう一度問う。
「・・・で、コルネはエイトのこと・・・「もう話は終わったのだろう、人間」
リョクの声に被せるように、感情を感じさせない声がして、リョクの声は掻き消された。
いつの間にか部屋の扉は開いていて、そこから顔を覗かせるのはフラウヴィア。
フラウヴィアは竜に戻っていたが・・・大型犬サイズを選んだようだ。
身を乗り出して質問していたリョクは自らの状態を知ると「こほん」とわざとらしく咳払いをして、それから「じゃあ、また話しましょうね、続きを。」と言い残して部屋から出ていった。
「人間、大丈夫か?」
フラウヴィアが心配そうに問いかけるが、コルネは無言でフラウヴィアの頭を撫でる。
犬とは違い硬い鱗の感触が手のひらに伝わり、その上品な艶を持つ鱗に魅入った。
「これからよろしくね」とコルネが言えば、フラウヴィアは恥ずかしそうに小さく哭いた。
・・・
フラウヴィアと共に部屋を出ると、いくつかの扉と階下へ続く階段が見えた。
フラウヴィアに先導されて階段を下ると、階段は歩く場所によってたまに軋み、灯りも少ないため少しホラーテイストだった。
下り終わるとそこは明るくて、仲間が全員揃っていた。
大きなテーブルをぐるりと囲むようにして、エイトたちが座っている。
テーブルに並べられた料理は簡単に作れるようなものだったが、話している間に急いで作ったのか、湯気がたっていた。どれも美味しそうだった。
「ここは俺の家だよ。両親は出稼ぎに行ってるから、数ヶ月留守にするって。その間に目覚めなかったらどうしようかと思ったけど・・・元気そうでよかった」
エイトが笑顔で告げると、コルネはモモに引っ張られてエイトの隣に座らされた。
先程のリョクとのやりとりを思い出してコルネの頬が熱くなったが、エイトに気付いた様子はないので安心した。そのままエイトは続けた。
「全員の生還を祝して、かんぱーい!」
からん、とガラスのコップがぶつかり合う音と氷の音が響き、パーティーが始まった。
夜が更けてもパーティーは続き、しかし目覚めたばかりのコルネが眠そうにしている様子に気付いたルシエラによってパーティーは幕を下ろした。
「これから俺は旅に出る。使徒から逃げる・・・というよりは、使徒の目的を果たさせないために邪魔をするって言った方が正しいかな。」
寝ぼけ眼のコルネに、エイトが言った。
「今まで通りに暮らすことはできないけど・・・コルネはどうしたい?」
ニヤリと何かを企むような表情で、エイトが問いかけた。
コルネは目を擦ると、エイトに抱きつきながら言った。
「私も・・・行く。みんなと・・・一緒に・・・ずっと・・・・・・」
言葉を切ったコルネの顔をエイトが覗き込むと、コルネは穏やかな寝息をたてて寝ていた。
エイトは優しく微笑んで、「おやすみ」と呟いた。
これで一旦終わりとなります。
これからは「幼女転生」をメインとします。
「world of nameless」は一応1話だけ投稿してありますが、忘れないように・・・という保険のための投稿だったので、改めて改稿版を投稿します。
その際に話の流れが多少変わったりすると思いますが、ご了承ください。
投稿まで少し時間がかかると思いますが、「異世界ニート」と「world of nameless(略してワルセカ)」、「幼女転生」をよろしくお願いします!