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55/56

Act.55 始まり


 使徒になって初めて神を殺した。

その翌日、『先輩』にあたる使徒が迎えに来た。


 「こんにちは、君が新人でしょうか?」


 彼女は丁寧な口調で、見た目も中身も子供である(·)(·)(·)を馬鹿にしたような態度をとるわけでもなく、荒んだエイトの心は落ち着いていった。

目の前に人間が現れたときはどうしようかと思ったが、口調やオーラから同族であることがわかって、心細さを感じていたぶん、彼女はエイトの心の拠り所となる。


 「そう・・・。僕・・・俺に与えられた名は、シーカー・エイト。」


 「そうなんですね、私は《魔従の使徒》。与えられた名は、リー・***。君はまだ、何の使徒かの命名は行っていないようですね。」


 エイトがぽそりと返事を返せば、彼女は・・・リーはすぐに笑顔で返した。

久しぶりの対等な相手に、エイトは知らず知らずのうちに笑顔になっていた。

使徒の命名、というのが何を指しているのかはわからなかったが、リーは優しく教えてくれる。


 「使徒になった者のもとには、先達者である使徒が迎えにあがります。使徒を探す使徒が見つかってからは、そういう仕組みになりました。 シーカーの場合は私が命名を行います。 ・・・君の能力はどんなものですか?」


 リーは早口になりながらも、笑顔で質問してきた。

それに対して答えようとするが。


 「えっと・・・」


 エイトの語彙力では説明しきれず、黙りこむ。


 するとリーは目の前で《使徒化》を行って自らの力を見せた。

リーはエイトの目の前に明らかに何かの上位種である魔物を召喚し、服従させた・・・名前の通り、彼女は魔物を司る能力を持っているらしい。


 エイトはそれにならい、《使徒化》した。

黒くなった肌は不完全で、リーのように全身を覆うことはできなかった。

しかしリーはその様子を真剣に見つめ、それのせいで幾ばくかの緊張感を抱きながら、エイトは自らの能力で奪った神を顕現させた。


 その頃はまだ白蛇しか従えていなかったが、それだけでリーはエイトの能力を判断した。恐ろしい観察眼だ。神の姿と力を奪った・・・彼女はそれを理解して、名付けた。


 「・・・君に似合うのは《奪取の使徒》の名ですね。」


 「奪取・・・」


 エイトは与えられた名を復唱した。

自らの臀部から生えている白蛇はエイトに頬擦りをし、まるで長い間付き添ってきた相棒のよう。エイトの一部となった白蛇(かみさま)は力こそそのままだが、最早エイトの道具である。


 存在を奪われれば、嫌でも従う。

嫌という感情さえも奪われて、忠誠心の塊になる・・・。


 エイトは甘えている白蛇の喉元を撫でて笑顔を見せた。

幼さの残る可愛らしい笑顔と大蛇の組み合わせには違和感が拭いきれなかったが、そのような光景に見慣れているリーは微笑んで見守った。







 「只今帰還しました、リーです。新人・・・シーカーを迎えに行っていました。」


 リーのその一言で大樹の幹が割れて、道が開いた。

それは使徒のみしか入ることを許されない場所、《神知らずの大樹》の中に造られた使徒の住居スペースであり会議の場であり親睦を深める場である。

 初めてその場所に入るエイト・・・シーカーは困惑しつつも胸を高鳴らせて、その穴に足を踏み入れた。



 率直に感想を告げれば、『美しい』。

樹の幹の躍動感を感じさせるでこぼこの壁に、誰かの能力で作ったと思われる木の机や椅子。火は厳禁・・・かと思いきや《神知らずの大樹》は特殊なのか、照明は火の灯された燭台だった。


 「今回のはうちと同じくらいなのね、よろしく。」


 ぼーっと周囲を見回していると正面に座っている少女から声をかけられた。

豪奢なドレスを身にまとった、シーカーと同年代の少女。

見るからに身分の違うその少女に、シーカーはぎこちなくお辞儀した。


 「よろしく。ぼ、・・・俺は《奪取の使徒》シーカー・エイトだ」


 シーカーが少女に自己紹介をすれば、それが終わったとたんに隠れていた使徒たちから歓迎された。

わざわざ演出のためだけに言霊を使ったり、一部の使徒が歌い出したり、まるで仲の良い大家族。


 殺してしまった家族を思い出したシーカーは目に少しだけ涙が浮かぶのを感じたが、知らないフリをして使徒たちの自己主張の激しすぎる紹介を聞き続けた。

《再生の使徒》やら《調和の使徒》やら、強そうな者から一見弱そうに見える幼子まで、種族も様々で・・・とても個性的な使徒たちの仲間に、その日、シーカーはなった。




・・・




 平和で賑やかで楽しい日々が始まった。

貴族のメンバーも多く、暮らしは豊かで自由で、力があるため数人の《英雄》と呼ばれるような存在も輩出していて、本当に何不自由なかった。


 でも、その活動は常軌を逸脱していて、初期はシーカーは参加せず、見守っていた。

社会の裏で、少しずつ『変えていく』。

神に叛き、国を、街を『変えていく』。

 子供だったシーカーには、それは少し怖かった。

でも、同年代の少女・・・パステルに馬鹿にされるのは嫌だったし、中枢メンバーであるホーリーは中性的な見た目だが男で、服を着替えればただのイケメン。シーカーもそこそこ美形だが、だからこそホーリーには負けたくないという思いがあった。


