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異世界ニートが仕事を始めた ~シーフでチートな初仕事~  作者: 榛名白兎
第三章 空游竜の巣窟
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Act.48 洗脳の色

戦闘が長く続きそうです。

今回は余裕をもって書けました。


 「・・・はぁっ」


 氷の道を駆け抜け、全力で叩き込んだ突きは、想像だにしなかったほどに軽やかだった。

剣先は吸い込まれるように鱗の隙間をぬい、深々と突き刺さる。

 コルネは抉るようにして剣を抜く。切り開かれた肉は石榴のように赤いが、しかし血飛沫はあがらない。

 剣の固有能力によって傷口は凍りつき、じわじわと竜の体温を奪うのだ。


 そして、自らのつけた傷には目もくれず、コルネは後退する。

するとそのタイミングを狙ったかのように放たれた、もはや光線と化したフレイムランス。

炎の妖精であるドグマから放たれたそれは小規模な水蒸気爆発を引き起こしながら穴を穿ち、消える。


 せめてもの反撃として撃たれた雷の矢は、コルネの手の内に集束して呑まれた。

最後に散った桃色の光は気づかれることなく少女に染み込んでいく。


 「雷はいくら使っても無駄だよ・・・!!」


 コルネのその声に、竜は応えない。

そもそもコルネは返事を待つことなく突撃していたので、返事の意味など無いのだが。




 コルネの剣が火花を散らして、それから一際大きな音をたてて弾かれた。

剣を振り下ろされた黒嵐竜はというと、身体中に裂傷を刻みながらも楽しそうだ。

 何故だかとても苛立たしい。

コルネは急に沸き立ったその感情に違和感を感じない。

そしてそのまま感情のままに振るった二撃目は初撃同様弾かれる。

にも関わらず、コルネは何度も何度も同じように愛剣を振り下ろした。


 竜はその間にも他の箇所を着々と回復させている。

これ以上やっても無駄だ、そんなことは頭では理解していたが、体に伝わらない。

金髪の少女は、()()()()()()()()()()()


 (この鱗を狙わなきゃ この鱗をーーー)



 そうして必死に突きを繰り返す。

端から見れば異常な光景で、それを見た仲間はもちろんそれを止めに行った。


 「コルネ、そんなことをしている場合じゃ・・・!!!」


 コルネがおもむろに、無警戒に、そして戦場だということを忘れたようにゆっくり振り向くと、そこには見慣れた赤い馬の尻尾・・・ポニーテールが揺れていた。

そしてそれを目にしたコルネは一言。


 「邪魔くさ」


 驚くドグマを後目に、彼女に向かって大きな氷塊を飛ばす。

()()()に思えて、思わず・・・それは限りなく無意識に近かった。

 それゆえに、その塊は、初動が掴めぬほど自然に、ドグマに向かって投擲された。

殺気もないため警戒が足りなかったドグマは、弱点である氷の、それも車一台ほどの塊をもろにくらう。同時に、その氷塊にまとわれた桃色の言霊を一身に浴びる。


 「う・・・・・・ぐぅ・・・」


 立つことも辛くなり、片膝をつくドグマ。

するとさすがに後方にいたモモとリョクも気付き、一瞬のうちに主人であるはずのコルネは蜘蛛の糸で簀巻きにされた。叫ぶリョク。


 「ドグマっ!? 大丈夫ですか!?!?」


 「・・・無論、心配には、・・・及ばぬな・・・」


 間を開けずに返ってくる返答。

明らかに無理をしていたが、それよりコルネだ。


 コルネは何故自分が拘束されたか、微塵も理解できていなかった。

戦っていたのに、何故。頑張っていたのに、何故。

尽きることなく溢れる怒り、焦燥、苛立ち。

 コルネは自らを縛る糸を力業で脱出しようと試みて体に力を込めた。

 結果として、力は足りていたらしい。

糸は許容をこえる『暴食』の力を加えられた挙げ句に、少しずつ千切られていった。


 そして、ただ力があっただけの、そこそこ頑丈だが常識の範囲に留まる丈夫さの少女はというと・・・・・・想像に容易いことだが、その体にいくつもの糸を食い込ませ、糸を紅い液体が伝う。

それを見た瞬間絶叫をあげるようにして「や、やめてくださいっっっ!!!!」と言ったリョクだが、制止がきくはずもなくコルネは傷ついていく。


 すると突然、ルシエラが竜の姿のままリョクを襲った。



 「か・・・はっ」



 同じ上位種からの奇襲。

いくらリョクであっても、未だ人型で体重の軽い状態なので、その体は吹き飛ぶ。

同時に操っていた糸もほどけて、コルネは自由を取り戻した。


 「兄さんっ!!!」


 駆け出すモモ。広間の奥、遥か遠くに轟音が響き、視界に赤がうつる。

モモは急いで治癒の言霊を駆使して、そのままリョクのもとへ走る。

 その背に、半狂乱の叫び声が聞こえた。


 「黒嵐竜にやらレた精神汚染の、ァアあ、言霊ガ原因でアるハズ、 モモ、あぁアああぁぁァあ!!!  触れ  直せ、ツ・・・     あぁあああぁぁっあぁあぁあぁあああっっっ!?!?」



