表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/56

Act.54 深緑の記憶

リョク目線&続き  かと。


 「・・・コルネか」


 コルネの頬に触れたエイトが優しげな声音で呟いた。

その瞬間、俺・・・リョクは思わず安堵のため息をついた。

俺に抱きつくようにしているモモも、恐怖から起きていた体の強張りが少しとけたようだった。


 しかしそんな時間もすぐに終わる。

いつの間にかエイトは武器を構え、コルネから離れていたのだ。

 唐突に放たれた強い殺気は明らかに自分とモモに向いていて、俺は思わずモモを抱き締める腕の力が強くなる。警戒していると、エイトがこっちに向かって駆け出した。


 「ちょっとぉ!? シーカぁー止まれって!!! 殺んのはその大喰らいからって言ったよぉ!!!」


 「五月蝿いぞモーラン、・・・こいつだけ殺さない。わかったか」


 「一応僕がリーダーだよぉ!?!?」


 どうやら揉めているらしいが、エイトの足は止まらない。

俺はなんとか横に跳ぶことができたが、それでも浅く傷を負ってしまった。

エイトの眼は相変わらず自分たちを捉えていて、逃がすつもりなんてないらしい。

 そして、自分の武器じゃ近接戦闘には向かないと考えた俺はモモからフェアリーランスを奪い取って、左手で構える。右腕はモモを抱えているのでふさがっていた。

再び襲いかかる嵐のような攻撃を必死にかわしながら、俺はエイトに向かって叫んだ。


 「覚えてたんじゃねーんですか!?」


 しかしその叫びと同時に尾の竜が襲いかかり、それ以上の発言を許さない。

覚えているのなら躊躇いそうなのに・・・かわすのもやっとの攻撃が続いた。




 そう、それは()()()()()()()()()()()