 そんなこんなで、数ヵ月後。


 シーカーは今までにない成長速度と冷徹さで、瞬く間に地位を上げた。

はじめの頃は年相応の無邪気さを持っていたが、次第に無表情になった。







 「君は・・・変わったね・・・」


 ある夜、《神知らずの大樹》の頂上で、リーが言った。

笑わなくなったシーカーとずっと一緒にいた、綺麗な少女。

シーカーより少し年上で、年相応の精神で、シーカーよりも遥かに弱く、地位も下。

それでも必死にシーカーについていって、誰よりもシーカーを理解している彼女は、変わってしまったシーカーと初めて二人きりになったその時に告白した。


 「ねぇ、シーカーはこんなことしていて楽しいの?」


 シーカーはその言葉の意味をうまく飲み込めなくて、首を傾げた。

振り向けばリーは泣いていて、シーカーは慌てて目線を外した。


 「私と逃げよ? 一緒に、どこまでも」


 リーは初めの姿からは想像できないくらい弱々しく、そして悲しそうな声で呟いた。

それに対して、シーカーは。

シーカーは何も言えずに俯いた。

それはいつかの再現で、沈黙は長かった。


 暫く沈黙していると、


 「・・・忘れて、シーカー。何でもないよ。聞かなかったことにして」


 とリーは言い、そのまま立ち上がった。


 シーカーはそれを止められず、しかし忘れることなどできず、座り込んで、眩い星空から目を背けるように俯き続けた。

リーは大切な存在で、でも、この居場所も大切で。


 「選べないよ・・・」


 シーカーは目を瞑って、囁くように言った。

それは風の音に掻き消されるくらいの声で、誰にも聞こえない声。


 「でも、いつか・・・」


 いつか、応えられたなら。





 シーカーはそう思った。

でも、ホーリーを殺して、それでも咎められず、そのまま死ぬまで、《神知らずの大樹》に住み続けた。


 泣いた少女のことを思えど、あの夜のことなんて嘘かのような彼女の態度に戸惑って、任務中の感情の切り換えで混乱していって、リーの泣き顔が夢にも出て・・・。

リーは、シーカーより早く、あまりにも短い人生を終えた。

任務中に、シーカーが目を離した隙に、死んだ。






 「守れなかった」






・・・




 「えっ、シーカー!?」


 「シーカぁ!!! ふざけないでよぉ!?!?」


 「ぐぅ・・・」



 吹き飛ばされた三人の使徒はそれぞれ声を上げながら、危なげなく着地する。

 パステルは幼女に戻り・・・そのまま《ミニマム》の固有言霊を唱えて小指ほどのサイズに小さくなる。不釣り合いな巨大な斧を手に持って、臨戦体勢になっていた。

彼女はそれと同時に身体を黒く変色させ、使徒の姿になる。

 ホーリーは一瞬のうちに使徒の姿になり翼を広げるとシーカーを睨む。

 ルックは使徒の姿になる速度が遅く、攻撃も受けきれていないようだったが着地している。

そして新たに生やした四本の腕と本来の腕を加えた六本の腕を忙しなく動かして罠を作る。


 奇襲にも関わらずほとんどダメージを与えられなかった。

・・・にも関わらず、シーカーはコルネを抱えたままで走り出した。


 「お前らの戯言には付き合いきれない」


 そう呟いて、最後に圧し殺した声で唱えた。


 「《奪取の使徒の名において》」


 自身も使徒の姿に変わりながら、だんだんと上昇していく(ステータス)を感じながらもコルネを傷つけないように優しく抱く。そのまま走り、一応、腕を回収してから出口に向かって走り続ける。


 「《周辺の使徒の機動力を奪取》」


 詠唱を終えるとシーカーの脚が軽くなる。

ぐんぐん加速する。

使徒たちの速度は下がっていく。

後方に控える使徒たちが離れていく。


 今回は神殿の道を全部辿る必要もないので走り続けた。

穴にはまって神殿に落ちないように気を付けながら、空游竜の巣窟を走り抜けていった。

襲いかかる空游竜は首を落とし、もしくは振り切り、駆け抜ける。


 身軽になった今なら逃げ切れる。


 シーカーは。エイトは。

シーカーの頃から思い続けていた。

使徒の正当性。

新しい世界の意味。

エイトは目覚めてから思っていた。

反逆の理由。

新しい世界の意味。



 ・・・逃げよう。使徒という役割から。



 エイトは腕の中で眠っているコルネをしっかりと抱き締める。

逃げなければいけない。思い出させてはいけない。


 固有言霊《上位種交友》

固有言霊は使徒の証。

コルネは、使徒だ。

そして、俺はコルネと同じ固有言霊を持っていた使徒を知っている。

 だから、逃げなきゃいけない。

ここから、始まりますっ!

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