 ドグマの、声。

同時に四方八方に向けて放たれる火球。

モモはドグマの絶叫を聞いてすっかり萎縮してしまった。

 その間にも黒嵐竜は傷を治していっているというのに、対応できない。


 まず、リョクの安否だけでも確認したい。

モモはその一心でリョクのもとまで走り、たどり着く。



 うずくまるリョクと視線が交わり、ほっとした。

様子がおかしいわけでもないし、彼の体に淡い桃色の光は見られなかった。

しかし強がって立ち上がってみせたリョクはすぐに膝から崩れ、血の塊を吐く。

慌てて駆け寄るモモに、リョクは言う。


 「大丈夫です。 モモは回復系言霊とか得意でしょう、俺より先に、精神汚染を・・・」


 ーーー早く対応しなければ、後遺症が残るかも知れないーーー


 リョクの言葉にならなかった思考を読みとったモモは、重々しく頷く。

まだ後ろ髪を引かれる思いだったが、コルネたちが心配なのも同じだから。

地を蹴れば、余裕の表情で笑う黒嵐竜がこちらを見ていた。


 仕返しをしたい衝動に駈られるが、今は仲間が、コルネが、ドグマが、ルシエラが優先。

そう思ってまず一番厄介そうなルシエラを目指す。

すると予想されていたのか、ルシエラは異常なほどの反応速度でモモの操る植物を避ける。ときには姿を人型に変えたりして攻撃を避け続ける。

 およそルシエラの本気といわれるものを見ていなかったのだから、意外なことこの上ないが、このサンドゴーレム擬きは黒嵐竜よりも守りにおいては優秀だと感じた。

 なんたって、黒嵐竜を苦しませたモモの槍を・・・


 『よぉわいぃっすねえええええええええええええええ!!!!????』


 そんな正気とは思えない声を広間に響かせながら、素手で掴んだ。

あろうことか、彼が掴んだのは刃の部分。

モモは畏れを抱きながら、しかしこの至近距離にいる状況こそ好機とみて、槍を捨てた。


 槍を掴んだまま呆気にとられるルシエラ。

モモはそんな彼にラリアットを食らわせながら言霊を行使する。


 生まれし光は主張の強い黄色。

それは瞬く間にルシエラを包み込むと桃色の妖しげな光を打ち消した。

同時にルシエラは意識を手離し、そのままドサリとモモにもたれ掛かる。

モモはそんなルシエラを優しく地面に横たわらせてから言霊で守護すると、立ち上がった。


 「次 コルネ」


 あっという間に一人目を治してみせたモモは槍を拾うとそのままコルネを探す。


・・・しかし、なかなか視界に入らない。


 訝しげに眉をひそめる。

耳を澄ます。

雨の音で聞こえない。


 そこで唐突に、違和感に気付いた。

嵐だったのに、雷が見当たらない。

一瞬光るのはわかるのだが・・・どうしても見ることはできなかった。

心当たりといえば、ひとつしかなかった。


 そして答えは、自らやってくる。



 「おぉいしィいいいいイイイい!!!!!」


 声に驚き振り向けば、モモのすぐ目の前に半透明の刃が迫っていた。

無論それはコルネの愛剣・・・永年氷雪剣の刀身で、だからこそ切られればただでは済まないとわかった。

だからモモは多少の負荷はかえりみずに、無理矢理に避ける。


 そのとき、モモは斬られていないのに、一瞬、恐慌状態に陥りかけた。




 「・・・・・・・・・・・・っ」


 まるで斬られたかのような錯覚を覚える、鋭い剣気だった。

これが、ドグマだけが知っていた『彼女(コルネ)の本気』なのか・・・と戦慄した。


 そして、そこで戦意を喪失しかけたモモだったが、すぐに体勢をもちなおした。

ちらりと目だけを動かしてリョクを確認すると、今まさにドグマとの戦闘が始まっていた。

モモはコルネが向かってくるのをギリギリ視認して構えた。

 幸い、リョクが受け持ってくれているのでドグマの乱入の心配はない。

今はコルネだけを見ていればいい。



 そんな考えを『甘いな』と切り捨てる声。

文字通り()()()()()()()()()()()()モモは、自身が吹き飛ぶことは免れたものの槍を手放す羽目になる。


 「え、 そんな」


 モモは一瞬だけ表情(かお)を驚愕に染めたが、すぐに真顔に戻ると舌打ちをした。

いささか面白味に欠ける現状に、エイトがいないことを惜しく思う。


 空気を読まずに攻撃してきたのは、はりつけた笑みを、嘲笑するかのようにモモとリョクに向けている黒嵐竜で・・・全快してるからか、なんか、・・・


 「負ける 気が・・・」


 モモは表情を一切崩すことなく、しかし大量に冷や汗を流す。

黒嵐竜は翼を一度だけはためかせた。

 ばさり。

 巻き起こる風は竜巻のよう。

それが合図だったかのように再び吹き荒れる黒嵐に、モモは心底うんざりした。


あと一、二話進んだらエイトの方も書きたいと思ってます。

エイトサイドは色々と濃くなる・・・ハズ

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