 俺は思わず首を傾げそうになった。

圧倒的な力量差を感じていたのに、どうしてモモを抱えた俺でもかわせる攻撃をするのか。

そう考えたときに、不意にモモの重さが腕の中から消失した。

一瞬敵の攻撃かと身構えるが・・・コルネが送還したのだろうと思いとどまる。


 俺は、モモがいないぶん身軽に、そして利き手も自由になった。

それなのに、エイトの攻撃は()()()()()()()()で、先ほどまでの状況から全く好転していない。



 もしかしたら、遊ばれているのかも知れないと思った。

でもエイトの表情に余裕はなく、その力の加減を少し間違えれば俺を殺すだろう。


 ーーーーーエイトは敵じゃない。


 リョクはそれを確信に変えるために、自ら動きを遅くして攻撃を待った。

するとエイトから繰り出された攻撃はもとから肌を掠めるような攻撃で、それを俺が受けると同時にエイトの表情が晴れた。

 この一瞬、確かにエイトとリョクは互いを理解した。

しかしエイトはそれを表に出しはしなかった。


 刹那、エイトの体が掻き消える。

まさかモーランにバレたのか・・・と心配したが、それも意味はなかった。


 エイトはコルネを守るように立っていて、状況からモーランがコルネを攻撃したのだろう。

俺は一応戦っていた体でいなければならないので、エイトを警戒しているかのように形だけの攻撃準備を整え、彼がどう動くかと観察した。

会話も何も聞き取れないが、エイトの怒りは感じられた。



 そう思って「やっぱりエイトだ」と安心したとき、エイトの尾の竜が影に沈んでいったのが見えた。

すると、目の前に・・・自分の影から顔を覗かせている尾の竜と目が合う。

一瞬叫びそうになったが、なんとか抑え込んだ。

 竜は何か囁いていて、俺にだけ聞こえるようにと配慮しているかのようだった。

俺はコルネとモーランが見ていないことを確認すると、そっと竜に耳を寄せる。


 『奪*の使徒***おいて』


 竜は宝石のように煌めく瞳で俺を見詰めながら言った。

そして、その言葉はまだ続く。


 『******を奪取*る』


 途切れて聞こえる言葉の意味をはかりかねているリョクの体に、急に大きな負荷が加わった。

同時にコルネとの繋がりが消え、新たにエイトの気配が強く感じられるように変わる。

・・・おそらく、



 そこまで考えたときに体が倒れた。

思考も停止し、ゆっくりと眠りにつくように意識を失っていく。

歪んだ視界の中で、エイトの尾の竜が笑うような表情のままゆらゆらと影に隠れていく。

俺は思わず舌打ちをしそうになった。





・・・





 「これから世界を正していこうねぇ」


 モーランは、すべてのコルネの従魔を消し終えたエイトに話しかけた。

エイトは血の一滴も被っておらず、流してもいない・・・全くの無傷である。


 「知らない間に《存在の奪取》の方法も思い出しちゃって・・・さすがシーカー」


 エイトの返答も待たずにモーランは・・・ホーリーは続けた。

答えようと口を開きかけていたエイトは間が悪そうに顔を逸らして、そのままコルネの容態を確認した。

自分の言霊を信用していないわけではないが、治癒は管轄外であるから仕方ない。


 着々と回復していっているコルネの傷だが、エイトの表情は晴れなかった。

まさか、止めたにも関わらず攻撃してしまうとは・・・思っていなかったから。


 コルネの腕は繋がらない。

ホーリーが手伝えば可能性はあったが、アイツにとってはコルネなんて敵でしかない。ホーリーでなくてもモモがいれば繋がっただろうが、手を下した直後だ。()()()()()はできない。


 「シーカー、まだ怒ってるぅ?」


 エイトの顔を覗き込んで、ホーリーが不安そうに問う。

エイトは返答の代わりに一睨みして、それから話を変えた。


 「・・・どうせここに呼んだ《空游竜(スカイドラゴン)の変異種の調査・討伐》とかっていう感じの依頼もお前がやったんだろ。変異種ってのもお前が用意して・・・良かったな、筋書き通りで」


 皮肉を交え、エイトは憎々しげに吐き捨てる。


 それを見たホーリーはため息をつくと「こりゃだめだ」とでもいうように手をあげる。

怒ったエイト・・・いや、シーカーに、前世で殺された記憶を持つホーリーには、これ以上は何も言えなかった。

確かにホーリーの非であるのだから。

面白がって攻撃したのだが、まさかこんなに怒るなんて予想していなかったのだ。


 「こっち見んな」


 話しかければ無視、見れば怒られる。

ホーリーはおもしろくなさそうに「ちぇ」と言うと、身体をゆっくりと人間に戻しながらシーカーに背を向けた。


 エイトがシーカーだった頃・・・つまり前世では、ホーリーは密かにシーカーに想いを寄せていた。

その相手に現世で大切な人がいるなんて、おもしろくない。

そいつが美人で如何にもシーカーの好みなのだから、尚更だった。


 「まぁ、別に今は違うけどねぇ」


 ホーリーは何かに言い訳でもするように、ぼそりと呟いた。

そんな言葉はシーカーには届かない・・・。


 「シーカー、もうそろそろ三人目来ると思うよぉ。従魔に行かせたから・・・」


 誤魔化すように報告を告げる。

するとそれとほぼ同時に輝く陣が現れた。

それはエイトを連れ去ったものと同じようなもので、転移の言霊が込められているとわかる。

そしてそこから現れた人影は・・・空游竜(スカイドラゴン)に乗った幼女と老人だった。


 「あっれぇ、何で二人も来たの??」


 幼女と老人を見て首を傾げるホーリー。

すると老人が一歩前に出た。


 「やはり・・・儂は本来呼ばれる筈ではなかったじゃろうな、ホーリー殿。」


 老人は真っ直ぐな腰を折り、丁寧で洗練されたお辞儀をした。

白髪頭はオールバックで、一見するとどこかの貴族に雇われている執事のような印象があった。

しかし老人の着ている服はお世辞にも綺麗とは言えないボロ。ひょろりとした身体には筋肉も無く、貧農の農業を引退したお爺さん・・・のような見た目である。


 この弱そうな老人が使徒なのだろうか、とホーリーもシーカーも目を細めた。

すると好好爺は不気味な動きで頭を上げながら言った。


 「儂は歳をくっているじゃろう、目覚めたのは数年前じゃが・・・罠を仕掛けて動物や魔物を捕らえたり殺したりするのが生業じゃった。そのまんま《罠の使徒》カカルクル・ルックじゃ。」


 「・・・ルックの兄ちゃんかぁ? 随分と老けたなぁ」


 ルックの紹介に、ホーリーは懐かしそうに目を細める。

二人は近接戦闘を善しとしない使徒だったので仲が良かったなぁ、とシーカーは思い出す。

斥候職であるシーカーは、ルックの罠の扱いには一目おいていた。

頭を下げて「お久しぶりです」と告げれば、ルックは笑いながら「堅いのぅ」と言った。

 次々と思い出される使徒として生きていた頃の記憶に困惑しながら、シーカーは受け入れていく。


 その脇で、幼女が高い空游竜の背から飛び降りた。

普通なら死ぬか大怪我・・・というような高さを、その幼女は軽々と飛び降りた。

幼女はその場に居るのが《調和》《奪取》(と、その女)《罠》だけだと確認して言った。


 「罠のお爺ちゃん、予想通りだけど、やっぱり《傀儡》君はいないんだねー」


 幼女は身にまとったフリフリのワンピースを翻し、眼鏡をかけ直すとルックに向かって言った。

二人は現世でもとから知り合いだったのか、ルックはまるで孫でも見るような目付きだった。


 「うちは現世でもヴィット家の令嬢ですの。ヴィット・パステル・・・わかった?」


 どうにも偉そうな態度が気になるが、彼女は前世でも現世でも令嬢なので仕方がない。

ホーリーは元々パステルを呼ぶつもりだったらしく、パステルを見てニコニコ笑う。

シーカーの記憶によればパステルは十八歳くらいで年齢も近かった筈だが・・・やはり目覚めるタイミングは多少ズレが生じているらしい、ルックもパステルもホーリーも、年齢に変動が見られた。


 「パステルちゃん、どこまで目覚めたの?」


 甘やかすような声で、ホーリーが訊ねる。

パステルはそれを待ってました、とでもいうように胸をはって高らかに言った。


 「聞いて驚きなさいっ! うちは目覚めて三日なのに《ミニマム》まで全てをマスターしたわっ」


 編み込んだ明るい茶髪を揺らし、自身の成長を自慢気に話す。

そういうところは変わっていないな、とシーカーはクスリと笑った。


 「シーカー!!挨拶くらいしなさいよ、この《成長の使徒》パステルが復活したのよ?」


 笑ったシーカーに、パステルが頬を膨らませて近寄る。

その台詞の最中にも彼女は形を変えていった。

幼女の身長が伸び、髪も伸びていき、そのまま胸も成長し・・・・・・シーカーの目の前にたどり着いた頃には、彼女は十八歳の美女に変貌を遂げていた。

服装は幼女の頃と変わらないので・・・丈の短すぎるワンピースに生足、そしてサンダルは脱ぎ捨てているので裸足。極めつけは幼女の姿では必要がなかったとある下着がない。

 シーカーはその姿から目を背けて小さな声で挨拶した。


 「・・・久しぶりだな、パステル。」


 「それでよし!!」


 エイトの挨拶に満足したのか、パステルは笑顔になる。

しかしシーカーは顔を険しくしていった。


 そして、


 「ごめん」


 シーカーが誰にという訳もなく謝り・・・その場にいた使徒全員を吹き飛ばした。

もうすぐ終わりかな。

終わりが近付いてまいりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